トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 中野英幸》

“ヤリス○○”というと、初代『ヴィッツ』の一員としてあった欧州仕様『ヤリス・ヴァーソ』(日本名『ファンカーゴ』)を思い出す。和製『ルノー・カングー』的だった、ライフスタイルのアクセントになる多用途車で、今、また作り直して欲しいとも思う。

◆ヤリスが黒豆ならヤリスクロスはフランスパン


さて今年2月に発売開始された『ヤリス』のファミリーとして登場したのがこの『ヤリスクロス』。チーフエンジニアの末沢泰謙さんによれば「計画は当初からあった。クロスカントリーっぽくラギッドな『ライズ』に対し、『ヤリスクロス』は都市型のシュッとしたモデル。ちょうど『RAV4』と『ハリアー』の関係と同じ」という。まさしくトヨタのSUVラインの布陣は、かくしてまた増強されたという訳だ。

ベースの『ヤリス』は、デザインを担当された中嶋孝之さんの話によれば“お節料理のプクッと艶やかで美味しそうな黒豆”が着想の原点ということだった。だとしたらコチラの『ヤリスクロス』は、さしずめ“都心のデパ地下のパン屋で売っているフランス直輸入の生地で作られたクロワッサン”といったところか。そのココロは、コンパクトでスッキリとしていて、どこかヨーロピアンなムードも感じられるからだ。

実際のところは『ライズ』と較べた場合にガソリン車同士(とHVのベースグレード)で価格がオーバーラップするものの、ボディサイズは『ヤリスクロス』のほうが全長(+185mm)、全幅(+70mm)など一回りゆとりが大きい。欧州のCAFE(企業平均燃費基準)を考慮し空力対策も入念というせいか、よりグローバルカーの趣も感じる。



◆スタイリングもゆとりもヤリスとは別モノ


スタイリングはハッチバックの『ヤリス』とはまったく別モノ。ただしドライビングポジションはハッチバックと共通で、車高アップ分、高い位置に座っている形だ。後席は座面クッションの厚みが20mm追加され見晴らしのいい着座位置に。『ヤリス』と較べると頭まわりのゆとりも増えている。

驚いたのは前席にパワーシートの設定があることで、シンプルな1モーター方式で実現したという。ただし特殊な構造をとるためか、試乗車の範囲でもクルマ(個体)により操作時に立つメカ音にバラつきがあったほか、シート横のスイッチも、ブラインド操作に適した配置、スイッチ形状、ストローク量かどうか、さらに検討を加えてほしいとも思った。


ゆとりといえば「いざという時に何でもできるようにしておきたかった」(末沢チーフエンジニア)ということでラゲッジスペースには70〜80リットルのスーツケース2つ、またはゴルフバッグ2つといった積載容量(スペース)を確保。後席は背もたれの中央部だけ倒して長尺物の積載も可能にしてある。

ラゲッジスペースもフロアボードがわざわざ“6:4”の分割になっていて、これは片側だけフルフラットにした状態でシートバックと高さを合わせたり、ラゲッジスペースに丈のある荷物を立てて載せる際に片側だけ床面を落として使う……といった利用の仕方ができるようにしたものだ。



◆乗って“いいクルマ感”が実感できる


走らせた印象は、よかった。とくにハイブリッド車は総じて乗り味がしっとりとしたものに感じられ(=ハイブリッドの試乗車同士で車重が+90kgの「E-Four」はさらにその傾向が強まる)、クルマがより上級に思えるのは『RAV4』の場合と同じ。

ハイブリッドの折々のパワーマネージメントもごく自然で連続性が損なわれず、一般道から高速走行まで、ハイブリッドを意識することなく、ドライビングにも特別なコツを要することなく、動力性能に余裕のあるクルマを快適に走らせている……といったところ。


ステアリングの操舵感も、重さ、レスポンス、しなやかさなどがちょうどいいし、ブレーキのタッチも不満はない。4WD車の“マルチテレインセレクト”を始め、雪道など路面状況の変化にも的確に対応してくれる機能の搭載も心強い。ガソリン車も闊達な走りを実現していて、3気筒エンジンの音と振動も『ヤリス』より気にならない。

着座位置を少し高めにセットすると、エンジンフード左右の、ボディの感覚を掴みやすい形状に作られた“稜線”が視野に入ってきて、安心してクルマを取り回せるのもいい。乗って“いいクルマ感”が実感できるクルマだ。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。

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