ダイハツ コペンセロ で700kmドライブ。ぶどう峠にて記念撮影。《撮影 井元康一郎》

ほぼ“素”のコペンで700km
ダイハツ工業の軽オープンスポーツ『コペン セロ』で700kmあまりツーリングする機会があったので、ドライブインプレッションをお届けする。

2002年に登場した初代モデルは約10年にわたって作り続けられたロングセラー。当初、ダイハツはコペンを生産設備が消耗しきった時点で終わらせるつもりだったのだが、ダイハツの思惑を大きく超えてユーザーの支持が集まったため終わらせるわけにいかなくなり、台数こそ少ないもののモデルライフを通じて人気を保った。

現行コペンは2014年に登場した2代目。2代目モデルには3種類のデザインがあり、基本形の「ローブ」、SUV風なフェンダーアーチ2トーンをはじめ前衛的なデザインで固めた「エクスプレイ」、そして今回乗った「セロ」は初代のイメージに最も近いレトロ調のディテールを持つ。

現行コペンには変速機が5速MTとステップ変速制御付きCVT(無段変速機)、足回りがノーマルとビルシュタインパッケージと、それぞれ2種類ずつ存在するが、今回乗ったのはCVTのノーマル。いわばもっとも大人しい仕様である。カーナビ、ETC、フロアマット以外のオプションは装着されていない、ほぼ“素”のコペンである。

ドライブルートは東京を起点とし、静岡の伊豆から富士川を経由して山梨の清里へ。帰路は長野の佐久から険路であるぶどう峠を越えて群馬に入り、国道254号線および関越高速を使って東京に帰着するというもので、総走行距離は709.9km。路面は雨上がりのセミウェットが一部にあったほかは全線ドライ、1名乗車、エアコンON。

では最初に、試乗を通じて感じられたコペンの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. 甘口のオープンが多くなったこのご時勢に風が頬を打つ、素敵なくらいにスパルタンなオープンエアドライブを味わえること。
2. 軽のバリオルーフオープンカーであるにもかかわらず、オープン時でなお2人分の短期宿泊旅行相当の荷物が積めてしまうユーティリティの高さ。
3. ゆっくり走っても速く走ってもエキサイティングなドライブフィール。
4. 体の収まりが至極良好なコックピット。
5. 相当にわがままな運転をしたにも関わらず良すぎるくらいに良かった燃費。

■短所
1. バリオルーフを閉めると途端に快楽が10分の1くらいになってしまう。
2. このクルマの場合どうでもいいことだが、乗り心地はあまり良くない。
3. このクルマの場合どうでもいいことだが、室内騒音は大きい。
4. 厚着用の服を1枚余分に持てばすむ話だが高原など低温環境での暖房の効きはオープンエアには不十分。
5. 先進安全装備をほぼ丸っきり欠くこと。

甘口のオープンカーとは別格
筆者は第2世代コペンはこれが初乗りであった。デビュー当時、歩行者保護などの法令変更に対応しなければならなかったこともあって、第1世代のあの素敵なシルエットから一転、ぼってりとしたプロポーションになってしまったことにガッカリしたものだった。

が、実際にドライブしてみたら、そんなことは一瞬でどうでも良くなった。底抜けに楽しいのである。

オープンエアでも風の巻き込みは僅少で、まるでクローズドのように快適…という甘口なオープンカーが主流となったなかで、コペンのオープンエアドライブはスパルタンそのものだった。低速走行時はいいとして、スピードが上がると風がバンバン頬を打つ。乗り心地はどの速度域でも揺すられ感が強く、快適性という点では低い点をつけざるを得ない。

このクルマの場合、それが素晴らしいのだ。板橋でクルマを借り受けてから葛飾の自宅までオープンで走った時点でもう楽しさ全開。クルマを借りたのは3泊4日だったが、その間ずっと晴れまたは曇りだったこともあって、乗り込んだらまずルーフのラッチを外してバリオルーフを開け、サイドウインドウも下ろすのが儀式だった。

ルーフを閉めて走ったのは首都高速湾岸線のトンネルが連続する区間と、伊豆の長いトンネルをくぐった時、そして岐路に埼玉の小川町から東京・葛飾までの3区間のみ。まだ日が昇る前、三浦半島は鎌倉の市街地を抜け、由比ガ浜が近づいてきたところで、やおら潮の香りが漂ってきた。空はまだうっすらと青みがかってきた時間帯で遠景など見渡せないのだが、空気の匂いで海が近いことを知る。

西湘バイパスから箱根新道に入ると、今度は一転、森の香りだ。箱根峠から伊豆スカイラインに向かう途中で日が昇る。ドライブ当日は朝霧に包まれ、富士バックの撮影は空振りだったが、そこでは湿度100%の大気の匂い。

