アウディのカルロス・サインツが2024年のダカールを制した。《Photo by Red Bull》

2024年のダカールラリーが1月19日に閉幕、アウディのカルロス・サインツが四輪総合優勝を飾った。アウディは電動車による挑戦3年目にして初の栄冠、サインツは4年ぶり4回目の優勝。初制覇を狙ってサインツと競ったセバスチャン・ローブは及ばなかった。

◆3連覇を狙ったアルアティアらが脱落していく過酷な展開
サウジアラビアを舞台にして5年目のダカールラリー、2024年大会(1月5〜19日)のコースはかなりの難度だったといえそうで、四輪総合優勝を争うと目された“大駒”たちが中盤までに実質的な勝負権を失うなどする展開が続いた。

3連覇を狙うナッサー・アルアティアはTOYOTA GAZOO Racing(TGR)を離れ、名門コンストラクターのプロドライブが製作したマシン「ハンター」を駆って2024年大会に参戦(チーム名はNASSER RACING)。しかし中間休息日を前に上位の争いから脱落し、最終的には戦線離脱ということに。

電動ドライブ車でのファクトリー参戦3年目を迎え、四輪総合初優勝を目指すアウディ(Team Audi Sport)も決して順調な流れとはいえなかった。「RS Q e-tron」を駆るひとりで、通算8回の四輪総合優勝歴を誇るステファン・ペテランセルが前半のうちに大きく後退。サーキットレースのDTMでチャンピオンになった経歴を有するなど、アウディとともにマルチな活躍をしてきたマティアス・エクストロームも休息日の翌日に総合上位での戦いから姿を消す。

アルアティア(ハンター)とペテランセル(アウディ)の脱落につながったのは、休息日の前に2日間を通して「48時間クロノ」という新たな設定によって実施されたステージ6だった。ここが今大会のカギのひとつであったか。四輪総合首位でステージ6に臨んだ地元サウジアラビアの選手、ヤジード・アル-ラジ(OVERDRIVE RACING、マシンはトヨタ・ハイラックス)もここで戦線を離脱している。

アウディの希望はカルロス・サインツ“シニア”に託された(現役F1ドライバーであるカルロス・サインツの父。1990、1992年の世界ラリー選手権=WRCチャンピオン)。サインツはステージ優勝こそないものの、大半のステージを1桁順位で終える安定感を見せ、前半戦(ステージ6)終了時点で返り咲いた総合首位の座を守って戦いを進めていく。

そしてアウディの僚友たち、ペテランセルとエクストロームはサインツのサポート役にまわった。トラブルに備えての随伴役や、水先案内役を務めるなどして、全力でサインツを援護。強力布陣から協力布陣への切り換えは、さすがファクトリーチームというプロフェッショナルな仕事ぶりである。

◆達成されるのはどちらの“悲願”か。最後まで戦いは白熱
ラリー終盤、四輪総合優勝争いは61歳のサインツを49歳のセバスチャン・ローブ(2004〜2012年WRCチャンピオン)が追う展開に集約された。サインツは自身4年ぶり4度目の制覇に向けて、逃げる。WRC最多9冠を誇るローブは悲願のダカール初制覇を目指し、追う(ローブはプロドライブ製ハンターでの参戦。チーム名はBAHRAIN RAID XTREME)。

過去2年連続2位のローブにとって初制覇が悲願なら、アウディは今回が当面最後のファクトリー参戦になるとみられており、こちらも初制覇は悲願だ。達成されるのはローブの悲願か、それともアウディの悲願か!?

サインツがチームメイトのサポートを得ているのと同じように、ローブもハンター勢の支援を受けての戦いではあったが、孤軍奮闘に近い様相にも思われた。勝負権を失ってローブ支援の意向を見せていたアルアティアが最終的に完全な戦線離脱となってしまったため、ローブは最も頼れる(最も近くを走れる)サポート役を失っての厳しい終盤戦を強いられていたのだ。

全12ステージ中のステージ11、ここで決着がつく。残り2日を総合首位サインツに13分22秒差の総合2番手で迎えたローブだったが、ステージ11で大幅なタイムロスを喫するアクシデントがあり、逆転勝利の夢は潰えた。この日のスタート順はサインツが後ろだったが、救援待ち状態のローブをサインツが抜いていった段階で、第46回ダカールラリー、その四輪総合優勝の行方はほぼ決したといえよう。

なお、このステージ11ではローブの後退によって総合2番手に浮上とみられたTGRのルーカス・モラエス(マシンはハイラックスEVO T1U)も手痛いアクシデントで大きく総合順位を落とすことになっている(モラエスのラリー最終結果は総合9位。TGRは3連覇ならず)。

