スズキ ソリオ 新型《写真撮影 青山尚暉》

日本の道にジャストなサイズ、使い勝手が魅力のコンパクトトールワゴン、プチバンの代表格がスズキ『ソリオ』。5ナンバーサイズでもあえて幅狭のボディ(1645mm)、両側スライドドア、低床、そしてスーパーハイト系軽自動車=『スペーシア』などにも見られる工夫による広大な室内空間といった生活密着のパッケージが魅力の1台だ。


その4代目となる新型は、ボディサイズを扱いやすさを損なわない範囲で拡大。ボディ全長を伸ばした分は、先代ユーザーの声に誠実に応え、ラゲッジルームの奥行(+100mm)に充てられている。ライバルの3気筒に対して4気筒となるアドバンテージを持つ1.2リットルのパワーユニットは、コスト高になり、ラゲッジルームの床下収納が犠牲になるフルハイブリッドをやめ、マイルドハイブリッドを基本としている(ガソリン車もあり)。

エクステリアデザインは、なるほど新型らしい。ボンネット高を上げ、今風の堂々としたフロントマスクが与えられたことで、車格感は格段にアップ。標準車とカスタム系のバンディットと顔つきが異なるのはもちろんだ。

◆ラゲッジルームの奥行拡大のメリットは絶大


運転席に乗り込めば、センターメーターはドライバー側に向けられ、視認性が高まり、さらにカラーヘッドアップディスプレイも用意。運転視界から目をそらさず視認できるヘッドアップディスプレイには各種インフォメーションのほか、ナビの簡易案内も表示され、ルート案内が一段とシンプルに分かりやすくなっている。もちろん、運転席周りの収納は豊富すぎるほどで、USBソケットも完備。

6エアバッグを標準装備し、安全性にもぬかりなし。前席左右スルー、前後席間スルー(シート間にバッグなども置ける)も可能で、使いやすさはもう抜群と言っていい。運転席左シートサイドのスマホポケットの便利さ、USBソケットとの位置関係に関しては、もう感動ものである。

こうしたコンパクトトールワゴン、プチバンは、室内空間が広大で、窓の面積も大きくなるため、夏場の空調、とくに後席の暑さが気になるところだが、スペーシアにも採用されているスリムサーキュレーターを用意。前後席の温度差を低減してくれる効果があり、後席の乗員、あるいは後席に乗った、常時毛皮着用で暑がりのペットも、1年中、快適にドライブが楽しめるはずである。


そうそう、フルハイブリッドをやめ、ラゲッジルームの奥行を100mm拡大したメリットは絶大だ。後席は165mmスライドし、前端位置にセットすれば、なんと5個(乗車定員5人分)の小型スーツケースを無理なく積み込むことができるようになったのだ。しかも、助手席に小さなリチウムイオンバッテリーを置くマイルドハイブリッドゆえに、ラゲッジルームの床下には広大なサブトランクが確保され、こちらも小型スーツケースがすっぽり収まるスペースがあるほどだ。

コンパクトトールワゴン、プチバンだけにシートアレンジ性も文句なし。前後席フラット化によって仮眠、車中泊も可能で、純正アクセサリーに車中泊対応アイテム(カーテンやリラックスクッションなど)が豊富に揃っている点にも注目したい。

◆乗り心地はこのクラスとしては例外的な上質さ


新型ソリオのマイルドハイブリッドモデルを走らせれば、ステアリングは軽く扱いやすく、さすが、微力とはいえモーターアシストを持つ4気筒エンジンならではのスムーズな出足、そこからのゆとりと静かさが際立つ加速力に満足できる。乗り心地はこのクラスとしては例外的な上質さあるものだった。

その理由は、ボディ剛性UPに直結する構造用接着剤を各所に用い、先代では前側だけだったサスペンションのウレタンブッシュを前後に奢ったほか、高応答タイプのダンパーを使い、リヤサスのストロークをUPするなど、徹底した走りの磨き上げが行われているからだろう。結果、実にマイルドでしなやかな乗り味を示し、とくにマンホールや段差越えでのいなし方はクラスを超えていると言っていい。


今回、約300kmのロングドライブも経験したが、前席のシートのかけ心地の良さ、上記の乗り心地の良さ、そして車内のクラスを超えた静かさから、運転、乗車にかかわる疲労度は最小限。帰宅してすぐにこの原稿執筆に取り掛かれたほどである。

その車内の静かさは、すべてのピラーに発泡剤=バッフルを充填し、リヤフェンダー内にライニングを追加したことで、ロードノイズを低減したことも大きいのだが、試乗中に大雨に見舞われた際も、車内の静かさに大きな変化がなかったのは、ルーフに高減衰マスチックシーラーを用いたことで、雨がルーフを叩く音が低減されているからだと推測できる。


試乗中、後席にも座ってみたのだが、僅かとはいえ、ボディの拡大の恩恵を実感できた。具体的には、身長172cmの筆者のドライビングポジション背後に座ると、頭上に215mm、膝周りに最大360mmという、広すぎるほどのスペースこそ先代と大きく変わらないものの、後席左右に着座した場合、肩周りの余裕を実感できたのである。実は、車幅を拡大したことで、左右乗員のちょうど肩部分の壁面をえぐることが可能になったというわけだ。

◆多頭飼育の愛犬家にもぴったりな1台


もちろん、12種類以上に及ぶスズキ・セーフティサポート=先進運転支援機能も最新バージョンに進化。6エアバッグの装備もあって、安全性、安心感は文句なしのレベルにあると言っていいだろう。

ただし、ACC(アダプティブクルーズコントロール)が用意されていても、電子パーキングブレーキは未採用で、渋滞停止時の停止保持機能はなく(2秒程度でACC機能解除)、また、信号待ちやスーパーマーケットなどの料金所で絶大なる威力を発揮してくれるオートブレーキホールド機能も未搭載なのが惜しまれる。オートブレーキホールド機能はとくに市街地走行、お買い物に出かける機会の多い女性や、足の筋力が衰えてきた高齢者にも有効なだけに、ぜひ、早期の機能追加を期待したいところである。


もっと言えば、スピードコントロールがしやすくなり、下手にブレーキを踏むよりスムーズな減速が可能で、ブレーキパッドやタイヤの摩耗低減にも効果があるパドルシフト(スペーシアなどにはある)が廃止されたのも、残念な点だと思えた。

とはいえ、新型ソリオは誰にでも薦められる、安全性、快適性、実用性に満ちたコンパクトトールワゴン、プチバンであることは間違いない。アウトドア派から、愛犬とドライブに出かける機会の多い、小型犬から、大型犬、多頭飼育(後席格納によって)の愛犬家にもぴったりな1台である。

なお、高速道路を中心に約300kmを走行した実燃費は、WLTC総合モード19.6km/リットルに対して17.6km/リットルと極めて優秀だった。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★
ペットフレンドリー度:★★★★★

青山尚暉|モータージャーナリスト/ドックライフプロデューサー
自動車専門誌の編集者を経て、フリーのモータージャーナリストに。自動車専門誌をはじめ、一般誌、ウェブサイト等に寄稿。自作測定器による1車30項目以上におよぶパッケージングデータの蓄積は膨大。ペット(犬)、海外旅行関連の書籍も手がけ、また、愛犬とのカーライフに関するテレビ番組、ラジオ番組、イベントに出演。愛犬との快適・安心自動車生活を提案するドッグライフプロデューサーとしての活動、自動車用ペットアクセサリーの企画・開発も行っている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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