ルノー ルーテシア 新型《写真撮影 小林岳夫》

僕が知る限り、フランス人は欧州で最も「小さいクルマ」が好きな国民である。その証拠にフランスは自動車先進国にもかかわらず、高級車やスーパーカーなどのメーカーがない(例外的にブガッティのような超エクスクルーシブなブランドはあるが)。

それは「クルマは道具であり、必要にして十分であればいい」というフランス人の思考の表れだろう。だからこそフランスは「小さいクルマ」造りに長けている。高性能で高品質なドイツ車や日本車であっても、ことコンパクトカーに関してはフランス車には敵わないのではないか、と思う。


◆ルーテシアの"大革新" その中身とは?

ルノー『ルーテシア』はそんなフランスを代表するコンパクトカーだ。メルセデス『Aクラス』やVW『ポロ』などが属する欧州Bセグメントにおいて、ナンバー1の販売を誇っている大ヒットモデルである。その"フランスのお家芸"たるルーテシアが2019年に新型へとモデルチェンジした。

日本ではまだまだニッチな存在であるフランス車だが、欧州ではベストセラー車のモデルチェンジゆえ一大事なのだ。ちなみに初代ルーテシアのデビューは1990年で、今回で5代目となった。


新型ルーテシアと初めて対面した第一印象は、精悍でシャープ。実用のハッチバック車というよりスポーツカーに近いと感じた。いっぽう先代モデルである4代目ルーテシアのイメージが色濃く受け継がれていて、パッと見は「お、変わったな」という印象は受けなかった。エクステリアデザインについてはベストセラーモデルである先代のコンセプトを上手く受け継いだのだろう。

というのもルーテシアは2012年に登場した4代目からデザインが大きく変わった。新たなデザイナー、ローレンス・ヴァン・デン・アッカーを迎え、従来よりぐっとスポーティーかつエモーショナルになったのだ。その4代目の成功を受けて、5代目へのチェンジにさいしても大きく変える必要はないと判断したのだろう。それはユーザーにとっても喜ばしいことだ。


とはいえその中身については、車体プラットフォームをはじめ、エンジン、足まわりなどすべてが一新されている。興味深いのはボディサイズ。全長4075 全幅1725 全高1470mmと、先代より全長と全幅が小さくなっているのだ(全高は若干高くなった)。昨今のモデルチェンジでボディサイズが小さくなるのは珍しいが、新型ルーテシアではそのことがエクステリアデザインに力強さと凝縮感をもたらしているし、取り回しや使い勝手を考えればダウンサイジングはよいことだろう。


◆ベストセラーモデルの王道的、外しのないモデルチェンジ

フロントマスクでは「C」のカタチを描くデイタイムライトが特徴だ。ちょうどアイメイクのような効果があり、先代より“目ヂカラ”が増している。いっぽうサイドおよびリアビューは、先代を並べて見比べたりしなければ、にわかに違いはわからないだろう。

リアに向かって切れ上がっていくウィンドグラフィック、後席ドアのハンドルをCピラーに隠してクーペのように見せる手法、ボディ下部をえぐるようにしてシャープさを演出した造形など、デザイン的には先代を踏襲しながら、もちろん各部のブラッシュアップは行われている。

いざ車内に乗り込むと"なるほど!"と思わされた。こちらは先代とは大きく印象が変わっているのだ。一言でいうなら質感がグっと向上し、チープさがなくなった。試乗したのは「インテンス・テックパック」という最上位グレードだが、フルレザーのシートが備わり、室内全体にソフトパッドが施され(つまりプラスチック剥き出しの部分がほぼなくなった)、ホワイトが効果的に配されたカラーリングが明るくスタイリッシュ。

前述したようにフランス人は「必要にして十分」をもってよしとする思考があり、かつてはフランス車の内装も「ちゃんと使えれば、見栄えなんて関係ない」とばかりにプラスチッキーで、見かけは正直、かなりチープだった。だが、そんなところを"アバタもエクボ"として好んできた心情的フランス車派の僕としては、新型ルーテシアには隔世の感があるが……、とはいえ、これは歓迎すべき進化である。

