スズキというのはじつにすごいメーカーである。『ジムニー』というものすごく尖った、世界で唯一の軽SUVを作っていながら、ものすごく普通で、それでもすごい『ハスラー』というモデルも世に出しているのだから。
ご存じのとおり、ジムニーはオフロード性能にあふれるモデルで、クロスカントリーユースにも耐えるタフなモデルとして知られている。一方ハスラーはSUVのスタイリングを与えられた普通のクルマだ。しかし、この普通さがハスラーのすごさであり、ハスラーの本領といえる。
◆求められたサイズ感
かつて、クルマの基本型はセダンと言われたのだが、今は時代が変わった。そして、そもそも軽自動車の世界ではセダンといってもハッチバックモデルであり、登録車のノッチバックセダンとはずいぶんと違う雰囲気となっている。現在人気の軽自動車のパッケージングは『N-BOX』、『タント』、『スペーシア』といったモデル。サイズに規制がある軽自動車では背の高さでユーティリティを稼ぎたくなるのは当たり前だ。
しかしどうしても背の高いクルマは扱いにくい部分があり、ハスラーのようなパッケージングのクルマが求められる。今や世界中の人がSUVのパッケージングを求めていて、ポルシェやランボルギーニまでもがSUVを売る時代。SUVが基本のパッケージングになりつつもある。つまり、ボンネットがあり、客室があり、ラゲッジルームがあるという構造だ。この構造の使いやすさ、運転のしやすさが多くの人に受け入れられている。
運転席に乗ってまず思ったのは、きちんとボンネットがあるパッケージングはボディの見切りがよく運転がしやすいものということ。やはりハイトワゴンよりも、クルマのサイズがつかみやすい。新しいハスラーはベンチシートをやめ、セパレートタイプにしたが、まだまだベンチイメージの強い仕様。もっとしっかりしたシートが欲しいところだ。しかし、ベンチに決別したこと自体は大きく評価したい部分といえる。
◆頼もしさ感じるターボ、ACCも嬉しい
今回試乗したターボ車(ハイブリッドXターボ 4WD)のパワーユニットは、64ps/98Nmの3気筒ターボに3.1ps/50NmのISG(モーター機能付き発電機)がプラスされたマイルドハイブリッドシステム。普通にアクセル操作だけでも十分なパワー感、トルク感を得ることができる。発進時のISGのアシストはもちろん、加速時のグッと前に出てくれる力強さも頼もしいものだ。
じつはターボ車には「PWR(パワー)」というスイッチがステアリングの右スポークに装備されている。このスイッチを押すことで、少しだけ駆動トルクがアップする仕組み。使い方としては、高速道路の流入ランプでプラスアルファの加速が欲しいときや、高速道路の登り坂で力が足りないと感じたときなどにワンプッシュという感じだ。
新型ハスラーのターボ車には「ACC(アダプティブクルーズコントロール)」が装備される。そうACCが装備されるのはターボ車のみで、自然吸気エンジン車にはACCは装備されない。ACCの作動はシンプルで車間維持と速度調整を行うもの。全車速追従タイプなので、渋滞時も使うことができる。最近は軽自動車がファーストカーになることも多く、長距離移動をする人も多い。また、通勤でクルマを使う人にとっては全車速追従機能付きACCがあるとないとでは、移動時の負担は大きく異なるだろう。
4WDの乗り心地はFFモデルよりは少しダウンする。FFと比べると少し振動が大きく、リヤの落ち着き感がないからだ。コーナリングの安定感などはかなり高いレベル。ロールはそれなりにあるのだが、不安感は感じない。
◆これ1台ですべてをこなせてしまいそう
全体的なまとまり感が非常にあり、これ1台で十分にすべてをこなせてしまいそうな仕様となっている。ただし、価格はどんどん上がっていて、試乗車の「ハイブリッドXターボ 4WD」の車両本体価格は、消費税込みで174万6800円。この価格は十分に登録車とラップするゾーンだ。もちろん軽自動車は税金が安いなどのメリットが大きいのだが、車両本体価格の上昇は抑えていただきたいところ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。
【スズキ ハスラー 新型試乗】「普通」こそ本領!ターボ車はファーストカーになり得る…諸星陽一
2020年04月14日(火) 20時00分
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