ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》

ホンダは12日、『S660』を2022年3月に生産を終了するのにともない、最終モデルとなる特別仕様車「S660 Modulo X Version Z(モデューロX バージョンZ)」を発表した。専用内外装で6MTのみの設定で、価格は315万0400円(税込み)。

S660は『ビート』の後継として2015年に発売された。2シーターオープントップという独特なボディに、スポーティなエンジンや足回りでコアなファンの人気は絶大のモデルだ。そもそもS660が開発されたのは、ホンダならではの社内サクセスストーリーがある。

当時22歳の若手エンジニアが社内コンペで応募した車がその原型だ。当時はコンペデザインとモックのみだったが、そこは、ホンダの社風というか、当人は会社に内緒で勝手にプロトタイプを作り始めたという。開発を進めるうちに会社にも知れることになるが、プロジェクトは続行される。東日本大震災の影響で開発は困難を極めたというが、2013年の東京モーターショーでビートの後継としてコンセプトモデルを発表すると、S660は大反響を呼び、開発と市販化が一気に進んだ。

S660の生みの親、椋本陵氏は26歳という若さでS660の開発責任者にも抜擢されている。

専門誌まで作られ、オーナーイベントでは「よくぞS660を作ってくれた」と開発者がお礼を言われるほどの車だが、時代の変化には逆らえず生産終了が決定された。非常に残念な決定だが、これまでも惜しまれながら消えて行った車種は数知れない。これも、時代を担った車種であるがゆえの宿命ということだろう。

ホンダによれば、S660は2022年3月で生産が終了。受注はそれより前に終了する可能性がある。この発表により注文数が3月までの生産計画を上回るような事態になれば、最終受注は前倒しになる。もちろん、生産終了後も在庫があれば新車の入手は可能だろうが、もともとマスマーケットよりこだわり市場向けの商品だ。数は限られるだろう。

ホンダがS660の生産をやめる決断を下した背景には、複数の要因がある。主に法規制に関するものだが、たとえば軽自動車にも義務化される緊急自動ブレーキなどの装備がある。安全のためには必要な装備だが、S660のようにスイートスポットで設計、チューニングされた車に電動ブレーキや各種センサーの追加は簡単ではない。他にも燃料揮発に関する規制強化、騒音規制など、電動化への転換も求められる軽自動車において、S660はさらに厳しい要件が突きつけられたことになる。

下手に規制対応するためセンサーや電子機器を後付けし、操縦性や開放感などS660のアイデンティティを損なうくらいなら、晩年に醜態をさらすような車にするなら、ここで引退させてあげようという、ホンダの英断は評価されるべきだろう。

なお、S660の後継モデルについては予定はない(ホンダ広報部)とのことだが、1970年代、マスキー法による排気ガス規制もCVCCエンジンによって、いち早くでクリアし、2021年、世界初のレベル3自動運転車両を市場投入できるホンダだ。新しい規制や社会情勢のもとでもきっとS660に負けない個性的な車を出してくることだろう。

ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 最終モデルとなる特別仕様車「S660 Modulo X Version Z(モデューロX バージョンZ)」。ネーミングは、Zがアルファベットの最後の文字であることと、ビートにもバージョンZという特別仕様車があったことから付けられたそうだ《写真撮影 中野英幸》 最終モデルとなる特別仕様車「S660 Modulo X Version Z(モデューロX バージョンZ)」《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 ホンダ S660《写真撮影 中野英幸》 S660の生みの親、本田技術研究所・椋本陵氏《写真撮影 中野英幸》 当時22歳の椋本氏が社内コンペで応募した車がS660の原型《写真撮影 中野英幸》 コンペデザインやモックにとどまらず、会社に内緒でプロトタイプを作り始める《写真撮影 中野英幸》 コンペデザインやモックにとどまらず、会社に内緒でプロトタイプを作り始める《写真撮影 中野英幸》 プロジェクトは続行され、製品化へ。チームには多くの若い社員が志を持って集まったそうだ《写真撮影 中野英幸》 2013年の東京モーターショーでビートの後継としてコンセプトモデルを発表《写真撮影 中野英幸》 テストを重ね製品化へ《写真撮影 中野英幸》 オーナーイベントでは「よくぞS660を作ってくれた」と開発者がお礼を言われるほど《写真撮影 中野英幸》