アルピーヌ A110リネージ撮影 中村孝仁

◆爺ドライバーでも思わず唸らずにいられない


高速の本線合流の少し手前。おもむろにステアリング右下に付くSportと書かれたボタンを押す。瞬時にメーターのレイアウトが変わり、リアからはヴォヴォッと、如何にも高性能車風のエクゾーストサウンドが漏れる。

それまでATモードでのんびりと走ってきたクルマに鞭を入れて、戦闘モードに変える瞬間だ。すると十分にお気楽モードで走ってきたクルマの方も心得たもので、ステアリングがググッと重くなり、アクセルから伝わるレスポンスとその加速も明らかにこれまでのお気楽モードとは打って変わる。

パドルを操作しながら2→3→4→5と加速していく。後方から聞こえるエクゾーストサウンドは咆哮と呼ぶに相応しい澄んだ、そして軽快だが豪快なサウンドである。多くのこれを試乗したドライバーたちが、ほぼ異口同音に軽さと運動性能の良さを褒めちぎるが、爺ドライバーでも思わず唸らずにはいられなかった。

その昔、サーキットで走り回り、ちっとは腕に覚えのある爺ドライバーである。こういうのに乗ってしまうとやはり血が騒ぐ。



◆走り出せば乗り心地に苦痛を伴うことは皆無

『A110』に搭載されるエンジンは1.8リットル直4ターボ。性能は252ps、320Nmだから、基本同じエンジンながら少しビタミン剤を飲み過ぎた『メガーヌR.S.トロフィー』の300ps、420Nmと比較するとだいぶ大人しめだ。とは言うものの、こちらの車重は1110kg。パワーウェイトレシオは4.4kg/ps。一方のメガーヌは同じEDC仕様が1470kgだから、パワーウェイトレシオは4.9kg/psとなって、アルピーヌの方が逆転勝ちということになる。勿論それがすべてではないが、気持ちよい走りが加われば、それだけで乗っていて楽しくなる。

車両を受け取って走り出すと、やはり決して乗り心地が良いとは言えないが、入れ違えで返却した『ルーテシアR.S.トロフィー・ファイナルエディション』同様、きちっと動くサスペンションのおかげで、常用スピードに達してしまうとその乗り心地に苦痛を伴うことは皆無である。だからATモードでのんびり走っても、スポーツモードで気合を入れて走っても乗り心地を云々する状況はほとんど無い。唯一気になるとしたらそれは渋滞中の乗り心地である。


嬉しい驚きはそうした精々シフトアップされても2速まで。スピードにして20km/h程度までの、このクルマにとっては苦行ともいえる状況下においてもEDCが極めてスムーズで、AT並の快適ドライブを提供してくれることである。個人的には数あるツインクラッチトランスミッションの中でも極めて優秀な部類に入ると感じた。この分野では先行していたはずのVWのDSGより好ましい。因みに作っているのはゲトラグだ。

今回お借りしたA110のグレードは「リネージ」と呼ばれるもので、現行のラインナップではいわゆるラグジャリー仕様のモデルである。もう一つの「ピュア」と呼ばれるグレードと比べて、ヒーターが付きシートリフターとリクライニング機構が付いたシートを持っていることや、サブウーファー付きのFOCAL製オーディオが備わることなどが違いで、そのほかはほぼ一緒である。

つまり、ピュアと名付けられるだけあって、そちらの方がより走りに特化した軽量仕様ともいえる。だから、前述した1110kgという車重は実はピュアのもので、リネージはそれより20kg重い1130kgとなる。厳密なパワーウェイトレシオをはじき出すと、1/100単位の数値が異なってくるのだが、切り捨てればどちらも4.4kg/psである。

◆理詰めのケイマンに対し、天衣無縫的なA110


装着タイヤはミシュラン・パイロットスポーツ4。このタイヤ、粘り具合がとても高くエンジンが後方にあってフロントが軽いのだが、食いつき具合はとても良く、サーキットにでも行かない限りノーズが逃げていくなどというアンダーステア傾向はまず示さない。勿論とびっきりにシャープである。

「走って楽しい」を体現しているクルマはこのジャンルではポルシェ『718ケイマン』で同じ思いを感じたが、あちらの方が理詰めである。まあ、どうしてもラテン系は天衣無縫的な要素が強く、それ故に唸ってしまう走りが楽しめるのかもしれない。ただし、その天衣無縫はポルシェのような理詰めで超が付く安定志向ではない。

たまたま長距離試乗に出かけた日はとても風が強く、このフレンチスポーツが決して横風に強くないことをさらけ出してくれた。というわけで元々シャープなステアフィールが風に煽られるとナーバスに変貌する。というわけで帰路の高速はだいぶステアリング操作に神経を使わされた。

一言で行って、アルピーヌA110は走りの点ではファーストカーになり得る要素を持っているが、例えば車止めが後ろにあるような駐車スペースではその車止めに当てられるほどの地上高は無いし、室内にはほぼ収納スペースが皆無で、リアとフロントに設けられたラゲッジスペースを使う以外に物を置いておけるところはない。そうした点ではファーストカーとしては役に立ちにくいからやはりセカンドカーという立ち位置になる。ただし、走りは爺でも唸る。



■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファーデプト代表取締役も務める

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