テスラのApple Musicスクリーンショット

テスラ『モデルY』が発売されたと同時にとっさにポチッてしまった一編集者である筆者。今回は、最新のアップデータで待望のApple Musicアプリが搭載されたので、その音質をテスト・検証してみた。テスラの音響性能の高さは評価されているのだが、Apple MusicアプリとiPhoneからのApple Musicにその音質の違いはあるのか!?

Apple Musicが降りてきた!
テスラは「OTA(Over the Air)」という仕組みでインターネット経由で適宜車載ソフトウェアがアップデートされる。通常これは無料で、いわゆる不具合の原因であるプログラムの間違い(バグ)修正のみならず、新たな機能が搭載されることが多い。テスラオーナーは、次はなにが追加されるんだろうか、とこのアップデートを毎回心待ちにしている。むしろこれがあるから“古くならない”のがテスラの特長の一つでもある。

しかし日本ではそのアップデートが本国アメリカよりも数か月遅れでなされることが多い。今回、日本の多くのユーザーが待ち望んでいた“Apple Music”が搭載された。これはアメリカでは昨年2022年12月に配信されていたものだ。今回やっと日本でも配信が開始された。

Apple Musicはご存知の通りアップル社が提供している音楽配信サービスである。シャッフル機能や自分のお気に入りの音楽が自然と流れるだけでなく、高音質のハイレゾロスレス音源や、CD音質のロスレス、Dolby Atmosという立体音響方式の“空間オーディオ”にも対応していて、対応再生機器をつなげば高音質で音楽を楽しめる。

そのApple Musicアプリが搭載されたことにより、運転席と助手席のあいだに置かれた15インチのタッチスクリーンのApple Musicで選曲し、ドライブを楽しめるわけだ。テスラはもともとSpotifyアプリが入っていたのでSpotifyに登録すれば同様に音楽を楽しめた。

しかし、Spotifyも今回のApple Musicも月990円のサブスクリプションで提供される「プレミアム コネクティビティ」と呼ばれるテスラ独自の携帯通信LTEサービスに加入しなければ、運転中快適には利用できない。別途、スマホでWi-Fiテザリングをするか、モバイルWi-Fi端末を契約すれば利用できるが、利便性は失われる。

私はすでにApple Musicのメンバーになっていたが、テスラの「プレミアム コネクティビティ」メンバーではない。これまでは自分のiPhoneからBluetooth(ブルートゥース)経由でテスラにつなげて音楽を聴いていた。別段それに不自由を感じているわけでもなかったが、今回、改めてスマホのWi-FiテザリングでテスラのApple Musicから音楽を聴いてみた。

スマホ版Apple Musicとの違いは?
まず機能性だが、通常使っているぶんには違いは感じられなかった。リピート再生もシャッフル再生もできるし、アルバムを聴き終えたときに自動的にそのアルバムに関連したチャンネルを作成して再生を続けてくれる。ただし、曲と曲の間が一瞬空くのでライブアルバムなどを聴いていると気持ち悪い。これは調整できないようだ。

また、音楽をダウンロードしてオフラインで聴くことはできない。音質についても、ハイレゾロスレスや通常のロスレス、Dolby Atmos(空間オーディオ)にも対応していない。また、音質(ビットレート)を選ぶこともできない。

実際に夜の静かな車内で音楽を聴いてみたが、テスラのApple Musicでの音質は、iPhoneからBluetooth経由で聴く音質と遜色はなかった。しいて言えばテスラのApple Musicは若干元気が良いように感じた。iPhoneからの音質のほうが細やかな感じがしたが、音楽は楽しめればそれで良いと思うタチなので、そんなに気にはならなかった。

しかし、その音質の違いについて考えた。iPhoneからBluetooth経由で聴く音楽は、テスラ自体がハイレゾロスレスや通常のロスレス、Dolby Atmos(空間オーディオ)に対応しているというアナウンスもないので未対応なのだろう。調べてみるとテスラのBluetoothはAppleの圧縮形式AAC(Advanced Audio Coding)には対応しているようだ。AACはiPhone側の設定で256bpsのビットレートを選べるので、これがiPhoneからBluetooth経由で聴く場合の音質だと考えられる。

では、テスラのほうはどうか? 現状では音楽データ自体はLTEやWi-Fi経由で送られているわけで、その音質は、音楽データの質に左右される。情報はあまりないのだが、海外のSNSサイトを調べてみると、テスラのApple Musicでは音楽データの圧縮に64kbpsのHE-AAC(High-Efficiency Advanced Audio Coding)コーデックを使用しているという情報があった。HE-AACコーデックというのはAACの拡張版で、AACの高圧縮性能をさらに向上させ、低ビットレートでの高音質な伝送を可能にしているそうだ。

データ量から音質が違うことがわかったが…
しかし、実際のところどうなのだろうか? 私の契約している携帯キャリアでは消費したデータ量がわかるので、聞き比べて、その消費データ量を確認してみた。

『カラヤン/グレイテスト・ヒッツ』
テスラアプリ:36.4MB
iPhone:77.8MB

『クイーン/New of the World』
テスラアプリ:64.7MB
iPhone:102.4MB

『フォープレイ/Silver』
テスラアプリ:98.9MB
iPhone:140.7MB

それぞれアルバム1枚分をまるまる聴いたわけではないが、同じ曲数だけ聴いて、その消費量を比較したものだ。iPhoneではテスト中ほかの作業はしないようにはしたが誤差も含まれているだろう。しかし、その消費量の差は歴然だ。とは言ってもこの差は海外SNSサイトの情報のHE-AACほどの差もないので、AAC形式のビットレートが96kbpsという可能性もあるのではないか。もしくは今回の日本での開始に際してビットレートを上げたのか? いずれにしても正式な発表はないので憶測にすぎないが…。また、今回はWi-Fiテザリングだったが「プレミアム コネクティビティ」のLTE接続のほうが音質が良くなる理由もない。

ただ、これだけの差があるとしても自分の耳ではそこまでの差を感じられない。たしかにクルマの中は試聴室ではないので、完璧を求めるには無理がある空間だ。テスラはEVなので、エンジンからのノイズはない。しかし、逆にロードノイズと言われるタイヤからのノイズや風切り音などその他のノイズは耳障りになることがある。とくにモデルYは2重ガラスになっているので、ほかのモデルに比べても外部からのノイズは少ないほうだ。しかし遮音も限界があり、静かな空間ではない。

いずれにしても、もともと音響がすばらしいと言われるモデルYだ。いままでも満足していたし、今後のアップデートで空間オーディオやロスレスにも対応する可能性もあるかもしれない。そうなれば明らかな違いがわかるだろう。少なくとも現状、iPhoneの空間オーディオはワイヤレスイヤホンで聴けば、その違いがわかるので、テスラのApple Musicアプリが対応すれば、車内ではその立体音響の成果を享受することができる。今度は新たなアップデートで、その日が来ることを心待ちにすることにしよう。

音質の違いスクリーンショット モデルYの室内の音響性能は高い《写真提供 テスラモーターズジャパン》 筆者のモデルY《写真撮影 田代真人》