
今回のワンポイント確認は、「スライドドアになったムーヴは、軽自動車スタンダードになれるのか」である。
自分らしく。女性が男性評価基準で自分をつくろう必要がなくなってきた昨今だが、男性自身も、特に会社を卒業する世代はずいぶん変わった。クルマすごろくで「いつかは○○」と呪縛のようにまとわりついていた価値観はすっかり消滅し、等身大で快適にすごす心地よさを体現しているのである。
それが如実に表れているのが、軽自動車市場だ。『ムーヴ』の資料によると、今や購入者の半分以上が子離れ世代なのだという。もうクルマの大きさや価格帯で無駄に存在感を誇示する必要がなくなったのである。
◆ミニバン大国ならではのスライドドアただ、この変化に合わせるようにハイト系からスーパーハイト系が売れ筋の主流になっていることは、広い車内空間に慣れた世代を受け入れるための戦略をたて、乗り心地や質感を向上させてきた軽自動車自体の努力があるだろう。
そんな軽自動車市場の軸ともいえるムーヴが、フルモデルチェンジとともにスライドドアを採用した。スライドドアは、ミニバンが大うけしている日本ならではの動きといえる。チャイルドシートのつけやすさ。元気よくドアを開けて隣のクルマにドアパンチをくらわす“キッズ怪獣”対策としてはもちろん、雨の日や荷物の多い日にも実力を発揮する。
高齢者を乗せるときも、開口部が広くほどよい高さの座面は物理的にも精神的にも苦労を解消してくれる。もちろん、一人で乗るときもなにかと使いやすい。いずれ日本は、特定のクルマ以外はすべてスライドドアになるんじゃないかというくらい受け入れられている。
ムーヴはその気配を感じ取り、いや、緻密なデータ収集と分析と、国民車としての決断により、そのポイントを押さえてきたというわけだ。
◆視界が明るい運転席、シートに工夫もさて、そんなムーヴの運転席に座る。Aピラー(窓枠のタテ部分)に細いガラスがはめ込まれているおかげで、視界が明るく死角も減って周囲が見やすい。ハンドル位置は、相変わらずちょっと遠めだけれど(車内空間を確保するのにタイヤを四隅に置くためスペース的にむずかしい)、これを改善するためにシートに工夫がみられる。
ペダルに合わせて座面を後ろにした分、背もたれを立て気味にするのだが、座面と背もたれの低い位置が、オシリをしっとり包み込むように上手にサポートしてくれるのだ。これで運転姿勢の違和感が9割以上(岩貞調べ)解消される。ときに背もたれは、寝かせるよりも立て気味にしたほうが、万が一の衝突のときにシートベルトが正しく機能してくれる。たるみのないようしっかりとかけていただきたい。
◆出だしの違和感のなさは「さすがダイハツ」走り出しの滑らかさ、特に、アクセルを踏んだ瞬間の出だしの違和感のなさはさすがダイハツ。少し前からアクセルの動きに対してリアルに加速できるよう、特にこの速度域での調整をしていると聞いていたけれど、直球ストライクな感覚で発進できる。
さらに、このときに発生する前後への荷重変化によるゆれも上手に抑えられていて、軽自動車ユーザーに多い、街中や市街地での停止~スタートで気持ちよく使えそうだ。
一般道ではカーブもなんなくこなしてくれるムーヴ。では、高速道路はというと、すごーい、高速でも安定! ……と言って、あとで嘘つき呼ばわりされるのもいやなので厳しめに書くと、やはり軽自動車にありがちなふわふわ感は残る。今回は、新東名高速道路の制限速度120km/h区間も走ってみたが、さすがに100km/hを超えるとエンジン音もそれなりに大きくなってくる。
ただし。80km/hくらいで走るぶんにはエンジン音も静かだし、ふわふわ感も気にならなくなる。背が高い系のクルマは全面投影面積が広く、80km/hを超えると一気に燃費も悪くなってくることから、一番左車線をゆったりと移動するのがこのクルマの使い方としてはバランスがいいだろう。
◆結論。今回のワンポイント確認「スライドドアになったムーヴは、軽自動車スタンダードになれるのか」は、これから軽自動車はスライドドア一択。インテリアも上質感があるし小物入れも多いし、余計な不安は感じずに日々、ふつうに生活したいと願う世代はこれからも増加する。ムーヴは、時代を牽引するスタンダードなのである。
■5つ星評価パッケージング:★★★★★インテリア/居住性:★★★★★パワーソース:★★★★フットワーク:★★★オススメ度:★★★★★
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「未来のクルマができるまで 世界初、水素で走る燃料電池自動車 MIRAI」「ハチ公物語」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。2024年6月に最新刊「こちら、沖縄美ら海水族館 動物健康管理室。」を上梓(すべて講談社)。






