筆者の日産『サクラ』。高速道路上での経路充電の様子。《写真撮影 中尾真二》

2022年11月に納車された我が家の日産『サクラ』はすでにマイカー、ファミリーカーとして10か月の運用実績を重ねている。いまのところノートラブルで活躍しているが、EV購入を考えている人、すでにEVに乗っている人の参考になればと、EVの日常運用はどういったものなのかをお伝えする。

◆我が家にとっての「サクラ」
まず、筆者とサクラの背景を整理しておこう。筆者は長年ITや自動車関係の媒体で取材、執筆活動を続けている。EVの自己所有はサクラが初めてとなるが、取材、レビュー等で各社EVには2013年ごろから触れている。レビューは数日間、500km、800kmに渡ることも多い。レンタカーやシェアカーでもEVをよく利用する。

サクラを購入したいちばんの決め手はボディサイズだ。自宅駐車場は奥行きがあまりなく、コンパクトクラス(Bセグメント)までが限界だ。次の車はEVと決めていたが、日本では手ごろなサイズのEVがなかった。『ホンダe』、プジョー『e208』は有力な候補だったが、どちらも価格がネックとなり迷っていたところ、サクラが発売された。もともと、軽自動車は選択肢になかったがEVならばと決めた。バッテリー容量と航続距離は仕事利用で不安はあったが初代『リーフ』もレンタカー他で利用していたので、なんとかなるだろうという読みだ。

事前情報で、バッテリーの温度管理も行っている(リーフ国内仕様にはない)ことも大きかった。長距離移動でも急速充電の効率が期待できるからだ。この読みは10か月の運用で裏切られてはいない。出力が47kW(64ps)と謎の自主規制が生きていたのも不安要素だったが、200Nmというトルクがすべてをカバーしてくれているようだ。中央高速の長い上り、筑波山や白馬村の山道でもパワー不足やストレスを感じることはない。とくに高速道路はプロパイロットとの併用で疲れ知らずだ。電費は平均8km/kwhくらい。長距離なら10km/kwhでることも珍しくない。リーフが平均して7km/kwhくらいだった。

ラゲッジスペースは軽自動車サイズだが、リアシートは大人が座っても足や頭がつかえることはない。下手なコンパクトハッチバックより広い。走行性能、充電性能、居住性など軽自動車基準では非常にまとまったパッケージだ。逆に運動性能と静粛性については完全に軽自動車を凌駕している。我が家には現在サクラ1台しかないが、ドライブ旅行を含めて問題なく運用できている。

◆サクラは自宅充電がおすすめ
もちろん問題や不満はないわけではないが、やはり日本のモータリゼーションにおける「充電環境」は課題が多い部分だろう。

EVについてはいまだに充電、雪や雨などの天候への不安が指摘される。非EVオーナーにとっては当然だが、実際に所有・運用してみての感想は、慣れれば不便は感じない。ただし、自宅充電環境はぜひ用意したい。バッテリー容量が60kWh以上あれば、ディーラーなどの急速充電器での運用も可能だが、サクラの場合は自宅でプラグインできれば、セカンドカー運用なら出先での充電は必要ないくらいだ。

筆者(川崎市在住)の場合、仕事にも家族旅行にも使っている。遠出がわかっていれば前日に充電しておけば100%からスタートできる。往復100kmくらいなら外充電を気にせず帰ってこれる。

自動車関係の取材で都内の他、千葉、埼玉、群馬、茨城、栃木まで日帰りで足を延ばすことがある。いまのところサクラでの移動で大きなトラブルや電欠にあったことはない。例えば、幕張メッセの往復(約120km)はSOC100%スタートなら経路充電なしで帰ってこれる。なお、幕張の県営駐車場やイオンモールに急速および普通充電器設備があるので、朝、100%になっていなくても、取材中にこれらの施設で充電しておくことができる。

天候など条件がよければ、茨城にあるJARIテストコースの往路150kmほどを無充電で走破したこともある。JARIテストコースに急速充電器があるのは知っていた。事前に連絡、手配が必要だが、これが使えれば空の状態でもたどりつけば問題ない。ちなみに、このときは残り15%ほどで到着している。

EVは市販されてすでに10年以上だ。懸念される不安やトラブルは主に初期のEVに対するもので、メーカー側の改善や対策は進んでいる。たしかに温度変化によるバッテリーへの影響は物理的な特性だが、猛暑・極寒で性能が低下したりエアコンで燃費が落ちるのはガソリン車も同じだ。集合住宅では難しいという意見もあるが、管理組合交渉を含めて対応してくれる事業者は存在する。