伊豆スカイラインを南に下り、標高が下がってきたところでは、家畜を飼育する臭気が鼻を突いた。畜舎付近から離れるにつれ、露骨だった糞尿の臭気は次第にウッディな臭いへと変化し、1分も経たないうちに森の香りに戻る。真昼間、日差しに照らされた時は焼けるような匂い、夜に富士川沿いの国道52号を走ったときは湿った川岸の匂い…と、常に官能的だ。空気の匂いだけでなく、停止したときの車外の音もまた、心を和ませる。

自分の周囲と仲良くなりながらのドライブを味わえるのはオープンカーの特権だが、コペンの場合、走っているときの気流との距離が自分の体のごく近くにあること、側方および後方からの風の巻き込みの強さが奏功してか、その実感は甘口のオープンカーとは別格だった。

経済性の高さもマル
頬を風が撫でるような感覚という点で記憶に残るのは、そうなるよう開発陣がトライアンドエラーを繰り返したというホンダ『S2000』。コペンはそれと車格も駆動方式もまったく異なるが、低いフロントウインドシールドを通して見る景色とあいまって、そのDNAの継承者であるようにすら感じられた。もっとも、風の巻き込みを弱めたい場面もあろう。その時はサイドウインドウを上げて走ればかなりマシになる。

ハンドリングは特別優れたテイストを持っているわけではないが、群馬〜長野県境越えのぶどう峠から神流川に沿って平地へ出るまでも長大なワインディングロードを苦もなく良いペースで走り抜けるだけの能力は持ち合わせていた。ちなみに峠区間は1車線道路で幅員が狭かったが、軽自動車のコペンは車幅が1.48mしかないので、その狭い道路でもブラインドコーナーでなければライン取りを楽しむこともできた。

そして経済性の高さ。ほぼ全区間を空力特性が大幅に悪化するオープンで走行、さらに通常に比べて山岳路の比率が格段に高かったにもかかわらず、ロングランの通算実燃費は25km/リットルを超えた。埼玉の坂戸で給油したとき、あまりに燃料が入る量が少ないのでタンク内にエアがたまって満タンになっていないのではないかと疑ったほどだったが、そこから自宅近くのスタンドまで走行後に給油してみたところ、またもや信じ難いほど少ない燃料しか入らなかった。

驚きの積載性
素晴らしい点がもうひとつ。それは軽自動車サイズのバリオルーフというパッケージにもかかわらず、何とかなりの荷物が載ることだ。もちろんバリオルーフを閉めていれば屋根が入るだけのスペースが確保されているトランクルームが有用であることは想像に難くない。ところがコペンの場合、それだけではない。バリオルーフがトランクに格納されている状態でもバッチリ荷物が入るのである。第1世代モデルも実は同様の技あり的収容スペースがあったのだが、その容量が相当アップした感があった。

筆者は宿泊のための着替え、14.1インチモニターサイズのノートパソコンなどを入れたボストンバッグ、およびカメラその他の小物を入れるためのリュックサックの2個を持って行った。

最初はいくら何でもこれはトランクには入らんだろうと思い、一人ドライブということもあって全部助手席の足元に放り込んでいた。が、清里に寄り道をしたときにトランクを開けてみると、収納スペースが思ったより大きい。カーゴルームにはルーフを折り畳んだときに荷物と干渉しない目安となる仕切りがあるのだが、少し押し縮めることで隙間に入れることができた。そして、バリオルーフを折り畳んでみたところ、荷物は屋根と荷室の床の間に綺麗に収まった。

おいおいこれが全部入っちゃうのかよ!!と、軽オープンというタイトなパッケージングのクルマでこれだけの収容力があることに感動を禁じえなかった。オープンにすることが前提でも一人なら少し長い期間旅をすることもできるだろうし、1泊、2泊くらいなら二人でのドライブも何とか可能だろう。ちなみにオープンにしないのなら本格的な長旅をして、お土産を満載することだってできそうだった。

欠点ももちろんある。サスペンションはゆるキャラな見た目とは裏腹に相当固く、乗り心地は悪い。騒音レベルはクローズドにしても大きめで、長距離ドライブすればそれなりに疲れる。だが、気持ち良し、実用性良し、燃費良しという長所を味わってしまうと、そんな欠点が何だという気分になる。このスリッパみたいなクルマで気ままにお出かけすれば、春夏秋冬それぞれ、周囲の空気と仲良くなれるのだ。天敵は雨、雪と猛暑、それと1kmを超えるような長大なトンネルくらいのもの。このコペンもデビューから年月が経ち、時折走っているのを目にする。オーナーはきっと楽しいカーライフを送っているのだろうなーなどと想像した次第であった。

底抜けに楽しいクルマ
まとめに入る。第2世代コペンは登場当時にデザインへの先入観で忌避していたことを後悔するくらいに愉悦に満ちたクルマで、楽しさ性能という指標があるのなら、これまで乗ったどの日本車より優れていた。

コペンに乗る直前、ルノーのAセグメントミニカー『トゥインゴGT』で東京〜鹿児島ツーリングを行い、そのプレジャーに感動を覚えたのだが、ロングドライブ耐性はともかく、楽しさならコペンはそれに一歩も負けていない。こんな日本車があって良かったと思った次第である。

