アウディ A5 TSFI 110Kw《写真撮影 中村孝仁》

恥ずかしながら2022年以降、アウディに試乗したモデルはたった2台しかない。そして2023年には1台も乗っていない。

2021年には7台試乗している。この落差は、一つにはアウディのニューモデルが少なかったからに他ならないと思うのだが、それにしても個人的にアウディに縁遠くなってしまっていたのは、とても残念である。

今回久しぶりにブランニューモデルの『A5』が登場し、その試乗会が行われて、本当に丸1年ぶりにアウディに試乗した。因みに最後にこのA5と名の付くモデルに試乗したのは2017年だから、実に8年ぶりである。ただし、当時のA5と今回の新しいA5とは、その立ち位置がまるで異なっている。

新しいA5はかつてのアウディ中核車ともいえる、『A4』が名を変えて登場したモデル。かつてのA5と言えば、そのA4をベースにパーソナライズ化したクーペ、カブリオレ、それにスポーツバックと呼ばれるモデルがラインナップされていたのだが、今回はA4のセダンと、かつてのアバントの2モデルだけになり、アバントもスタイリッシュなシューティングブレーク風のデザインを纏って登場した。今のところ、クーペやカブリオレの存在はない。また、セダンはクーペライクなスタイリングのモデルになり、やはりスポーツバックを強く意識させるテールゲート付きのモデルに変貌している。

このうち今回試乗したのは、「A5 TSFI 110Kw」と呼ばれるモデル。今回選べた試乗車の中では最も素のモデルである。つまり2リットルのガソリンエンジンは最高出力110kw(150ps)で、駆動方式もFWDである。それでもグレードの中では3種(Sライン、アドバンスド、スタンダード)あるうちの最上級のSラインだ。

◆このご時世に投入された内燃機関用プラットフォーム
その昔、ヨーロッパ車に乗るなら素のモデルが一番お勧めなどとはよく言われたものだ。蕎麦屋に行っても味の本質を見るのはかけ蕎麦に限るとか、パスタを食べるにはアリオ・エ・オリオだ…とか、とにかく素を味わうと本質がわかるなどという。そんなわけだから、今回はラインナップされる一番ベーシックなモデルを選んだというわけである。

しかし、そうは言ってもそのベーシックモデルの価格は、車両本体価格599万円。寸止めで600万円には届かないものの、試乗車にはオプションが合計107万円載っていて、結局は600万どころか、乗り出しは700万円台中盤と言うところ。クルマが高くなったことを痛感せざるを得ないのだが、まあ仕方がないのかもしれない。良いものを求めようと思えば高くつくのである。

というのが、今回試乗して痛感した点。つまり「良いもの」なのである。いつも言うことだが、人間なんてまず絶対評価などできないから、直前に乗っていたクルマに大いに左右される。今回は日本製のコンパクトSUVに乗っていった。極めて堅実でバリューフォーマネーのクルマだが、ハイエンドのDセグメントに乗ると、その差は顕著。黙っていてもその違いを痛感させられるから、値段は嘘をつかない。

今回のモデル、PPCという新しいプラットフォームを採用している。プレミアム・プラットフォーム・コンバスションと言うのだそうだが、つまりは内燃機関用のプレミアムプラットフォームだという。だから、このプラットフォームはBEVとは切り離されているわけで、どこまでこのプラットフォームが使われるのかは不明だが、少なくともBEV用ではない。そんな内燃機関専用のプラットフォームをこのご時世に投入するということは、やはり当分の間は内燃機関の手を抜いてはいけないということを、物語っているような気もする。

◆卒のないまとめ方と、抜かりないチューニング
ICEとBEVで顕著な差となって出るのは、元々モーター駆動のBEVは音振が極めて小さく、重心もバッテリー積載で下がるから、快適だという点。今回のPPCは、その部分を極力BEV用のプラットフォームと言うか、BEV車並みの音振を目指した節があって、とにかくこの2点が素晴らしく良く抑え込まれている。だからNVH性能は極めて高い。

4気筒のTSFIユニットも、それ自体は新しいものではないはずだが、このメーカー(というかVW系)は、エボと名をつけると恐ろしく変化して、まるで新しいものを作ったかのような錯覚を起こさせるのが得意だから、敢えて説明はなされなかったが、何らかの対策が施されたエンジンのような印象を受けた。モノは試しとレヴエンドまでがっつり回してみたが、見事なほどストレスフリーで回るし、トップエンドに至るまで加速の手を緩めなかった。

もちろんパワーはそこそこでしかないのだが、およそ日本の交通事情で使う限り、パフォーマンスには何の不満もない。むしろ、敢えて言うならこっちの方が扱いやすいかもしれない(150Kwは試していないが)。また、今回から可変ジオメトリーターボを初採用したそうだ。エンジンに伸びのある回転フィールを感じるのは、そのあたりの理由があるのかもしれない。

今回は新たにステップATではなく、7速のいわゆるDCTが採用されている。この変速も実にスムーズで、かつては渋滞時などに変速のギクシャク感を感じたものだが、少なくとも今回の試乗でそうした悪癖はまるで感じられなかった。

ボディがだいぶ大きくなり、ディメンションでは一昔前の『A6』に近づいた感があるが、そのおかげもあって乗り心地のどっしり感はA4時代よりもぐっと高く、室内の広さと共に、「ひとクラス上」を感じさせる。

久々にアウディから内燃エンジン搭載モデルが誕生した。やはり卒のないまとめ方や、抜かりないチューニングは健在である。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

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