◆遠出での急速充電のポイント
サクラの場合、満充電から100kmが移動単位の目安となる。移動中に次の充電を考え始めるのはバッテリー残量が50%を切ったくらいだ。次に30%を切るくらいまでに適当な充電ポイントを決めればよい。このような充電は「経路充電」といい、短時間での充電が求められる。ディーラや高速道路などに設置されている急速充電器を利用することになる。

前提知識として、日産と三菱のディーラを目安とするとよい。古くからEVを販売してきたディーラーなので急速充電器を24時間開放しているところが多い。他のディーラーは車種や時間を限定していることがあるので注意が必要だ。

他にも目安となる施設は高速道路のSA/PA、道の駅、役所・公民館・公園など自治体管理の公共施設だ。高速道路は主だったSA/PAに445基の急速充電器が設置されているという。現在、これらを1100基まで増やす計画が進んでいる。

道の駅や役所(公共施設)は、初期の整備計画で配備が進んだ。故障や撤去されていることがある。だが、こちらも政府が充電環境整備を進めているので、機器の更新や普通充電設備の増強を進める自治体も増えている。

最近増えているのがコンビニの駐車場やコインパークの駐車場だ。ファミリーマートは急速充電器の設置を進めている。イートインコーナーがあれば高速道路のSA/PA感覚で利用できる。コインパークは普通充電(200V)の設置が多いが、空き時間で充電ができるのはうれしい。とくにサクラのようなバッテリーの小さいEVは、1、2時間の普通充電でもSOCを10ポイント以上増やすこともできる。

充電器の設置場所は、土地勘がなくても日産純正ナビ、充電アプリ(ENECHANGE、GOGOEVなど)、Googleマップなどで調べることができる。食事をしながら充電可能な施設、レストランなどの情報を集めている「EVごはん」というサイトもある。

◆目的地充電はサクラでも重要
自宅周辺で利用しているときは、それこそ20%を切って、バッテリーの残量低下警告が表示されるまで使っている。ランプがついたら自宅のコンセントにつなぐだけだ。タイマー予約を設定しておけば、夜間電力やEVプランなど電力契約にあわせた時間を活用できる。我が家も電力プロバイダーのEVプランを適用して、午前1時から充電を開始するようにしている。

コインパークの空き時間充電や商業施設を利用している間の充電は目的地充電のひとつだ。目的地充電の代表例はホテル・旅館・レジャー施設などの駐車場での充電だ。職場や学校、バスやトラックのターミナルでの充電も目的地充電に分類される。目的地充電は、接続中の車両(バッテリー)を電力網の蓄電池あるいは発電機(電力ソース)として活用するマイクログリッドやVPP(仮想発電所)への活用が注目されている。

取材先の企業や目的地施設の駐車場で充電できると非常に便利だ。普段の買い物でもその間だけ充電できると助かる。ただし、これらの充電は、プラグインしている時間が読みにくい。一般的な急速充電器は10分単位の課金になっており、最大30分で強制停止する。待機車両がいる場合、すみやかに車を移動して充電器を開放するのがマナーだ。商業施設やレストランでの充電は30分という時間は微妙だ。一人で用事を済ませる程度ならちょうどよいかもしれないが、家族で買い物などは30分で車を移動というのも面倒だ。

◆オーナーは充電器の有無で利用施設を選ぶ
したがって、時間制限を気にしないでつなぎっぱなしにできる(ことが多い)普通充電設備が必須となる。多くの非EVオーナー、メーカー関係者、行政が勘違いしているのだが、EV運用において最初に考えたいのは自宅充電を含む普通充電環境だ。急速充電も重要だが、それだけに注力するインフラ計画は、むしろEV普及を妨げるといってよい。

普通充電器を備えたショッピングモールや飲食店、コインパークに普通充電器がたくさんあると便利なのだが、不幸にも自宅周辺はあまり多くない。買い物などの行動圏内には国道246号線、港北ニュータウン、二子玉川などがある。ショッピングモールや家電量販店、各種の郊外型店舗も豊富だ。二子玉川周辺の商業施設駐車場は充電器が設置されているが、ニュータウン方面は決して十分とはいえない。AC200V・3kW出力の充電器は、三線単相の交流電源がきていれば(一般家庭の電源)ブレーカーからの分配・配線工事だけでOKだ。コンセントはホームセンターでも1000円くらいから売っている。

自分を含めてEVオーナーは、充電設備で買い物先を選ぶことがある。事業者向けの複数口の電力制御コントローラーを提案できる事業者も増えている。集合住宅同様、ショッピングモール、ファミレス、レストランなどの対応も期待したい。

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