筆者のモデルY《写真撮影 田代真人》

テスラ『モデルY』が発売されたと同時にとっさにポチッてしまった一編集者である筆者。以前、テスラの特徴の一つ、ソフトウェア・アップデートをご紹介したが、実はテスラには購入後に車内アプリに有料でアドオンできる機能が付いている。これは無料のアップデートとは異なるものだ。実はこの機能、前回の価格大幅値下げにも関係しているのだ。

◆アプリ内課金もあるテスラのアップデート
テスラの車内アプリは「OTA(Over the Air)」という仕組みでインターネット経由で適宜無料アップデートされることは以前ご紹介した。しかしそれとは別に有料でソフトウェアをアップデートさせ、機能を追加することができる。

この機能は新車購入時に最初からオプションとして機能追加することができる。それがエンハンスト オートパイロット(EAP:43万6000円)とフルセルフドライビング ケイパビリティ(FSD:87万1000円)だ。Webサイトには以下のように案内されている。

エンハンスト オートパイロット
・オートパーキング
・オートレーンチェンジ
・サモン
・エンハンスト サモン

Upcoming:
・ナビゲート オン オートパイロット
フルセルフドライビング ケイパビリティ
・ベーシック オートパイロットおよびエンハンスト オートパイロットのすべての機能

Upcoming:
・信号機/一時停止標識コントロール
・市街地でのオートステアリング
まず、エンハンスト オートパイロットの各機能のWebでの説明を要約すると次のようになっている。

「オートパーキング」は道路脇への縦列駐車や駐車場での並列駐車を自動でおこなう。「オートレーンチェンジ」は、高速道路走行中、自動で低速車を追い越しながら合流や車線変更をしてくれる。「サモン」は、クルマから降りて、外からアプリで車両を動かして、狭いガレージや駐車場に出し入れできる。「エンハンスト サモン」は、駐車場のどこに駐車しても車線標示や停止標識を遵守しながら、歩行者やロードコーン、ゴミ箱、置き去りにされたショッピングカートなどの障害物を回避して自分のいるところまでクルマが迎えに来てくれる。

しかしながら、実際にこの機能を購入したユーザーによると、“あまりまともには動いていない”ようだ。ボクも自宅ガレージが狭いので、サモンで出し入れして楽したいと思い、テスラのモバイルテクニシャンに尋ねたことがある。

彼が言うには「幅2.5m程度の狭いガレージだと正常に機能しない可能性が高い」とのことだった。日本では、このあたり、国土交通省の許可が厳しくて、あまり緩い設定では許可されないそうだ。

実は同様に「エンハンスト サモン」、通常「スマート サモン」と呼ばれる機能は、日本では6m以内の距離に限られる。それはつまりショッピングモールの駐車場では機能しないということだ。Webの説明でイメージするのは、とくに雨の日など、広い駐車場で遠くに停めたテスラが自動的に店の玄関まで迎えに来てくれるものだ。アメリカでは、約65m以内で働く機能で、実際広い駐車場で機能している様をYouTubeなどで見ることができる。ちなみに欧州でも規制で約6mに限られているので「使えない」という動画が多数YouTubeにアップロードされている。

“Upcoming”と次に搭載されるとされる「ナビゲート オン オートパイロット」はWebには機能説明がないが、マニュアルによるとカーナビを設定して、高速道路など進入制限のある道路での車線変更や出口誘導などの走行を補助してくれるそうだ。

フルセルフドライビング ケイパビリティでは現状では上記の機能しかないようだが、今後それに加えて「信号機/一時停止標識コントロール」「市街地でのオートステアリング」の機能が追加されると読み取れる。

