ヤマハ MT-09 SP(左)とドゥカティ モンスター+(右)《写真撮影 山内潤也》

◆並列3気筒とV型2気筒。エンジンキャラクターが走りの違いを生む
ここで紹介する日本とイタリアのネイキッド2台は、どちらもメーカーの普遍的なアイコンとして世界中にファンがいるモデル。ヤマハ『MT-09』は10年、ドゥカティ『モンスター』に関しては30年も進化を繰り返してきた。『MT-09 SP』は今年大きなモデルチェンジを受け、『モンスター+』は2021年のデビュー以来、大きな変更はなく現在に至る。

最新のMT-09 SPは、並列3気筒エンジンを搭載。排気量888cc、120ps/1万2000rpmのスペックを持ち、価格は144万1000円。ドゥカティ モンスター+は、V型2気筒エンジンを搭載。排気量937cc、111ps/9250rpmのスペックを持ち、価格は156万4000円〜。

確かに排気量や価格はそれなりに近い2台だが、走り出すとどちらもエンジンの主張がとても強い。その個性は対極にあるといっていいほど。MT-09 SPの並列3気筒は国産ではヤマハにしかないキャラクターで、V型ツインも国産ではスズキの『SV650』シリーズだけ。スポーツバイクとしてはどちらも意外とレアなエンジンを搭載しているのだ。

ハンドリングは、エンジン幅の広いMT-09 SPは安定型、エンジン幅の狭いモンスター+は軽快型。また、クランク2回転(720度)の爆発間隔は、MT-09 SPは『240度→240度→240度』の等間隔、モンスター+は『270度→450度』の不等間隔で、この違いがスロットルを開けた時のフィーリングやトラクションの違いを生む。

◆ライダーに寄り添うMT-09 SPとライダーを選ぶモンスター+
MT-09 SPとモンスター+は、排気量やパワー&トルクといったスペックからその乗り味を想像するのが難しいバイク。ただ、どちらもスロットルを開けた時の反応が面白いバイクでもある。

MT-09 SPの低中速域は等間隔爆発ならではのスムーズさで、排気量以上の豊かなトルクを発揮。難しいことを考えずに走り出してもこの感覚を味わうことができるだろう。街中では3速や4速でオートマチックのように走ることができ、頻繁にギヤチェンジをする必要もない。スロットルを開けると3気筒特有のエキゾーストノートが加速を後押しし、気持ちの良いフィーリングが訪れる。少し大きめにスロットルを開ければ、怒涛の加速も約束してくれる。

一方、モンスター+の低中速は、それなりのキャリアがないと難しさを感じるかもしれない。スロットルをしっかり開け、半クラッチは短めでさらにクラッチがつながったら再びスロットルを開け足さないとギクシャクするからだ。市街地や渋滞中は頻繁なギヤチェンジも強いられる。このVツインエンジンを扱うには、スキル、もしくは慣れか我慢が必要なのだ。以前に比べたら随分乗りやすくなっているのは間違いないが、MT-09 SPと比較すると、気軽さはどこにもない。

ただ、それがドゥカティだ。自分で扱う意識やコントロールするためのスキルを身につけることで、他のバイクでは得られないバイクとの一体感を得ることができる。操作が決まった時のライダーとバイクのシンクロ感は抜群で、その気持ちよさといったらないのだ。上手く操れたのか、操れなかったのか、その答えも明確にくれる。

ペースが上がっても同様でMT-09 SPは全域でスムーズ。ドゥカティは最適なエンジン回転数とスロットルの開け方ができると、抜群のトラクションを発揮してくれる。

◆「乗りやすいから楽しい!」だけじゃない、バイクの魅力
バイクは「乗りやすい=魅力的」ではないものの、乗りやすいのは圧倒的にMT-09 SPだ。前途したエンジンのキャラクターと前後サスペンションのマッチングはとても良い。サスペンションやブレーキは、市販車としてはかなり上級グレード。だからライダーの操作は、正確かつ適切なタイミングでバイクに伝わり、それが運動性の良さに直結する。特にSPモデルはこの傾向が強く、市街地などではサスペンションがハードに感じる傾向もあったが、スポーティな走りではライダーを力強くサポートしてくれる。

モンスター+は高機能パーツを使って運動性を出すのでなく、独自の車体構成で軽さやハンドリングを生み出している。足まわりやシートは日本専用の足つき性を優先したパッケージのため、MT-09 SPのようなスポーツ性はない。しかし、軽さを武器にカーブをひらひらと舞うように走れる爽快感がある。

バイクにおいて軽さは、何事においてもメリットに働くことを教えてくれる。このハンドリングは、ほぼ単気筒の幅しかないスリムなVツインエンジンと、そのエンジンの上にマウントされる3kgしかないフロントフレーム、さらにエンジンから直接生えるスイングアームが生み出している。

フレームにエンジンを懸架するMT-09 SPと、エンジンをフレームの一部に考えるモンスター+の差が、個性の違いにわかりやすく現れているのである。

◆対極にある2台が「選ぶ難しさ」「悩む楽しさ」を教えてくれる
今、ミドルクラスネイキッドのセグメントは多様性に溢れている。この2台のように国内外を問わずメーカーの個性が反映されたバイクがとても多い。価格もスペックも幅広く、最近では電子制御が充実したモデルもたくさんある。

