BYD シーライオン7《写真撮影 諸星陽一》

現在、日本に輸入されているBYDのラインアップのなかでもっとも大きなモデルである『シーライオン7』をロングラン試乗した。コースは横浜〜富山〜東京。その実力を報告したい。

シーライオン7は全長×全幅×全高が4830×1925×2620(mm)、ホイールベースは2930mmという車体寸法。全長は現行『ステップワゴン』程度だが、全幅は『センチュリー』より5mm狭い程度なのでかなり大きなクルマであることは明白。ホイールベースは2930mmで『CX-8』と同寸だが、最小回転半径はCX-8より0.1m広い5.9mとなる。

◆走り出して気づくのは
最初に乗ったのは後輪駆動(RWD)のモデル。BYDの日本法人が入る横浜のビルの地下駐車場からクルマを出す。最初の難関は駐車場のゲートだが、センチュリー並の車幅というほどの緊張感はない。これは着座位置が高いからだろう。首都高のゲートもあまり気をつかうことなく進入できた。首都高に入りACCをオンにしてクルマ任せにしてみる。車間調整や減速、再加速のフィーリングはいいのだが、車線維持についてはまだ調教が足りない雰囲気。ときおり、急激にステアして車線を戻したりする挙動があり、この部分は改善がほしい。

目的地を指定するために音声入力を使ってみる。「ハイBYD」とキーワードで音声入力が反応するのは各社と同じところ。「目的地を設定して」〜「富山駅」としても、ナビが反応せずに目的地が設定できない。あとで判明したのだが、音声入力をする前にナビを立ち上げておかないと、ナビが反応しないロジック。これはちょっと不便だなと感じた。もしかしたら、システム起動と同時にナビも起動させるモードもあるのかも知れない。もし、そうならばシステム・ナビ同時起動で使ったほうが便利だろう。

乗り心地は基本的にいいのだが高速道路の不整路面では若干の突き上げがある。リヤサスペンションのショック吸収がイマイチで、路面がはがれたような部分を通過すると“ドン”と突き上げがあり、装着されているドライブレコーダーが“ピッ”と反応し、録画を開始した。

高速走行中の乗り心地、静粛性ともに良好。シートは大ぶりだがしっかりと身体をホールドしてくれる。今回は200km程度を無休憩で走ることもあったが、シートに不満は感じなかった。

◆大きさを感じさせない軽快な走り
一般道に下りてワインディングを走るとクルマの大きさを感じさせない軽快な走りができた。どのバッテリーEVも同じなのだが、床下にバッテリーを搭載し重心が低くなっているおかげで、落ちついた印象のハンドリングを実現している。車重は2.5トンもあるが鈍重な印象は皆無。ブレーキ容量も十分な印象。

ブレーキといえば回生ブレーキにはちょっと物足りなさを感じる。回生ブレーキはセンターモニターの設定で強弱が選べるが、やはりハンドルで最低3段階、できれば5段階程度は調整したい。

回生ブレーキを強く働かせると同乗者が酔いやすいという弊害があるのはわかるが、同乗者がいない状態で使う機会も多い。そうしたときにいかに回生ブレーキでエネルギーが回収できるか? はEVの利点であり、楽しさでもある。とくに下り坂などでは回生を弱くして速度を上げ、コーナー手前で回生を強くしエネルギーを回することを繰り返すことで、エネルギーの無駄づかいを減らせる。シーライオン7はメーター内に、瞬間電費が表示されるのでマニュアルで回生ブレーキの強さを調整できれば、より効率的にエネルギー回収ができるはずだ。

◆シーライオン7の充電性能は
横浜から保土ヶ谷バイパスを経由、圏央道、中央自動車道と走ったのち、小淵沢インターで高速道路を下りて一般道で撮影。諏訪南インターからふたたび中央自動車道に流入した。諏訪湖サービスエリアにたどりついたときのSOC(充電残量)は47%で、走行可能距離は291kmという表示。高速道路を走り続けると残り約280kmの旅程。一般道だと約160kmとなる。諏訪湖まで来ていれば残りはほぼ下り勾配なので高速利用でもおそらく無充電で走行可能だが、せっかく充電器があるのだから充電することにした。