ライバルはほぼ不在と言える。軽オープンというカテゴリーでみるならばホンダの『S660』があるが、あちらはドライブフィールとスタイリングにリソースの大半を割いており、オープンカーの開放感という点ではせいぜいタルガトップくらいのもので、荷物も乗らない。S660が好きな人はコペンには目もくれないであろうし、コペンが好きな人もまたS660は興味の対象外であろう。最大のライバルと言えそうなのは第1世代コペンの中古美品か。

余談だが、心配するのはこのウルトラ楽しいモデルの命脈である。ダイハツは2年ほど前の2016年8月、トヨタ自動車の100%子会社となり、上場廃止となった。パワートレインを含むクルマの総合開発力を持つぶん、同じ100%子会社のトヨタ自動車東日本やトヨタ車体とは立場が異なるが、今後、経営の独立性がどこまで保たれるかは不透明だ。

そのダイハツに、直接的な収益に大きく貢献するとは到底考えられないこのコペンのようなクルマをこれからも作り続けることをトヨタが許すかどうか。かりに現行モデルを持たせるだけ持たせるとして、その次があるかどうか。

自動車メーカーの経営環境は今後、次第に厳しさを増すことが予想されており、こんなクルマづくりは難しくなる一方だ。が、「もっといいクルマをつくろうよ」「クルマには愛が付きます」「自動車メーカーのユーザー離れ」といった豊田章男社長の言葉に嘘がないのなら、ダイハツが自らこういうクルマづくりへの思いを捨てない限り、また何期にもわたって連続赤字を計上して収益改善が見込めないような事態に陥らない限り、このくらいはやらせてやるべきだと思う。

一方で、ユーザーサイドも楽しいクルマづくりをメーカーに求めるなら、こういう底抜けに楽しいクルマをもう少し買ってあげてもいいのではないかと思う。コペンをマイカーにする場合、欠点らしい欠点は泣いても笑っても2人しか乗れないことと、先進安全システムを欠くことくらいである。

1台しか持てない人にとっては少々ハードルが高いかもしれない(その気があればそれでも行ける)が、1人1台という状況の地方部なら多人数乗車のときには身内のクルマを借り、普段はコペンに乗るというライフスタイルを取ることくらい造作もないはず。今回拝借した非ビルシュタインのノーマルモデルはエアコン装備でアンダー200万円。それが売れないというのであれば、面白いクルマがなくなったとしても、それはメーカーのせいとは言えないだろう。

コペンセロのリアビュー。《撮影 井元康一郎》 コペンセロのエンジンルーム。《撮影 井元康一郎》 適度にタイトなキャビン。《撮影 井元康一郎》 コペンセロのサイドビュー。ホイールベースの中央付近がヒップポイントであることがわかる。《撮影 井元康一郎》 ルーフを閉めたときのシルエットは旧型に比べるとちょっとぼってりとしている。《撮影 井元康一郎》 コペンセロのトランクルーム。《撮影 井元康一郎》 手持ちの荷物を詰め込んでみることにした。ボストンバッグの中には14.1インチモニターサイズのパソコンバッグも。《撮影 井元康一郎》 バリオルーフ格納中。《撮影 井元康一郎》 中の余分な空気を抜きつつ、荷物をできるだけ後方に。《撮影 井元康一郎》 トノカバーを引っ張る。これが変形しなければ収納可能なはず。《撮影 井元康一郎》 2つのバッグがきっちりはまった。《撮影 井元康一郎》 室内の収納スペースはミニマムだが、ちゃんとカップホルダーもある。《撮影 井元康一郎》 コペンセロ。ぶどう峠にて記念撮影。《撮影 井元康一郎》 霧の伊豆にて。《撮影 井元康一郎》 コペンセロのヘッドランプ。《撮影 井元康一郎》 長野-群馬県境のぶどう峠へのアプローチ。《撮影 井元康一郎》 コペンセロのボンネットライン。《撮影 井元康一郎》 軽サイズゆえ、1車線道路でも気持ちよくドライブできる。《撮影 井元康一郎》 コペンセロ。ぶどう峠にて記念撮影。《撮影 井元康一郎》 ぶどう峠から群馬側へのディセンド。《撮影 井元康一郎》 山梨西部のお菓子メーカー、シャトレーゼ白州工場の森にて。《撮影 井元康一郎》 上野村の温泉施設にて。《撮影 井元康一郎》 コペンセロで早朝の箱根新道を走る。《撮影 井元康一郎》 コペンセロ。リアビューもクラシカルな雰囲気。《撮影 井元康一郎》 コペンセロのコクピットを斜め後ろから。《撮影 井元康一郎》 フロントマスク。コペンの3種の外観のなかでは最もゆるキャラ。《撮影 井元康一郎》 伊豆にて。わたせせいぞう的アングルで。《撮影 井元康一郎》