日産 アリア《写真提供  日産》

日産『アリア』のインテリアは、エクステリアと同様に、ジャパニーズDNAを感じさせるデザインを採用。それは照明などにも気が配られているという。そこで、インテリアデザイナーに具体的にどういう思いでデザインしたのかについて話を聞いた。

◆理想の1台を作りたい

アリアの開発は先行ステージを含めると2016年の半ばくらいからスタート。そこから生産化まで担当した日産デザイン部マネージャーの田子日出貴さんは、「デザイナー冥利に尽きる」とコメントする。近年は異動などから最初から最後までデザイナーとして関わるのは稀なのだ。

実は田子さんは面白い経歴を持っている。現在はインテリアデザイナーだが、入社時はエクステリア、その後インテリアやカラー、アーキテクチャーと呼ばれる外装の骨格やパッケージ作り、そしてコンセプトデザイン、コンセプトの立案など一通り経験しているのだ。そういう経緯もあり、「(アリアは)ゼロスタートで作るクルマなので中心になってやって欲しい」と指名されたそうだ。田子さんは、「専門性は浅くなるが、幅広く包括的に見られるのでバランス良く出来ると思っている」という。

アリアを担当した田子さんは初めに、「シンプルに自分で欲しいクルマを作りたい」と考えた。いろいろ制約はあるが、「いちからということはやりたい姿をピュアに作れる機会。まず自分が培ってきた経験を全て出し切り、理想の1台を作りたいとシンプルに思った」と明かす。

そこで最初に取り組んだのは、「車体設計と一緒にプラットフォームの基礎になるフロアから作った」と述べる。「EVでフラットフロアをウリにしているが、そのためにバッテリーのレイアウトだけではなく、エアコンダクトの配管や、ハーネス類の通し方も監修した」と田子さん。それらを見ながら、「これ以上膨らむと凹凸がひどくて足に違和感を覚えたり、フラットとはいえないというところまでレイアウトと一緒にやった」とのことだ。

◆積極的に選ばれるクルマ、愛車になるために

では、田子さん自身が欲しいクルマとはどういうものだろう。それは、「見て良し、乗って良し、愛着が持てるということが一番大事」。例えば、「いまの日本車はマーケットのニーズからこういうのが必要だといわれてその通りに作るが、それだけでは積極的にこのクルマを選びたいという理由にはならない」と田子さん。「これはまさに私だけではなく、商品の責任者も常日頃からいっていることで、大事にしたいことだ。積極的に買いたい、このクルマじゃないとダメだというものを作っていくことを一番大切にした。それを商品コンセプトやデザインコンセプトに反映させた」と話す。

あえてハードルを上げたのは、「例えば簡単、便利、エコみたいなキーワードだけで作ると、それよりも簡単なクルマ、それよりもエコなクルマが出た瞬間に、勝ち目がない、古いものになってしまう」。そこで田子さんは、「性能ではないところも良さがある。古いイタ車だと、エンジン音が官能的だとか、運転する楽しさなど他では味わえないフィーリングは、たとえどんなに性能の良いクルマが出たとしても、自分はこれだなと思える。そういうものを作り手側の思いとして詰め込んでいった」と教えてくれた。

つまり、田子さんたち開発陣は、マーケットインが基本の中で、“愛車”を目指して開発したのだ。「愛と付くプロダクトはクルマぐらいだ。愛用する道具が数ある中で愛車という言葉を付けるということは、それだけ使い手のパーソナリティを反映する製品だ。その思いがないとただの道具になってしまう。いちから作るこのクルマに我々日産の思いを詰めて、使ってくれている人に、あぁこれは日産車だよと思ってもらいたい。そこをすごく大事にしてきた」。

そのために、「マーケットニーズからは本来上がっていないようなアイデアをいっぱい詰めている。実はそういったところがワールドプレミアをして反応を見てみると、刺さっているなと思う。我々としても嬉しいのは、その刺さっているポイントがまさに最初にいったこういうのを作りたいというところだった」と語った。

