ルノー アルカナ エスプリ アルピーヌ《写真撮影 南陽一浩》

コンパクトなSUVクーペの旗手として好評を博しているルノー『アルカナ』が、今秋からマイナーチェンジモデルに切り替わった。しかもE-テック フルハイブリッド、マイルドハイブリッドとも、「エスプリ アルピーヌ」という、アルピーヌ風味を効かせた新しい仕着せが登場したのだ。

SUVは欧州Bセグに加え、国産車でマツダ『CX-3』やトヨタ『ヤリスクロス』を擁するクラスだが、じつはSUVクーペというのは珍しい。クーペならではのルーフラインをもち、地上高200mmというSUV並のクリアランスに、ファストバックゆえの実用性の高いデザインとボリュームもさることながら、アルカナがヒットしている理由は他にもいくつか挙げられる。

大きな決め手は、とくにE-テックフルハイブリッドの方だが、輸入車のイメージを覆すほどの好燃費だ。日本市場でハイブリッドといえば、販売店で数値が話題になるのが常だが、アルカナのフルハイブリッドならWLTCモードによるカタログ燃費で22.8km/リットル。加えて流れのいい道で少しエコラン気味に走ると、軽々それ以上の数値を発揮するとあって、購買理由の大きなテコ入れになっているという。もちろん輸入SUVカテゴリーではNo.1の燃費であり、空力的に意味のあるクーペスタイルでもある。

もうひとつの長所は、ハイブリッド&好燃費にも関わらず、驚くほど走りにダイレクト感があるところだ。エンジン側が4速、モーター側が2系統のギアボックスはドグクラッチをアクチュエーター制御する独特の代物で、重複組み合わせを除いてもEV1速から12速の要素を備える。それほどキメ細かく、かつラバーバンド・フィールがゼロで電気モーターのアシストも手伝って、アクセルを踏んだ分だけ小気味よく加速する。そこにいわずもがな、ルノーらしく素直で楽しいハンドリングが加わる。個人的にはルーテシアのE-テックも強く勧めるが、アルカナの視点の高さは確かに捨て難い。

ちなみにアルカナの累計グローバル販売台数は29万台というから、すでになかなかのヒット作だが、日本市場では約2000台。円安がなければもっと上積みがあった/あるだろうから、まだまだだ。

◆スポーティプレミアムかつフレンチタッチの方向性
では実車に移ろう。マイチェンモデルの外観上の変更点は、まず新しいルノーの「ロザンジュ(菱形のこと)」エンブレムが、面にツライチに馴染ませたフラット意匠に改められたこと。フロントグリルのパターンも、ハーフ・ダイヤモンドシェイプが立体的に浮かび上がる造形で、まるでロザンジュ・モノグラムといった雰囲気だ。

リア側に回れば、エキゾーストフィニッシャーがブラックアウトされコンビネーションランプはクリアとなり、全体のトーンを落として引き締まった印象となった。フロントフェンダー脇の「エスプリ アルピーヌ」のサイドガーニッシュといい、スポーティプレミアムかつフレンチタッチの方向性がうかがえる。

しかし、よりエスプリ アルピーヌならではの香りがするのは、内装だ。ここ数年来、よく聞くテップレザー(=TEPレザー、tissu enduit du plastiqueの略で布地に合成樹脂を含ませた合成レザー)とスウェード調素材なっている。つまりレザーフリーインテリアで、とくにTEPの方は10%がバイオテクノロジー由来の素材という。

素材もさることながら、さすが本家本元による本歌どりのシートの質感、座り心地よさにも感心させられる。過去のアルピーヌ歴代ベルリネットに通じるような、身体が滑りにくい起毛素材と、擦れに対する耐久性重視のサポートにはレザー使いというコンビシートで、青ステッチのアクセントやパターンにも「らしさ」が表れている。現行アルピーヌ『A110』のようなスパルタンな造りというより、むしろ他車種のエスプリ アルピーヌにも展開することが前提であろう、分かりやすくいえばホンダでいう「RS」的な快適志向のスポーティシートだ。

