ランドローバー ディフェンダー110《写真撮影 中村孝仁》

今年に入って、ランドローバーの『ディフェンダー』を、サイズの違いですべてお借りした。改めてそれぞれの個性があることをと痛感した。

自動車というのは、車種によって成り立ちが違えばその個性も違う。ましてジャンルが違えば良さもまたそれぞれである。しかし、全長が異なる3種をラインナップするランドローバー・ディフェンダーは、長さが違うほぼ同じスタイルを持ちながら、それぞれに個性豊かな表情を見せ、単なる長さの違いだけではない独特な良さを持っていた。

一番短い「90」は、普通乗用車で言えば言わば3ドアハッチバック。これにパワフルなV8エンジンを搭載したものだから、そのパフォーマンスと短いが故の取り回しの良さによる高性能な走りが魅力だった。一番長い「130」は一番快適で、我が家のように2世帯が同居するようなケースではこのクルマが重宝するだろうなぁ…という印象。そして今回お借りした「110」は、そのパフォーマンス(3リットルディーゼルターボ搭載)にしても、サイズ感にしても過不足を感じず、これならずーっと乗っていたい…と思わせるモデルであった。

◆先代を思い起こせないほど様変わりした
現行ディフェンダーが誕生した2020年以降、同社が販売する今風にいうならSUVの各モデルは、いずれもハイエンド仕様と言って過言ではない豪華さと快適さを兼ね備えたモデルに方向転換した。かつて高級志向の『レンジローバー』、ファミリー向けの『ディスカバリー』、そしてオフローダーとして道なき道を行くのに適した『ディフェンダー』、という異なる要素は、確かに今もそういう要素の元に作られているのかもしれないが、いずれのモデルも完全に高級志向で、ブランド的にもランドローバーがプレミアムブランドに転換していることを痛感する。

しかし、そうは言っても今もって泥んこ遊びは得意なようで、最近は全く試してはいないものの、悪路の走破性はたとえ超が付く高級モデルのレンジローバーであって、もいささかも衰えていないようである。

かつて一度だけランドローバーのモデルを所有したことがある。それはデビューしたてのディスカバリーで、軽量化のためアルミのボディパネルを持ち、テレンス・コンランによってデザインされた巧みな室内空間、リアのサイドにはルーフ回り込んだアルパイン・ウィンドーが設けられ、明るい室内とキックアップしたルーフでの開放感が満喫できた。また、折り畳み式のシートが横向きに3列目として用意され、いざという時にも役にたった。しかもそのオフロード性能は、ドライバーがしり込みをするような難所も何事もなかったように走り抜ける様にすっかり心を奪われた。

かつては本当に武骨な存在でしかなかったディフェンダーも、すっかり宗旨替えして、とても先代を思い起こせないほど様変わりした。

◆いつまでも乗っていたくなる
2列5人乗りの室内空間は、快適且つ静粛性に優れ、高級SUVのライバルに引けを取らない上質感にあふれている。オンロードにおける操安性の良さは、これもこのジャンルではかなり洗練された部類に入り、元来オフローダーは悪路におけるステアリング入力を往なす必要性から、中心付近を敢えて曖昧な設定として、それゆえにオンロードでの直進安定性との妥協点に目をつぶる傾向にあったものだが、今ではすっかりそうして傾向がオンロード用に改められ、とても正確なスタリングフィールと高い直進安定性を誇る。

だから、ボディが大きくても全く気にすることなく、狭路で自信をもってステアリングを切ることができる。今回も往復700kmほどの高速中心の試乗をさせて頂いたが、全くの疲れ知らずで人間の生理現象でのストップ以外は、いつまでも乗っていたくなるほど快適であった。

前述した初代ディスカバリーには、室内採光のためのアルパイン・ウィンドーが装備されていた。いま、ディスカバリーにそれはないが、現行ディフェンダーにはそれがある。スモークウィンドーで、当時のような明るい解放感というわけでではないものの、ランドローバーの伝統的なデザインエレメントがしっかりと残されている印象である。

ヨーロッパはいずれ内燃機関の開発を止めるだろう。特にイギリスではBEVとPHEVしか内燃機関搭載車は生き残れそうもなく、MHEVを搭載した3リットルターボディーゼルも、その良さを堪能できるのはそう長いことではないかもしれない。「AJ300」の名を持つこのエンジンは、最高のバランスと高い静粛性とスムーズネスを持ったエンジンで、僅かにディーゼルサウンドが届くとは言え、ライバルの6気筒ターボディーゼルに引けを取らない。このクルマも本当に欲しいと思わせる1台だった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

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