そしてインテリアを見て、あらためて新型ルーテシアの"狙い"を理解した。外観デザインの魅力はキープし、ブラッシュアップ。そして質感、快適性、安全性などを大きく向上させる。つまりベストセラーモデルの王道的、外しのないモデルチェンジであり、それがこの5代目ルーテシアなのだ。



◆ADASフル装備、BOSE、CarPlay、Android Autoも装備

ユーザーにとって気になるだろう安全面では「ADAS」と呼ばれる安全運転支援システムがフル装備され、ようやくドイツ車や日本車にヒケをとることがなくなった。具体的には全車速対応アダプティブクルーズコントロール(ACC)、自動ブレーキ、車線逸脱警告、制限速度や追い越し禁止の道路標識認識、後側方車両検知(ブライドスポットモニター)などが標準装備された。加えて最上位のテックパックにはACC走行時に車線中央をキープする「レーンセンタリングアシストおよび駐車時などに重宝する「360°ビューカメラ」も備わる。

快適装備ではエンジン出力特性、7速ATのシフトパターン、ステアリングフィール、室内照明、空調などを統合的にコントロールできる「ルノー・マルチセンス」が売りだ。「My Sense」モードではすべてのモードを自分好みにカスタマイズすることもできる。コントロールはコンソール中央の7インチタッチパネルで行うが、スマホを接続することでパネルに「Apple Car Play」や「Android Auto」などのナビ画面を映し出すこともできる。

個人的に嬉しかったのは「BOSE」製オーディオの採用だ。「Fresh Air Speaker」という小型サブウーファーを搭載することで、室内スペースを犠牲にすることなくパワフルなサウンドを実現したそうで、低域を再生する4つのウーファー、高域を再生する4つのツイーター、計8つのスピーカーを贅沢に配する。

実際に音楽を聴いてみたが、触れ込みどおりかなりしっかりとした低音が出る。ボリュームを上げてみても音の「割れ」などなく、ひと昔前ならカーオーディオショップで、それなりの金額をかけてセッティングしなければ鳴らなかったようなクリアで迫力あるサウンドが楽しめるのは感激だ。とくにポップスやロックなどの端切れのいい音を聴くには最適なオーディオシステムだろう。

◆今後注目されるフレンチコンパクト 気になるのはやっぱりプジョー208の存在


実はこの新型ルーテシアに試乗する少し前、欧州Bセグメントのライバルであり、同じくフルモデルチェンジを受けたばかりのプジョー『208』にも試乗したのだが、こちらも出来のよさに感激したばかりだった。208の外観は先代よりグッとスポーティーになり、デザイン的にもサイズ的にもルーテシアと非常に近しい存在になった。

とはいえ、2台には明確なテイストの違いがあり、それがそれぞれのキャラクターであり魅力になっている。個人的に感じた印象を端的に言うなら「若々しくスポーティーなルーテシア」と「落ち着きと洗練を感じさせる208」だろうか。

いずれにしても、センスのよい内外装デザイン、キビキビとした走り、しなやかな乗り心地、といったフレンチコンパクトの伝統はそのままに、ドイツ車や日本車に遅れをとっていた安全運転支援やインフォテイメントシステムなどが充実したことで、日本においては「クルマ好き向けのニッチカー」という存在から、幅広いユーザーに選んでもらえるモデルになったと思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

河西啓介|編集者/モータージャーナリスト
自動車雑誌『NAVI』編集部を経て、出版社ボイス・パブリケーションを設立。『NAVI CARS』『MOTO NAVI』『BICYCLE NAVI』の編集長を務める。現在はフリーランスとして雑誌・ウェブメディアでの原稿執筆のほか、クリエイティブディレクター、ラジオパーソナリティ、テレビコメンテーターなどとしても活動する。

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