メルセデスベンツ EQC撮影 中村孝仁

メルセデスベンツにとっていわゆるピュアEVの発売はこれが初めてではないそうだが、メルセデス・ブランドで日本で販売されるピュアEVとしてはこれが初。『GLC』をベースとしたピュアEVがこの『EQC』である。メルセデス・ブランドとして顧客の信頼を失わない為、あるいは満足度を向上させるためにあの手この手でこのEQCの販売を始める。

例えばそれはクローズドエンドと呼ばれる買い取り価格を保証した残価設定ローンや、家庭用200V充電機の設置に際して10万円を値引きしたり、充電器そのものを無償提供したり等々。まだそれほど大掛かりな販促は始めていないとのことであったが、メルセデス自身も時代の移り変わりにはかなり敏感に対応している様が有り有りだった。

◆これほど静かなクルマにお目にかかったことがない


ご存知の通り、メルセデスという自動車メーカーは始めるからには徹底した作り込みをしたうえで市場提供する。(まあ、最初の『Aクラス』はちょっと例外だったが)だから、このEQCというクルマも試乗した印象としては素晴らしく良く作り込まれた印象が強い。電気自動車なのだから静かなのは当然ともいえるのだが、そのレベルは他のどのピュアEVよりも上。テスラなどものともしないと言って過言ではない。

では一体どこがどう静かなのか?答えはロードノイズの徹底した削減である。電気自動車は基本的に動力源からはほとんど音が出なのだが、いざ走り出すと路面からのロードノイズや風切り音などは不可避的に発生し、案外その音が大きなものだから、走り出して巡航速度に達すると普通の内燃車とさほど変わらないレベルの室内音になってしまう。

ところがこのEQC、そのレベルがぐんと低い。実は自分自身耳鳴りが常習的にしているいわゆる耳鳴り持ち。静かな時ほどこの耳鳴りというやつは気になって、そいつを気にし出すと実にうるさい。クルマに乗っている時はあれこれ色々な音が出てそれが耳に入るためにこの耳鳴りが気にならないのだが、何とEQCを試乗している間中、この耳鳴りが気になった。それほどのレベルまで室内音が減じられている。これは本当に凄いことで、走行中にこれほど静かなクルマにはこれまでお目にかかったことがない。

◆圧倒的な加速感と、“異質”な乗り心地


まあ、これ以外の部分では普通のピュアEVである。ただし、加速性能だけは抜きん出ている。テスラも速かった。最近では0-100km/hが2.7秒とか言う異様な速さを示すらしい。EQCの場合その数値は5.1秒だから普通と言えば普通だろうが、やはり発進してすぐに765Nmを発生させるモーターの威力は普通じゃない。内燃車では1000Nmを超えるクルマにも試乗したことがあるが、発進加速ではやはり圧倒的に電気自動車が速い。高速の料金所を通過してフル加速してみたら、頭がヘッドレストに押し付けられて動かなかった。

基本的には同一性能の二つのモーターを前後のアクスルに装備する4WDだが、チューニングは変えているそうで、中低負荷時は前のモーターだけが機能し、いざという時にリアが回る仕組みになっているという。冒頭に書いたようにベースはGLCで、ホイールベースは共通だし生産工場もGLCと同じである。ただ、コンポーネンツは大幅に変えられていて、フロントのサブフレームなどはガソリン車と同等の衝突安全性を確保するための専用設計とされているという。

EVらしい走りをさせようと思ったら、回生ブレーキの強弱で減速させることだ(それがEVらしいといえるかどうか異論もあるだろう)。日産のe-POWERのようにワンペダル的なドライブが可能だが、最終的に静止まで行かない設定とされている。不要なはずのパドルシフトが装備されていて、Dに入れて走ると右パドルでDと「D+」が選べ、左パドルで「D-」と「D--」をチョイスできる。マイナス方向に行けば行くほど回生が強烈になり、高速などでもパドルを二つ引くとかなり強烈な減速Gが体感できる。勿論ブレーキランプは点く。なので、こいつを駆使できるようになると、やはりワンペダル風ドライブが可能だった。

乗り心地はこれまでの内燃メルセデスとはだいぶ異質である。メルセデスと言えばフラット感の高い乗り心地の演出にかけては天下一品だったが、このEQCに限ってはそうではない。かといって乗り心地が悪いのではないのだが、上屋の揺れが比較的路面の凹凸に敏感に反応してしまう。初めての市場投入だからだろう。これもいずれは内燃メルセデスの様にフラットな乗り心地を実現してくれると思う。

◆便利さが時に、人を不自由にもする


さて、このような最先端且つ最新技術でまとめられたクルマ。当然至極便利で何ら不満はない。人は便利なことに対しては不満を感じないと思うのだが、これは個人的な考えかもしれないが、便利なものに対して最近不自由さを感じてしまう。何でもやってくれることは便利には違いないのだが、人間阿保になる。スマホの誕生も僕から記憶装置の一部を奪い、親しい友達の電話番号も覚えられず、漢字も書けなくなった。

このクルマはいわゆる走行可能な状態で停車してドアを開けて再び乗り込んでドアを閉めて発進しようとしても、発進してくれない。つまり初期化されて、再度スターターボタンを押すことから始めなくてはならない。この種の安全装置は他の最新モデルにも付いている。ただ、EVの場合はエンジンが無いし音もしないし、Dにさえ入れれば走るものと思っているこちらとしては一瞬???となる。

今、僕の愛車は半世紀前に作られたクルマだから、ドアロックだって4枚のドア全てを個別に行わなくてはならないし、つい先日もETCをセットアップに行ったら、ディーラーの人がエンジンをかけられなかった。そんな不便さは人間を慎重にさせる。便利になればなるほど、何でもクルマの側でやってくれるようになると、つい頼りがちになって、却って危険度が増す気がしてならない。

確かに便利さは人に満足感を与えるだろうが、同時に人を不自由にしているような気がしてならない。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。 また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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