「LMWアッカーマン・ジオメトリ」を採用するヤマハ トリシティ300 ABS《写真提供 ヤマハ発動機》

◆“転ばないバイク”めざすヤマハのLMW


ヤマハ発動機がモビリティの変革に積極的だ。そのひとつに車体全体を傾斜させて曲がる3輪「LMW(リーニング・マルチ・ホイール)テクノロジー」がある。目指すのは、ずばり“転ばないバイク”だ。

フロントに2つの車輪があることから、前輪スリップによる転倒リスクを低減し、ブレーキ操作時の車両の安定感を向上。左右のタイヤがそれぞれ独立し動き、衝撃をしっかり吸収することから段差を乗り越えるときの安定性も高い。

2014年に『トリシティ125』が登場して以来、2017年に『トリシティ155』、2018年には845ccの水冷直列3気筒エンジンを搭載した大型スポーツモデル『NIKEN(ナイケン)』もデビュー。いずれのモデルも筆者はじっくり走り込んでいるが、ヤマハが目指すとおり乗っていて転ぶ気はしない。

◆LMW第4弾の目玉は「スタンディングアシスト」


8月24日、ヤマハ発動機はLMWシリーズの第4弾となる『トリシティ300』の新発売を発表。目玉は停車時などに自立をアシストする「スタンディングアシスト」機構だ。

自然なリーンを生み出すLMW機構のパラレログラムリンク上部に取り付けられたスタンディングアシストディスクを電動のキャリパーでロックし、車両の自立をアシストする仕組み。スロットル全閉、車速10km/h以下、エンジン回転数2000rpm以下でのみ、スイッチをオンにするとシステムが作動する。完全に自立させる機能ではなく、あくまでもサポートで、ライダーは車両を軽く支えるだけで済む。

また、アクセルを開ければ、システムは解除されるので再発進もスムーズ。さらにスタンディングアシスト機構は、車体の傾く機構のみをロックし、サスペンションの伸縮機能は維持するため、信号待ちなどの停車時だけでなく、押し歩き時に段差を乗り上げたり狭い場所での切り返しなどバランスの取りにくいシーンでの扱いやすさも高めている。

◆ナイケン譲りの「LMWアッカーマン・ジオメトリ」


そしてナイケン譲りの「LMWアッカーマン・ジオメトリ」を採用している点も見逃せない。車両をバンクさせると、前2輪の内側タイヤが外側タイヤより切れ込んだ角度になり、フロント左右輪の方向性に差が生じてしまうが、操舵軸とリーン軸をオフセットする「LMWアッカーマン・ジオメトリ」では、車体を大きくバンクさせても前後左右輪は同心円を描き、スムーズな旋回が可能となるのだ。

トリシティのユーザーは、通勤メインに使っていることを開発陣はリサーチ済みだが、LMWシリーズは排気量が上がるにつれて、ツーリング用途も増えていくこともわかっている。つまり、新発売の『トリシティ300』では通勤での機敏性や利便性だけでなく、ワインディングでの軽快感やスポーツ性能、高速道路での快適性も求められていく。

ホビーユースに応え、またそうした層をターゲットに設定するのにあたって「LMWアッカーマン・ジオメトリ」の採用は英断と言えよう。そこにはナイケンでも実証済みの、ヤマハらしいシャープなハンドリングがあるからだ。

もちろんシティコミューターという立ち位置だが、筆者は『トリシティ300』の運動性能(特に旋回力)が楽しみで仕方がない。発売は9月30日。早くワインディングへ連れ出したいのである。

ヤマハ トリシティ300 ABSのスタンディングアシスト《写真提供 ヤマハ発動機》 ヤマハ トリシティ300 ABS《写真提供 ヤマハ発動機》 ヤマハ トリシティ300 ABS(マットグレー)《写真提供 ヤマハ発動機》 ヤマハ ナイケン《写真撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《写真撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《写真撮影 佐藤靖彦》 ヤマハ トリシティ300 ABS《写真提供 ヤマハ発動機》