◆かぶく、粋を取り入れて

その日産車だというところをアリアではどう表現されているのか。田子さんはキーワードで「“かぶく”だ。普通じゃない、しかし奇抜で受け入れられない普通さではなく、なんだか使ってみるとすごく良いねというところがある。別の言葉では“粋”。日産車で過去受け入れられたエポックメイキングなクルマには例外なくそういう要素が入っていた」。

これは、「単純に他社よりもここが優れているということ以上に、愛着のわくポイントがそのクルマに一番適した表現として入っていることを田井(グローバルデザイン本部エグゼクティブ・デザイン・ダイレクターの田井悟さん)がプレゼンしたことがあり、すごく腑に落ちた。それをEVにとってみるとどうなんだろうというところからスタートした」と述べる。

一方、「『リーフ』はとてもバランスのとれた良いクルマである一方、そういう観点ではマーケットからのニーズが先行してクルマという姿の方が大きいかなと思う」と話す。

◆モダンリビングからモダンラウンジへ

そういったことを踏まえながらスタートしたアリア。インテリアのデザインコンセプトは、「モダンラウンジ。日産のインテリアでは一昔前、モダンリビングで展開していた」と田子さん。そこからラウンジに変化したのは、「どんな方にも変わらない居心地の良さを提供したい」という思いからだ。

リビングだと、「座っている場所や、好みのリビングは人それぞれで変わってしまう。一方ラウンジになるとそこの空間にいる人全てが同じ変わらない気持ち良さが提供出来るので、そうしたいと思った」と説明。そして、「何よりも全体をひとつの空間で見せたい、乗員それぞれで違った空間というよりは全員でひとつの空間を共有することがコンセプトだ」と述べる。

その結果、センターコンソールもインパネと接触させないなどの配慮がもたらされた。田子さんは、「車格が上のクルマほど立派なコンソールがインパネと繋がり、しっかりと作る。しかし、その価値観を出していくと従来と変わらない。何よりもEVで新しく起こした骨格の良さ、旨味を活かせないので、ミニマムにしつつも実際に使う時にはいままでの大型コンソールに比べて不満なく、むしろ使い勝手は上がっていると見せたくて、スライドするコンソールを提案した」とコメント。

また、インパネの中心部分のスイッチレイアウトも変わった。「実は数えてもらうとこれまで日産が使ってきたスイッチの数と機能は変えていないので、実用性は一切犠牲にしていない」と田子さん。また、タッチスイッチも触るとハプティックを使っているので、「操作性に関しても一切犠牲にはしていない」という。

ただし表現は変えている。「付けるべきものは付け、最適な位置に配しているが、その表現は機能をこれ見よがしに見せるのではなく、上手く空間に溶け込ませる方向にハイテク技術を使っている」とのこと。田子さんは、「これだけすごい新設備を入れたら普通は見ろという感じで加飾をおごったり、ましてや一等地なので目立つような処理をしたりするものだが、そこは逆に周囲に溶け込ませて使いやすく、必要に応じて使えれば良い。そこに集中した結果として新しくなった」と話す。

◆室内照明のこだわり

エクステリアのフロント周りでは日本伝統の組子パターンを用いている。実は内装の照明のパターンもそこは揃えられた。そこにはかなりのこだわりが感じられる。「ドアトリムと足元に照明が入っているが、いわゆる従来的なクルマだと光源を隠してうっすらと明るいというのが主流だ。しかしアリアは思い切り見せている」と田子さん。

エクステリアとは逆に穴を開けた組子柄で、その裏から光を通すことで、「実際の行灯照明と同じように裏から木漏れ日のようにシルエット越しに光が漏れる構造だ。その見せ方もインテリアの空間を落ち着かせるという雰囲気作りに効いている。また、奥行き表現を持った光なので、これも空間の広さ感に寄与している」と説明。田子さん曰く、「光に意匠性を持たせるところが新しい表現だ」とのこと。いままでインテリアの照明は、「光っているかいないか、あるいはせいぜい線で光っているかどうかぐらいだった。しかしアリアは明確なデザイン性を持った光を入れるというのは新しい」と述べる。

ここで重要なのは、「結果として組子はモチーフとして使ってはいるが、そちらが主ではなく、考え方が日本的な良さをもとに作っていった結果、細部で一部にそういう表現も入れたということで、これまでとは違う」とこだわりを語った。