欧州でこのカテゴリーは、「ソフトスポーツバイク」と呼ばれ人気だ。大排気量やハイスペック、さらには窮屈なポジションから離れたこのカテゴリーが注目を集めているのだ。バイク趣味を長く楽しむためには、自分の好みにバイクのキャラクターをフィットさせなければならない。この対極にある2台が、選ぶ難しさ、そして悩む楽しさや大切さを改めて教えてくれた。

MT-09はデビューから10年が経過しヤマハスポーツネイキッドのアイコンに。MT-09 SPはその最高峰モデル。一方のモンスターは1993年にデビュー。ドゥカティを支えてきたロングセラーモデルだ。モンスター+は足つき性を優先した日本専用車となる。

モンスター+と乗り比べることで際立つのは、MT-09 SPのジェントルさ。3気筒のシルキーさと豪華な足回りのマッチングがとても良い。反対に、この排気量で、軽快さにおいてモンスターに勝るバイクはないだろう。実際の重量より体感重量の方が明らかに軽いのだ。

ヤマハ MT-09 SP(左)とドゥカティ モンスター+(右)《写真撮影 山内潤也》 ヤマハ MT-09 SP《写真撮影 山内潤也》 ドゥカティ モンスター+《写真撮影 山内潤也》 熟成を重ね、さまざまなモデルに採用されるDOHC並列3気筒の888ccエンジン。国産唯一のパッケージで、ヤマハらしい気持ちよさと速さを約束。《写真撮影 山内潤也》 937ccのVツインエンジン。昔はLツインと呼ばれたが、近年はエンジン搭載角度が起きてきたためVツイン表記に。まあ、モンスターに関してはまだまだLに近いが…。最大出力は111ps/9250rpm、最大トルクは9.5kgm/6500rpm。《写真撮影 山内潤也》 ヤマハ MT-09 SP(左)とドゥカティ モンスター+(右)《写真撮影 山内潤也》 ヤマハ MT-09 SP《写真撮影 山内潤也》 ヤマハ MT-09 SP《写真撮影 山内潤也》 ヤマハ MT-09 SP《写真撮影 山内潤也》 ドゥカティ モンスター+《写真撮影 山内潤也》 ヤマハ MT-09 SP《写真撮影 山内潤也》 ドゥカティ モンスター+《写真撮影 山内潤也》 ヤマハ MT-09 SP《写真撮影 山内潤也》 スピンフォージドホイールと呼ばれるヤマハ独自のホイールを採用。外周のリム部分を薄く、軽くすることで、鋳造ながら鍛造並みの軽さと剛性を確保。仕上げも美しく、軽快感を思わせるデザインが与えられている。《写真撮影 山内潤也》 燃料タンクは、特別なプレス技術で整形することにより鋭いエッジが与えられた。プロダクトデザインと製造技術が高いレベルでバランスしている。《写真撮影 山内潤也》 リラックスしたポジションを約束するバーハンドルは、前作よりも少しだけ低くマウント。ハンドル切れ角は28度から32度に増えている。《写真撮影 山内潤也》 ヤマハ MT-09 SPはヘアラインが美しいアルミスイングアームを採用。3気筒のパワー&トルクを質の高いトラクションへの変換。《写真撮影 山内潤也》 リヤサスはオーリンズ製。油圧式のリモートプリロードアジャスターを装備。タンデム時や荷物搭載時に簡単に手で回せるのが良い。《写真撮影 山内潤也》 ヤマハ MT-09 SP《写真撮影 山内潤也》 小川勤氏とヤマハ MT-09 SP《写真撮影 山内潤也》 ドゥカティ モンスター+《写真撮影 山内潤也》 フレームがないバイクに見えるモンスターのスタイリング。タンクの下に小さなアルミモノコックフレームがあり、その重量はわずか3kg。《写真撮影 山内潤也》 ドゥカティ モンスター+《写真撮影 山内潤也》 ドゥカティ モンスター+《写真撮影 山内潤也》 ドゥカティ モンスター+のエキゾーストパイプはエンジンの下を通り、2本のサイレンサーに。2気筒であることを強調する。《写真撮影 山内潤也》 複雑な形状の燃料タンク。下側にはウインカーがあり、ウインカーは前から流れるように点滅。こういったディテールにも凝っている。《写真撮影 山内潤也》 ドゥカティ モンスター+のメーター周り《写真撮影 山内潤也》 初期型モンスターから続く丸目ヘッドライトを現代風にアレンジ。モンスター+にはビキニカウルが装着される。《写真撮影 山内潤也》 ドゥカティとしてはかなりソフトな設定のリヤサスペンション。もちろん本国仕様の長いサスペンションに組み替えることもできる。《写真撮影 山内潤也》 フロントフォークは足つき性を重視した日本仕様。キャリパーはブレンボ製モノブロック。SPはブレーキ周りのグレードもアップ。《写真撮影 山内潤也》 ドゥカティ モンスター+のリア周り《写真撮影 山内潤也》 モードは「スポーツ」「ツーリング」「アーバン」を用意。路面コンディションやライダーのスキルに合わせて選びたい。《写真撮影 山内潤也》 ドゥカティ モンスター+《写真撮影 山内潤也》 ドゥカティ モンスター+《写真撮影 山内潤也》 筆者・小川勤氏とドゥカティ モンスター《写真撮影 山内潤也》