スズキ スイフト ハイブリッド撮影 中村孝仁

スズキ『スイフト』にハイブリッド仕様が追加された。現行モデルにはすでにハイブリッドモデルあるんじゃないの? そう、仰る通り、現行モデルにはすでにハイブリッドの設定はある。

だが、これまで設定されていたハイブリッドはISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)による、いわゆるマイルドハイブリッドで、エンジンの始動と若干の回生、それに加速時のモーターアシストなどで、本格的にEV走行が出来るものではない。これに対して新しいハイブリッドは、スズキ曰くフルハイブリッドと呼ぶもので、EV走行専用ボタンこそ持たないものの、負荷が低ければEV走行を可能にしたもので駆動用のモーターを備えていることが今回の大きな特徴である。

もっとも搭載するバッテリーの容量が小さいから、長距離のEV走行は出来ないのだが、ハイブリッド車の悩ましいところは実はここにあって、長距離のEV走行を可能にしようと思えばバッテリーの搭載量を多くせざるを得ず、必然的に車重が重くなって燃費にも影響するというトレードオフの関係も持っているのだ。

というわけで、EV走行を沢山したいと思えば必然的に車重は重くなる。同じセグメントのライバルを比較してみると、基本常に電気で走らせようと、バッテリーは小さいけれど大きなモーターを積んでいる日産『ノートe-POWER』は1170kg。トヨタ『アクア』が1060kg、そしてホンダ『フィットハイブリッド』が1080kg。いずれも一番軽いクルマの車重であるが、これに対するスイフト・ハイブリッドは940kgであるから、その差歴然なのである。

動力源と組み合わされるトランスミッションは、アクアの場合電子式無段変速、そしてノートはそもそもモーターで走るからトランスミッションはない。ホンダは7速DCT。そしてスズキはと言うと、何とAGSを使ってきた。と言ってもすでに同じ組み合わせは『ソリオ』にあるから、まあ今に始まったことではないのだが、改めて「そう来たか」と思わせるわけである。

というのも、AGSはDCTと違って変速の際に必ずトルクの谷が出来て、スムーズな加速が得られないことで定評があって、海外モデルでは代表的なところではVW『up!』、そしてスズキでも『アルト』や商用の『エブリィ』などにそれは使われているが、正直なところ評判は芳しくない。しかし、スズキはそのAGSのネガ要素をハイブリッド化することで巧みに消し去った。まさにAGSを活かすにはこれしかない!と言えるほどの出来栄えを見せている。

からくりはこうだ。クラッチの断続は電子制御で行われ、例えば2速から3速のへのシフトアップに際しては、一旦クラッチを切ってギアを入れ、そして再びクラッチを繋ぐ。この間クラッチが切れているから加速はしない、まあ空走する。このため、それまでグイッと加速していた加速感が無くなり、それにより乗員は前後に体が揺すられてしまう。しかし、この弱点を、クラッチが切れた段階でモーターがアシストして加速を継続してくれる。裏でクラッチの断続が終了すれば、再びエンジンの加速がモーターに取って代わるといえばわかり易いだろう。だからトルクの谷が存在しない。

今回は結構いじめてやって、あれやこれやと条件を変えて走らせてみたのだが、トルクの谷が発生するのは、高速の流入などでフルスロットルで加速した際、エンジン回転が5000rpmを超えるような領域でシフトアップすると、モーター自体のトルクがそれほど強くないからか、さすがにトルクの谷が生まれたが、それ以外で谷を感じることは全くない。ステップAT並と言ったら大げさかもしれないが、それに近い加速感を得ることに成功している。だからAGSのネガ要素はほぼ感じられないわけである。

バッテリー積載量が少ないから車重に与えた影響は軽微で、前述した軽い車体を維持しているし、車両バランス自体も走らせてみる限りほとんど変わっている印象を受けないから、従来のFWD車と同等のハンドリング性能を維持している。

今回はECOモードと標準モードの走行モードが用意されていて、ECOをチョイスした際は、先ずEVで発進してくれる。また、高速上でアクセルを抜いて負荷をかけないと、エンジンは停止し、EV走行が可能である。ただし、何故かエンジン再始動は時として明確にわかる。ISGと同じ原理のはずだから本来は気付かないほどスムーズなはずなのだが、試乗車では「あっ、エンジンかかった」と認識させる場面が数回あった。

いずれにせよこのハイブリッドシステムはスズキ独自のもの。少なくとも今、ハイブリッドシステムに関してはメーカーの特徴がよく表れていて面白い。ハイブリッドと言えども、走りに特徴が出るセグメントになり、乗る側つまりは選ぶ側も、良くその特徴を理解して購入するのがいいと思う。たんにハイブリッド=低燃費という図式は当てはまらないのだから。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

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