◆軸を通して

また、インテリア全体としては軸を1本通すことで心地よさを演出している。それは、「インストの中心付近(中央の電源ボタン)に軸が1本通り、その中心のキャラクターラインが、ドアをまたいでBピラー、後席のカットまでひとつの形としてきっちり繋いでいる」と田子さん。

これは、「空間の軸をしっかり作るとすごく心地よくなるからだ」という。通常インテリアはそこがどうしても通らない。人が座って使うものなので、ハードポイントがあり、それがまちまちに配されるからだ。しかしアリアは、「そのハードポイントの針の穴をばしっと通しているので、シンプルだがちゃんと座ると心地いい空間になった」。

このようなレイアウトにすると、「ミニマルなだけで、寂しさが出てしまう。しかしアリアで頑張ったのは寂しさではなく、キーワードでいう“間”。日本の空間はシンプルでありながら居心地の良さを作っている。それを作るためには形と素材の両方を見ながら、通すべきところに軸を通すことを考えている」とコメントした。

◆一枚ガラスを使うことで

インパネ周りではもうひとつ大きなこだわりがある。それはモノリスと呼ばれる1枚のフラットディスプレイだ。実際に乗ると「目線の高さに対して水平で完全に高さが揃っている」と田子さん。

通常はメーターが低く、ナビなどのディスプレイの位置が高いので、アリアのようなレイアウトを作ろうとすると、人の座らせ方から変えなければ出来ない。また、そこが決まると、当然視線の影響があるのでメーターの位置やディスプレイの高さが決まってしまう。アリアは、「そこをいちから作り直し、自然な高さに画面とメーターをきっちり揃えられたのは、新しくゼロからパッケージを設計出来たからこそ実現出来た」とこだわりを語る。

さらにメーターとナビ画面とではS字に緩やかなカーブを描いて繋がり、ナビ画面の方が手前に出て来ている。これは、タッチ画面の操作を無理なくどの姿勢からでも指が届くようにしたかったからだ。他メーカーは別のコマンダーなどをセンターコンソールなどに用意しているが、「スマホ全盛期、タッチやボイスが当たり前の時代に、わざわざ別に手元のコマンダーを設け、指先で操作しながら画面を見るというのは時代の価値観と違う。そこで視線だけではなく、使い勝手でもシームレスで使えるようにという思いで実現したのがS字カーブのディスプレイだ」と説明。

この画面自体の表側は本物のガラス一枚で出来ている。ガラスを使う場合、フラット部分のみでカーブではアクリルやポリカを使うことが多い。しかしアリアでは、「ガラスの成形でちゃんと出来る形にしつつ、一枚のつなぎ目なしのガラスで作った」。

これは、見た目の綺麗さとともに、「オプティカルボンディング、スマートフォンなどはガラスと液晶を直接繋いでおり、そうすると画面自体がすごく見やすくて綺麗、かつ実用性も高い。逆にアウターレンズのようなカバーにしてしまうと、エアキャップが発生してしまって画面とレンズの間に空洞が出来てしまう。それはS字にすればするほど横から見た時に目立ってしまい、見た目も悪いし実際に見づらいということもあり、そこはガラスだろうということで死守した」と話す。

実際にお金がかかったというが、「このような説明をすると皆納得し、高くても価値があるだろうとなった。値段をケチって樹脂にするよりも、ガラスを押し通した方が、ひいてはお客様のメリットも多く、そういう良い製品を提供することで、日産のブランド価値も上がるというと、皆納得してくれた。そういう選び方をしてくれたのはありがたい」と語った。

日産 アリア《写真提供  日産》 日産 アリア《写真提供  日産》 日産 アリア《写真提供  日産》 日産 アリア《写真提供  日産》 日産 アリア《写真提供  日産》 日産 アリア《写真提供  日産》 日産 アリア《写真提供  日産》 日産 アリア《写真提供  日産》 日産 アリア《写真提供  日産》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》 日産 アリア《写真提供  日産》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》 日産 アリア《写真撮影  内田俊一》