◆VW、プジョー、ミニ、そしてアウディ。サインツが4ブランドで4冠
サインツはステージ11を終えた段階で、総合2番手に上がったギョーム・ド・メビウス(OVERDRIVE RACING、マシンはトヨタ・ハイラックス)を1時間半近くリードすることとなり、翌最終日、そのまま逃げ切って総合優勝を飾った。自身4年ぶり4回目の栄冠で、アウディに悲願の四輪総合初優勝をもたらしたのである。ステージ優勝なしでの総合優勝は、61歳の大ベテランならではの強さの象徴、勲章のようにも(観る側には)思えてくるところだ。

カルロス・サインツのコメント

「この勝利は私にとって大きな意味がある。なにしろ、4つの異なるブランドでの通算4回目の勝利だからね。チームはとてもスペシャルなコンセプトのマシン(電動ドライブのダカール四輪総合優勝挑戦車)を開発した。ダカールにそれを投入するのは我々が最初で、アウディだけがリスクを冒す勇気があったということだ。私たちが歴史をつくったことを嬉しく思う。これは偉大な勝利だ」

コメントにあるように、サインツのダカール四輪総合優勝はすべて異なるブランドでのもの。フォルクスワーゲン(2010年)、プジョー(2018年)、MINI(2020年)、そしてアウディ(2024年)でそれぞれ制している。

サインツは「私が経験したダカールラリーのなかでも最もタフな大会のひとつだった」とも語っており、今大会の過酷さを感じさせた。そこでアウディが大願成就。立役者サインツはアウディのファンや陣営首脳、スタッフたちへの感謝とともに、自身とコ・ドライバーのルーカス・クルスを助けてくれたペテランセルとエクストローム、それぞれのコ・ドライバーたちにも深い謝意を示している。

総合2位はメビウス。トヨタ勢は四輪総合のシングル順位に6台が入っている(2、4、6〜9位。“本陣”のTGRは6、7、9位)。

ローブは総合3位に敗れた。過去2年が連続2位で、2位は通算3度、3位も今回で2度目だ。WRCで最多の王座数と勝利数を誇るローブだが、ダカール初制覇にはあと少しのところで足踏みが続く状態となっている。今大会のローブは序盤でパンクの多発とそれに伴う問題に悩まされていた印象で、終始、追う側にまわっての戦いだったことが最終的に響いたか。ステージ5勝をマークするも、ステージ0勝のサインツに及ばなかった。

サインツより12歳若いローブには、まだまだチャンスは充分にあるだろう。WRCでの全盛期にはアイスクール・セブという異名でも呼ばれたローブ、ダカール初制覇の悲願達成に際しては、抜群の冷静さをもって知られる男の瞳にも大粒の涙が浮かぶのかもしれない。

◆二輪総合優勝はリッキー・ブラベック。ホンダは3年ぶりの栄冠
ダカールといえば、という存在の日本勢2陣営、「チームランドクルーザー・トヨタオートボデー(TLC/トヨタ車体)」と「日野チームスガワラ」は今大会でも存在感を発揮した。TLCは市販車クラス1-2(優勝ドライバーは三浦昂)で11連覇。日野の菅原照仁組はトラック総合6位と、排気量で上まわる強敵たちを相手に好成績を残している。

二輪の総合優勝争いは混戦傾向にあった。ステージ6で総合首位に立ったホンダ(Monster Energy Honda Team)のリッキー・ブラベックがその座をキープしていくも、残り2日の時点で総合4番手までがまだ14分以内の差におり、予断を許さない戦況。でも、ブラベックはこの戦いを制し切った。自身4年ぶり2度目の頂点である。ホンダにとっては3年ぶりの優勝。

2025年のダカールラリーに向けては、ルーマニアのダチアによる参戦プログラムが動いている。四輪総合優勝戦線への参入を狙うもので、マシンはプロドライブ製、今大会をプロドライブ製ハンターで戦ったアルアティアとローブが“残留”する。常に新たな挑戦者と話題を迎えながら、今やセネガルの首都名のみならず“競技名”としての意味合いも有するようになったダカールの歴史は続いてゆく。

*本稿の結果等は、日本時間1月20日20時の時点でのダカールラリー公式サイトにおける表示等に基づく。

四輪総合優勝のサインツ(左)と、彼のコ・ドライバー、ルーカス・クルス。《Photo by Audi》 #204 カルロス・サインツ(四輪総合優勝)《Photo by Red Bull》 #203 セバスチャン・ローブ(四輪総合3位)《Photo by Red Bull》 サインツ(背中)と健闘を讃え合うローブ。またしても栄冠には手が届かなかった。《Photo by Audi》 四輪総合2位に入ったギョーム・ド・メビウス。《Photo by Red Bull》 歓喜のサインツ/アウディ陣営。《Photo by Audi》 二輪総合優勝はホンダのリッキー・ブラベック。《Photo by Honda》