シトロエン C5エアクロスSUV ガソリン仕様《撮影  内田俊一》

シトロエン『C5エアクロスSUV』にガソリン仕様が追加されたので、早速300kmばかりテストに連れ出してみた。

◆さらにコンフォート性能の向上

積極的にモデルラインナップを追加展開しているグループPSAジャパン。特にSUVの導入は意欲的だ。そこに今回、C5エアクロスSUV(以下C5エアクロス)のガソリンモデルが追加された。その特徴は、より高い静粛性とディーゼルよりも120kg軽量な車体重量により、シトロエンの最大の美点であるコンフォート性能をより静かでより軽快な方向に伸ばしたことにある。

搭載されるエンジンはPureTech 1.6リットルガソリンターボエンジンで、ツインスクロールターボ(ツインターボではない)によって低回転域からのレスポンスの良さとともに、高いパフォーマンス(180ps/5500rpm 250Nm/1650rpm)を発揮する。当然のことながらガソリンエンジンならではの静粛性と、よりシャープなエンジンのフィーリングが楽しめるという。注目の価格はディーゼルエンジンモデルの同グレード比で22万9000円安い409万円。


また、ガソリンモデル投入のタイミングで純正装着タイヤが変更された。ディーゼル導入時は235/55 ZR18のオールシーズンタイヤだったものから、今回のガソリン導入のタイミングで、225/55 ZR18のサマータイヤへと仕様変更された(ディーゼルも同時変更。今回のテスト車はミシュランプライマシー4)。従って、一般路での快適性、静粛性、燃費性能がさらに向上している。

C5エアクロスで最も注目すべきは、PHC(Progressive Hydraulic Cushions=プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)だ。シトロエンによると、サスペンションテクノロジーにおける最新のイノベーションだとし、魔法の絨毯のような乗り心地を実現しているという。

このテクノロジーは1994年のパリ・ダカールラリーで優勝したシトロエン『ZXラリーレイド』で投入され、その後2000年代から2019年までのシトロエンのWRCカーに採用されている技術をベースにされた。つまり、様々な路面状況に対応しつつ、ドライバーをドライビングに疲れなく集中させるために乗り心地も向上。さらに耐久性も高められたサスペンションに仕上がっているというのだ。

シトロエンはこのメリットを
・“魔法の絨毯のような”極めてソフトな乗り心地
・余計なサスペンショントラベルを減らし、快適性の向上
・純機械的なメカニズムのため高い信頼性
と挙げており、試乗前からその乗り心地に期待が高まった。

◆乗りやすいエンジン。左ハンドルのままのレイアウトは「?」


では早速走り出してみよう。PSAグループジャパンの広報車デポでクルマを受け取り、乗り込もうとしてはっとした。ドアがサイドシルを覆うように仕立てられているのだ。これは特に車高の高いSUVでは大きなメリットになる。サイドシルがむき出しの場合、そこが雨や泥などで汚れてしまうと、乗り降りの際にパンツやスカートの裾が触れて汚れてしまうことがままあるのだ。しかし、きちんと覆われているので、サイドシルが汚れることはなく、従って仮に裾が触れたとしても、そうそう汚れることはなく大いに評価すべき点といえる。

幹線道路に出るまでに細い路地を慎重に走り始めた時に、大きく2つのことに気付いた。まずひとつは、とても足がしなやかということ。そしてもうひとつは車幅、特に左側がつかみにくいということで、これは最後にクルマを返却する時まで気になってしまった。

幹線道路は比較的早いペースで流れていたので、そこに合流後若干流れをリードするくらいで走らせていると、アクセルの踏み込み量に対してレスポンス良くトルクとパワーが出てきて、気持ちよく流れに乗って走らせることが出来る。さらに、信号からのスタートダッシュも車重が軽いこともあり、ディーゼルのC5エアクロスよりも軽々とクルマを希望の速度域まで連れて行ってくれた。


一方、ブレーキのフィーリングに関しては気になるところだ。走りながらの微妙な減速では問題はないのだが、停止寸前になった際のコントロールが微妙で、カックンと止まってしまいがちになるので、微妙なブレーキペダルのコントロールには気を使いがちだった。

このクルマで最も気になったのはセンターコンソールのレイアウトだ。他のグループPSAのクルマではきちんと右ハンドル仕様にレイアウトしなおしているのだが、このクルマに限っていえば左ハンドルのレイアウトのままなのだ。従ってシフトレバーもスタートスイッチボタンも左端にあり、ドライバーからは遠い存在となってしまっている。C5エアクロスは主力車種のひとつになると思われるのでぜひこのあたりは改善を望みたい。

◆懐かしさも覚える上質な乗り心地


第一印象で触れた乗り心地の良さだが、実は最初、正直にいうと少しふわふわして柔らかすぎるような印象があり、おや?と思った。しかし、走り込むにつれ、路面の凸凹はきちんといなし、そういった時の姿勢変化は少ないことに気づく。また、高速での段差を超えた時のショックは角が取れたもので、一発でショックも吸収するので、慣れてしまえばまさに上質な乗り心地と感じてきた。

さらに驚いたことに、コーナーなどによく設置してある路面が変化するゼブラ状のところなどは、ほとんどそれを意識せずクリア出来るのは見事であった。古くは『2CV』や『DS』などもそうなのだが、乗り始めは違和感の塊ではあるものの、慣れてしまうとそれ以外は考えられない。極端にいうとそんな病みつきになるような乗り心地なので、少し楽しく、また懐かしくなってしまった。

使い勝手については、必要なスイッチの多くが物理スイッチではなくスマートフォンなどのようなタッチパネルタイプのものだった。確かに見た目は美しく、整然と見えるのだが、実際に操作する段になると、ブラインドタッチがしにくく、また実際にタッチしても、実際に操作が出来たのかどうかも含めて目視してしまうので、運転中は危険が付きまとう。


そのあたりは、考え方を変えて、運転中でも操作がしたいエアコンの調整機能などは物理スイッチ。そうではなく、あまり頻繁に操作しないもの、あるいは運転中に操作出来ないものはタッチパネルとレイアウトを変えることで、より安全にかつ確実に操作が可能となるだろう。

今回の燃費は一般道(郊外路等含めて)12.9km/リットル、高速では18.0km/リットルを記録した。車重や排気量を考えるとどちらも良い結果といえるだろう。

ディーゼルとの比較では、当然のことながらディーゼルの方がフロントヘビーにはなるものの、普通に使用する限りでは大差は感じなかった。細かく見れば、その車重ぶん、乗り心地に重厚さはあるが、決してガソリンが軽々しい印象はないので、維持費と年間の走行距離、使い勝手などを踏まえておけば、どちらを選んでも間違いはないといえよう。

◆正当なフランス車らしさが備わっている

さて、300km走らせてみての結論だが、抜群な乗り心地以外にこれといった尖った特徴がないぶん、標準的と見えがちだ。しかしクルマとしての基本性能のあらゆる点が高次元でバランスが取れているということが実感出来た。長距離での疲れが少なく、直進安定性も良い。かといってワインディングで扱いにくいかといえばそういうこともない。つまり、クルマ側から強く主張してこないのだ。

しかし、このクルマに関してはそれでいいと思う。それよりも目的地までの道中を快適に移動出来、着いた先で思い切り楽しめることが出来ればそれでいい。そういったことを考えると、実は多くのフランスの実用車はその考えのもとに作られており、それは過去からいまへとつながっているともいえる。

まさに、正当なフランス車の考えがこのC5エアクロスにも備わっているのだ。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

内田俊一(うちだしゅんいち)
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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