BMW 7シリーズ 新型(745Le xDrive)《画像 BMW》

◆ドライバーズカー戦略の限界

BMW車の魅力は“駆け抜ける歓び”というあの有名なフレーズに集約されているとボクは思っている。ドイツの有名なライバルたちとは違って、ドライブそのものが楽しくなるパートナー、というイメージだ。そういえば休日に日本の田舎道を走っていると、BMWとはよくすれ違うのにメルセデスベンツやアウディとは稀だった。そういうことなのだろう。

だから、スポーツタイプはもちろんのこと、セダンやワゴン、何ならSUVだってBMWモデルはいっぱしのドライバーズカーであり、ハンドリングマシンとしても十分高く評価できる。運転好きに愛されるキャラクターの持ち主だというわけだ。

そこのところは、たとえフラッグシップサルーンの『7シリーズ』であっても、基本的に変わらない。特に現行モデルは“カーボンコア”と呼ばれるハイブリッドボディ骨格を採用したことで、サーキット走行も楽しいリムジンとなった(高級ブランド品の場合、それが本当に必要な性能や機能かどうかという議論はまったく無意味である)。要するに『Sクラス』や『A8』シリーズとはひと味違いますよ、と声高にアピールしたかったというわけだ。

どうやらこの戦略にも限界はあったらしい。この手のアピールが20世紀に典型のクルマ好きにぶっ刺さることは確かだ。けれども若い世代、特にアメリカや中国といったBMWにとっての巨大市場で成功したニューリッチ層には、思ったほど響かなかったようである。それゆえ大型SUVの『X7』導入を機にBMWも“オシの強い迫力デザイン路線”を前面に出し始めた。もちろん、“駆け抜ける歓び”を隠し持ったままで。

◆ハイエンド高級サルーンに今、最も求められている要素


7シリーズのマイナーチェンジには、そのことが顕著に現れている。キドニーグリルの面積が前期型比でなんと4割も増した。同時にヘッドライトがより薄くなったため、グリルの大きさがいっそう強調されるように。ノーズ先端の高さも50ミリほど上がっており、そこに貼られたエンブレムも大きくなっている。なるほど、その迫力ある面構えはフルサイズリムジンというにふさわしい。リアのライトも一新され、よりワイド感を強調するデザインとした。

インテリアは『8シリーズ』以降の全ての新型BMWに採用される基本スタイルを採り入れている。見映え質感の高さにこだわった仕立てに。また、サイドウィンドウの厚みを5ミリほど増やし、リアホイールハウスのインシュレーターも増量して、室内空間の静粛性も高めている。

オシの強さと静けさと。これらがハイエンド高級サルーンに今、最も求められている要素なのかも知れない。

とはいえ単なるスキンチェンジに留まらず、性能向上をおろそかにしないというあたりがいかにもBMWらしい。20インチランフラットタイヤを履く「750Li xDrive」を試せば、たちどころに性能アップを実感することができた。

V8ツインターボエンジンは最高出力を80psも引き上げている。力強さは明らかに増しているのだが、決してスリリングなものではない。速さを分かり易く表現しつつ、重厚感のある加速フィールとしている。このあたりもニューリッチ層にアピールするための重要なキャラクターというわけだろう。

静粛性を高めたため、V8のエンジンサウンドがあるかないかのバイブレーションとともに心地よく身体へと伝わってくる。20世紀的なクルマ運転好きにも好まれそうだ(ボクは気に入った)。

オプションのインテグラル・アクティヴ・ステアリングとエグゼクティヴ・ドライブ・プロのおかげで、元々からのまるで『5シリーズ』でも操っているかのような一体感あるドライブフィールにも、いっそう磨きが掛かっている。デザイン面での大幅変更によって、以前の7らしさを失ったとは言われたくなかったのだろう。走りの面では確実に進化を果たし、ファントゥドライブ路線を貫いたのだ。

◆今後の主力は間違いなくPHVだ


海外試乗会の起点となったホテルに戻ると、そのままPHVの「745Le xDrive」に乗り換えた。改良型ストレート6エンジンを積み、よりハイボルテージなバッテリーを搭載したことで、電動での走行可能距離と総合パフォーマンスのいずれもが大幅に向上したというフレコミ。今回のマイナーチェンジで最も注目されるパワートレーンを積んだグレードだと言っていい。

満充電で最大58kmまでフルEVとして使える。話八割だとしても半径20km範囲内の移動をEVでこなしてくれる。ごく日常的な使用ではガソリンスタンドの厄介にならない、というスタイルもできそうだ。

エンジンと電気モーターを併せたシステム馬力は394hp(スポーツモード時)である。スポーツモードでの加速では若干ショックもみられたが、そのぶん力強さは十二分だ。いっそう重厚感のある乗り味と相まって、迫力のマスクにお似合いのドライブフィールである。何よりEVモードでの静か過ぎるクルージングに、未来の高級車のあり方を垣間みた。今後の販売主力グレードは間違いなく、このPHVだろう。



西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。

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