メルセデスベンツ CSOのマグヌス・エストベルク氏(Mercedes-Benz Chief Software Officer, Mercedes-Benz AG)《写真撮影 三浦和也》

メルセデスベンツのCES 2023におけるテーマは「Tech to Desire」。直訳すると「欲望への技術」である。環境やサスティナビリティが叫ばれ、モビリティの電動化が進む2023年初頭にメルセデスはあえて「欲望」を掲げた。ハードよりもソフトウェアにクルマの価値が推移してゆく昨今、ドライバーが求める「体験」を満たすHMI、エンターテイメント、そして充電スポットへのアクセスなど、電動車時代のメルセデスの価値もソフトウェアが握っている。

メルセデスベンツCSOのマグヌス・エストベルク(Magnus Östberg)氏(Mercedes-Benz Chief Software Officer, Mercedes-Benz AG)にインタビューする機会が得られた。

◆アーキテクチャソフトも当然メイド・イン・メルセデスベンツ
---:車載OSとして、汎用OSも多々あるなか、オリジナルOS「MB.OS」を自社開発する意義は何でしょうか。

マグヌス・エストベルク氏(以下敬称略):MB.OSはメルセデスの体験を提供するための重要なソフトウェアです。自社でアーキテクチャを設計し、プログラミングし、MB.OSの上で動くHMIのパートナーを決定しそれをアーキテクチャと統合していくことは、メルセデスブランドの一貫した価値提供のために必須だと考えます。

---:メルセデスのプレミアムな顧客体験とはどのようにつながるのでしょうか。

エストベルク:自社で開発をコントロールしてこそ顧客満足度が維持できます。例えば、ADASのように反応時間が影響する機能は顧客体験にダイレクトに影響する。また車両の操作方法が統合されていることも重要な要素です。OSにあえてメルセデスブランドをつけているのは、自社OSによってもたらされたハイパフォーマンスや快適な操作感によって、エキサイティングでプレミアムな体験が提供できるからです。逆にこれらを提供できるからこそ自信をもってブランドを冠しているとも言えます。

---:SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)という言葉が注目されています。メルセデスベンツにとってソフトウェアによる価値提供をどのように捉えていますか。

エストベルク:ソフトウェアとハードウェアでは開発から製品化までのフローが全く異なります。アーキテクチャさえしっかりしていればソフトウェアの方がスピーディーにニューバージョンをリリースすることが可能です。新車種の発売には開発に早くても1年以上の時間がかかるが、それを待たずしてソフトウェアで新たな価値を提供できる。ただし、その実現のためにはメルセデスベンツのユーザーとのダイレクトコミュニケーションが大切です。音声認識にせよ、ナビゲーションにせよ、ユーザーからのダイレクトフィードバックを得ない限り、エキサイティングな体験をユーザーに提供するのは難しいと考えています。

---:本日のプレゼンでエンタテインメントのHMIについてZYNC社を採用するとの発表がありました。他社のHMIを採用することで、インターフェイスの統合に懸念はないのでしょうか。

エストベルク:ZYNC社は独自のHMIを持っているが、メルセデスはこれを他のHMIと統合しシームレスに使えるようにカスタマイズした上で車両への搭載を行います。ZYNCの採用によってドライバーはApple MusicでもQQ Music(中国)でも、どのようなコンテンツを使っていてもメルセデスの統一されたUIでの利用が可能になります。

---:ソフトウェアのアップデートについて、他のカーメーカーでは月額の使用料を要求する会社もあるようですが、ユーザーは月額払いに抵抗があります。このあたりはどう考えますか。

エストベルク:メルセデスはソフトウェアアップデートを通じて顧客体験の向上を提供します。新車に買い換えなくても、いまのクルマの機能がハードウェアの更新よりも圧倒的に早いサイクルでソフトウェア更新されて、フレッシュに保たれる。これによってユーザーには満足してもらえると考えています。

◆充電スポットとメルセデスベンツ車両は高度に連携する
---:本日のイベントで、予約可能な充電スポットを拡充するとの発表があり、メルセデス以外も利用可能との説明でしたが、メルセデスオーナーは優先予約できるのでしょうか。

エストベルク:これはマーケティングの要素を含み管轄外ですが、充電スポットの予約機能はメルセデスの顧客体験にとって非常に大事な要素と捉え、積極的に展開します。しかし、予約時にメルセデス車の優先順位を上げるようなことはしません。すべてのカーメーカーの車両を公平に扱います。

---:現状のBEVでも充電スポットの位置を正しく教えてくれる機能はついているものの、行ってみると稼働していなかったりして困る場合も多くあります。稼働している充電スポットのみを正しく教えてくれるのか。また車種に応じて最適な充電スポットもリコメンドしてくれるのでしょうか。

エストベルク:これは他社とのパートナーシップによって実現します。自社の車両だけでなく他社の車両でも利用できるよう私たちの充電器はAPIを提供する予定です。これによって現在どこの充電スポットが実際に使用可能なのかをカーナビなどに表示することが可能になります。ちなみにメルセデスの車両はバッテリーの残量や状況を随時クラウドにアップロードしAIで解析するため、より高度な情報提供が可能になるのです。

---:展示車両の『VISION EQXX』は1回のバッテリー充電で1200km走行可能とのことですが、ソフトウェアが航続距離に貢献する要素はどこでしょうか。

エストベルク:最大1200kmの走行はバッテリー容量やエアロダイナミクス(空気抵抗の最適化)だけでなく、ソフトウェア面での要素も多い。たとえば、バッテリーの(温度など)監視やこまめに不要な電力使用を抑えるような緻密な制御も行っています。

メルセデスベンツのプレゼンテーション(CES 2023)《写真撮影 三浦和也》 メルセデスベンツのプレゼンテーション(CES 2023)《写真撮影 三浦和也》 メルセデスベンツのプレゼンテーション(CES 2023)《写真撮影 三浦和也》 メルセデスベンツのプレゼンテーション(CES 2023)《写真撮影 三浦和也》 メルセデスベンツのプレゼンテーション(CES 2023)《写真撮影 三浦和也》 メルセデスベンツのプレゼンテーション(CES 2023)《写真撮影 三浦和也》 メルセデスベンツのプレゼンテーション(CES 2023)《写真撮影 三浦和也》 メルセデスベンツ VISION EQXX《Photo by David Becker/Getty Images/ゲッティイメージズ》 インタビューに応じるメルセデスベンツ CSOのマグヌス・エストベルク氏《写真撮影 山本幸裕》