またフレンチタッチな装飾的ディティールとして、ドア張りには赤白青のトリコロール・ステッチが施されている。乗り手の視点や手元に近い部分だけで、あらゆるステッチを3色3列にしないところが、やり過ぎていなくていい。本来は1列か2列で足りるものなのだ。内装でひとつ気になったのは、元より前期型もカーボンなどの固いパネルだったが、ダッシュボードの加飾パネルが表面パティーヌ加工気味の樹脂パネルであること。ここがドアパネル同様にスウェード調だったら、なおのこと質感が良かったはずだ。

もっともマイナーチェンジモデルとして機能的に進化した部分は、前期型まで横長7インチだったタッチスクリーンが、縦長9.3インチに大型化されたこと。またフェイズ1末期から追加されたE-セーブ機能がデフォルトで備えつけられた。これは、My Sense画面の上でONかOFFを選ぶのみだが、バッテリー残量が40%以下になると自動的にエンジンが点火され充電が始まり、バッテリー切れを防ぐ。要はシリーズハイブリッド化スイッチだ。

とはいえ通常走行の範囲内なら回生がこまめに効くため、峠の登りなどを相当ゆっくり走らない限りは1.2kWhのバッテリーは空になりづらいので、登り坂でICEだけの94ps・148Nmになると動的質感として淋しい、という話から加わった機能だろう。

◆デジタルとアナログの境目を見極めている
それにしてもアルカナでほぼ半日、走り回ったのは久々だったが、トルコンやCVTにはない滑らかさとダイレクトさ、息の長い加速と軽快なフットワークが強く印象に残る。駆動フィールの感触の上で、強いて似たものを挙げるなら、DSGもしくはDCT、ルノーではEDCと呼ぶデュアルクラッチトランスミッションが近い。

駆動力供給が電気モーターでもICEでも、切り替わる先でドグクラッチが繋がり待機する、そんなロジックは確かに似ているのだが、負荷の大きい加速時や減速回生時にモーターを挟むことを瞬時に判断制御する、複雑マルチモードなプログラムの出来も大したものだと思う。もはやルノー・スポールではないし、本家アルピーヌではないものの、ルノーとして走りを進化させていることを示す徴(しるし)、それがエスプリ アルピーヌなのだろう。

1470kgという車両重量は欧州Bセグ車として決して軽くないが、4.5mを僅かに超える全長と1800mm強の車幅、そして2720mmというホイールベースを鑑みれば、アルカナの真のライバルはその上、従来でいうCセグ・ハッチバックやワゴン辺りなのだろう。しなやかな乗り心地の優しさ、街中でとり回し易いサイズ感、荷室容量ふくめ1台であれこれ完結しそうな実用感まで、じつに巧みにまとまっている。

ところでアルカナはエスプリ アルピーヌとなって、前期型の18インチ改め19インチの凝ったデザインのホイール&タイヤを履いている。それでも、走らせるほどにクセがなくトレース性に優れたハンドリングで、無闇に跳ねてバタつく上下動もなく、雨の中でも手元のステアリングがインフォメーション不足でふわふわする感触もなかった。後期モデルからはメーカーオプションで電動パノラミックルーフも用意され、一方でコックスが開発したボディダンパーもまた設定予定とのことだ。

しかしトドメのグッド・サプライズは、前期型からそうだったがセンターコンソール根元のUSB-C×2口のモジュールに、相変わらずAUXインプットが備わっていたこと。なぜ驚くかといえば、最近のニューモデルは十中八九、インフォテイメントがブルートゥースで音楽ひとつ車内で聴くにも無線接続、もしくはUSBでアップルカープレイなりアンドロイドオートなりエミュレーションが前提となる。だが世間には、無線よりアナログ有線の音を好む人は一定数、音楽を聴くためだけにプラットフォーマーのポリシーに同意させられるのはプライバシー保護の観点から厄介だと思っている人は一定数以上、いる。

そもそもカセットデッキやレコードのアナログ・サウンドが再評価されている時代に、車内インフォテイメントのインターフェイスが逆行している中、後期型でAUXをわざわざ省かないアルカナは、じつは一周まわって新しいことをしている。ちなみに車載オーディオはBOSEで、音離れの良さと柔らかい低音が際立っていた。デジタル・プロセッシングすべきものと、アナログで残すべきもの、その境目をルノーはよくよく見極めているようだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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