トヨタ ヤリス《撮影 宮崎壮人》

斬新的なうねりのあるデザイン。特に、ナナメ後ろから見たヒップコンシャスなスタイルは艶っぽくてどきどきする。外観同様、インテリアも同じイメージで、ボリューム感のある凹凸で構成され、うねりが放つエネルギーに心が躍る。

と、褒めるのは最初だけ。ここから厳しいです。

◆上手に安く作っているなあと感心するとともに…


ツートーンの屋根の色。屋根を黒くすることでふっくらとしたシルエットなのにシャープに引き締まり、これはこれでいいのだけれど、近くでよく見るとボディ色の上に屋根部分の色を重ね塗りしてあるため、ペイントの厚み分だけ盛り上がっている。

色の切り替わり部分を爪でさわると、カチカチと音がするほどにエッジのきいた(こんなところでエッジをきかせている場合ではないのだが)状態なのだ。上手に安く作っているなあと感心するとともに、気持ちはちょっとがっかりだ。


運転席に座ると、ハンドルの上にあるてんこ盛りのスイッチが視界に入る。この、巧みに埋め込まれたスイッチで、運転支援装置やメーターパネルの表示が操作できるというわけだ。運転支援装置はこれでもかというくらい装備されていてありがたいのだが、このスイッチがちゃちい。ブロックのおもちゃをいじっているようなチープさで、しかしでも、この価格のクルマなら仕方がないかと、あきらめるしかない。

チープといえば、トランクを開けたときのトノカバー(トランクの荷物が見えないようにするカバー部分)だ。こちらはオプション装備なのだが、お金を払ってわざわざつける気持ちが瞬間的に引っ込むほどの安っぽさである。もう少し、なんとかならなかったのか。なんとかしようよ。

◆後席の居住性、視界は想像以上にいい


後席は、人が腰かける部分の座面が深く掘りこんであり座ったときのおさまりがいい。左右にゆられても、安定感がある。しかも、身長170cmの私が座っても天井と頭のあいだに余裕があるし、ひざ元もそこそこゆったりと座れる。

左右の席が中央に寄せられていて、前席の背もたれとオフセットしていて前方視界がいいし(後席は3人座れるけれど、2人が快適に座れる仕組み)、中央に寄っているぶん、ドアの内側にあるドリンクホルダーの張り出すようなふくらみが気にならない。5人フル乗車はあまりない想定の車種だけに、このあたりはうまいと思う。

でも、ドアが、これだけしか開かないの? というくらいの角度でしか開かず、最近、年齢とともに乗り降りが面倒になってきた身にはちとつらい。軽自動車なんて「90度、直角に開きます!」というのに。後部座席は、身のこなしが軽い若年層や子ども想定ということか。



◆運転席イージーリターン機能の使い勝手


子どもといえば、今回、アナログな仕組みをうまく利用した、運転席イージーリターン機能が採用されている。ふつうの前後調整レバーで自分のシートポジションに合わせたのち、イージーリターンのレバーで、後ろにスライドさせても、ふたたびイージーリターンのレバーで操作すれば元の位置でぴたっと止まる機能である。

いや、でもこれ、いつ使うのよ? と、しばし悩んだものの、この疑問は、私が常に自分一人で乗って運転している種族だから感じるものだとわかった。


つまり、後席にチャイルドシートに座らせた子どもがいる場合、この機能を使って後ろにスライドさせれば簡単に子どもに手がとどく。そのあと的確にシート位置を元の位置にもどせるので、すぐに運転姿勢をとれるというわけだ。

さらに、家族何人かでクルマを使う場合は、自分より背が高い人がシートを後ろに調整するときにこのレバーを使ってもらえば、自分が乗るときは、さっと元の位置にもどせる。なるほど、それならとても便利である。

◆モーター走行時は静かなだけに


今回の試乗車は、リッターあたり36km走れるという驚異の数字をたたき出したハイブリッドである。エンジンは、1.5リットルの3気筒なのだが、このエンジンがうるさい(あ、はっきり書いちゃった)。モーターで走るときが静かな分、信号待ちで突然、エンジンが始動するとびっくりするし、エンジンがかかったまま停車していると、どこにうるさいトラックが止まっているのかと、周囲を見渡してしまうくらいなのだ。「自分か!」と気づいた時の残念さといったらない。

この音、遮音できなかったのか。いや、音だけなら我慢するけれど、問題は振動である。それもハンドルに伝わってくる小刻みな揺れ。エンジンが動いているまま40km/hほどで街の中を走っていると、ずーっとハンドルがびみょーにゆれていていらっとするのだ。モーターとの対比が極端なだけに、よけい目立つ。悪目立ちなのである。

◆「アドバンストパーク」をVWポロと比較してみた


最後に、高度駐車支援システムである「アドバンストパーク」を試してみた。スイッチひとつで周囲を確しっかりと確認し、するすると動く。しかも、クルマからドライバーへの指示が、「ブレーキを踏め」「Dレンジに入れろ」と(実際はもっと丁寧な文言)、ひとつひとつの動作を的確に教えてくれる。

面白いのは、同じ位置からトライしても、ハンドルの動きが少しずつ違っていたり、場合によっては、さっきは一発で入れたのに、今度は、前後に調整して入れ直しか! と、突っ込みたくなるような人間的なところがあること。妙に親しみがわく。


ときに、同じBセグメントのフォルクスワーゲン『ポロ』にも、同様の駐車支援装置があるのだが、こちらは、警告音とともに、メーターパネルの中に、車両のシルエットと進むべき方向(前か後ろか)の矢印が出るのみ。あとは「自分で判断して、ブレーキ踏むなり、シフトレバーを操作するなりしな!」という女王様的な指示出しである。かなりそっけない。

指示の出し方ひとつとっても、日本とドイツはこうも違うのか。ヤリスには日本ならではの、おもてなし感を感じさせられる。



◆デザインの斬新的な挑戦は女心をくすぐる

ヤリスの仕上がりに関しては、なにかと意地悪に突っ込みたくなるところが満載なのだけれど、私ならハイブリッドよりふつうのエンジンにしておくかなって気がするけれど、でも、冒頭に書いたデザインの斬新的な挑戦は女心をくすぐる。顔がすごく好みであれば、多少のことは許せちゃうんだよね、きっと。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。

トヨタ ヤリス《撮影 宮崎壮人》 運転席イージーリターン機能《撮影 宮崎壮人》 運転席イージーリターン機能《撮影 宮崎壮人》 トヨタ ヤリス《撮影 宮崎壮人》 トヨタ ヤリスの後席《撮影 宮崎壮人》 トヨタ ヤリス《撮影 宮崎壮人》 トヨタ ヤリスの「アドバンストパーク」スタートボタン《撮影 宮崎壮人》 トヨタ ヤリスの「アドバンストパーク」作動中の画面《撮影 宮崎壮人》 トヨタ ヤリスの「アドバンストパーク」作動中の画面《撮影 宮崎壮人》 トヨタ ヤリスの「アドバンストパーク」で駐車してみた《撮影 宮崎壮人》 トヨタ ヤリスの「アドバンストパーク」で駐車してみた《撮影 宮崎壮人》