諏訪湖SAには90kW機が5基並んでいる。接続時は私が乗っていたシーライオン7のみであったが、すぐに別のシーライオン7が合流、2台体制での充電となった。接続してすぐの充電受け入れ値は81.4kW。シーライオン7の最大充電受入電力は105kWだ。充電終了時の充電器側に表示された情報によると充電量は32.9kWh、充電時間は30分02秒なので、60kWhレベルの充電が行えたことになる。

充電を終え、そのまま高速道路を走り、富山に到着した際のSOCは24%。充電せずに高速道路を走った場合は電費を気にした走行にしなければたどりつけなかっただろう。宿泊予定のホテルに普通充電器があれば、そのまま投宿となるところだが、あいにくホテルには充電器はなく、急速充電しないと翌日のスケジュールがこなせない。アプリで充電器を探すと150kWの出力を誇るフラッシュの充電器を発見。そちらで充電することになった。

フラッシュの充電器はeモビリティパワーの充電器は使えず、クレジットカードでの支払い。料金制度は時間ではなく従量制となっている。接続後すぐに100kW超えの充電が始まった。およそ15分経ったところで90kWにダウンしたが、それでも高出力である。フラッシュは30分という時間制限はないので80%になるまで充電を続けた。33分で80kWh充電を完了。充電終了間際の電力量は79.6kWとかなりの高性能さである。

◆バッテリーは容量よりも「受け入れ能力」が大切
帰京には、全輪駆動の「AWD」を試乗した。

AWDも基本的な性能には差を感じないが、AWDのほうが乗り心地にしっとり感があった。大きな違いはモーター追加による重量増だが、これは前後重量バランスの向上に役立っている。タイヤはRWDがコンチネンタルでフロントが235/50R19、リヤが255/45R19の設定。AWDはミシュランで前後ともに245/45R20の設定。重量バランスとタイヤサイズ、銘柄の違いが乗り心地のフィーリングに影響しているのだろう。

シーライオン7に乗って感じたのはまずバッテリーは容量よりも急速充電受け入れ能力が大切だということ。大きく重いバッテリーを積んでいても急速充電受け入れ能力が低ければ、旅程の途中でのロスタイムが大きい。急速充電が高ければ上手に注ぎ足し充電することで効率よく目的地に到着できる。

シーライオン7はボディ幅が大きく、取り回しや駐車ではとくに気をつかうのが難点。日本の標準的な駐車場は2.5m×5mなので全幅1925mmのシーライオン7だとちょっと狭い。自宅駐車場が広く、周囲の道も広く、訪れる場所の駐車場も広いならなんら問題はないが、役場の駐車場など杓子定規に設計されている駐車場では手に余ることがあるだろう。

RWDの価格は495万円、AWDは572万円。国の補助金は35万円、東京都の場合はさらに45万円の補助金があり、補助金の合計は計80万円となる。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。

BYD シーライオン7 諏訪湖SAでの充電シーン《写真撮影 諸星陽一》 BYD シーライオン7の充電口《写真撮影 諸星陽一》 BYD シーライオン7《写真撮影 諸星陽一》 BYD シーライオン7《写真撮影 諸星陽一》 BYD シーライオン7《写真撮影 諸星陽一》 BYD シーライオン7《写真撮影 諸星陽一》 BYD シーライオン7《写真撮影 諸星陽一》 BYD シーライオン7《写真撮影 諸星陽一》 BYD シーライオン7《写真撮影 諸星陽一》 BYD シーライオン7《写真撮影 諸星陽一》 BYD シーライオン7《写真撮影 諸星陽一》 定員乗車時のラゲッジルーム《写真撮影 諸星陽一》 フルラゲッジ《写真撮影 諸星陽一》 リヤシート片倒しラゲッジルーム《写真撮影 諸星陽一》 機内持ち込みサイズ5個のスーツケースが搭載できるラゲッジルーム《写真撮影 諸星陽一》 BYD シーライオン7《写真撮影 諸星陽一》 BYD シーライオン7 フラッシュの充電器での充電シーン《写真撮影 諸星陽一》