また、Webには以下の注意書きも付け加えられている。

現在ご利用いただける機能はドライバー自身が監視する必要や責任があり、車両を自律的に動かすものではありません。将来的にこれらの機能を実現するには、何十億キロもの走行データで証明された人間のドライバーを超える信頼性を学習する必要があります。同時に規制当局による認可も必要で、国や地域によっては長い時間がかかる場合があります。自動運転機能は進化を続け、ワイヤレスアップデートを通じて、車の機能は継続的にアップグレードされます。
さて、これらの機能は、購入後に電話やメールで申し込めば、自分のテスラにインターネット経由で追加できる。これはこれで、いままでのクルマの概念を覆すすばらしい仕組みである。しかし、現状ユーザーのなかには“お布施”と揶揄している人もいるくらいに完全に利用できているものではないらしい。

ボクもサモンで狭いガレージを出し入れできるなら、43万6000円を支払っても惜しくない機能だと思っていただけに、モバイルテクニシャン氏の言葉を聞いて、がっかりして諦めた。そこで「EAPに試用期間30日などのサービスできませんか?」と尋ねたら「希望が多ければそれはあるかもしれない」とのこと。実際昨年末はオーストラリアとニュージーランドで試用期間を提供したそうだ。

アメリカではFSDの機能がサブスク(subscription)でも提供されている。現時点で基本的に199ドル/月で、EAP導入済みだと99ドル/月だ。日本では“お布施”になりそうなので、試用期間のほうが現実的だと思うが、試用期間はぜひとも導入してほしい仕組みだ。

◆テスラの恐るべきビジネスモデル
さて、アプリ内課金ができるテスラだが、考えてみればこれらの機能は、現状のEAPやFSDに限らず、インターネットにつながっているのであればどのような機能であれ導入できる。ポイントは、その仕組みである。

前述のようにアメリカではFSDがサブスクで提供されている。この仕組みを使えば、別にFSDでなくてもソフトウェアに追加できる機能であればどんなものでもサブスクで提供できる。実際、現状、購入すると「プレミアム コネクティビティ」という携帯電話の電波を利用したサービスが30日間試用できる。

これは、主にナビゲーションマップの衛星画像表示と混雑状態の可視化ができるようになる機能だ。その他、YouTubeやブラウザ、ミュージック機能も利用できるが、これらはスマートフォンのテザリング機能でも利用できるので、“プレミアム”なのは前者2つとなる。

さきほど「ポイント」と表現した理由は、先日の値下げにある。アメリカだけではなく中国や欧州、アジアで値下げし、そのおかげで販売数は各国伸びているという。実はそれこそが最初からテスラが自動車メーカーとして考えていたことではなかろうか。

先の注意書きに「将来的にこれらの機能を実現するには、何十億キロもの走行データで証明された人間のドライバーを超える信頼性を学習する必要があります」と書かれている。つまりは、これから何十億キロもの学習をおこなうテスラは、その機能向上のために販売数を増やす必要があるのだ。

そして、その機能向上こそが、新たなサブスクを生む。それはFSDのみならず、現状のプレミアムコネクティビティを超える新たなハイレゾ音楽サービスでもいいし、ビデオサービスやゲームサービスも考えられる。スペースXが提供を始めた「スターリンク」をテスラに装備して、サブスクで高速インターネットサービスを使えるようにすることもできる。

新たなサービスでなくても、ボクのようにサモンの機能だけ欲しい人に機能を分割してサブスクすることもできる。となれば、多くのユーザーに乗ってもらえることこそがテスラという企業にとって新たな収益を生み出す源となりえるのである。たとえ安くても販売数が増えれば増えるほどテスラは儲かる。テスラがスマートフォンだと言われる所以は実はそこにある。テスラは新たなプラットフォームの出現と考えた方がしっくりくるのだ。

田代真人
福岡県出身。九州大学工学部卒業後、朝日新聞社入社。その後、学習研究社にてファッション女性誌編集者、ダイヤモンド社にてWebマスター、雑誌編集長、書籍編集などを経て、メディア・ナレッジ設立。出版&電子出版、Webプロデューサー、PRコンサルタントとして活動後、現在は、駒沢女子大学教授、桜美林大学非常勤講師を務める。専門は「編集論」。

EAPとFSDスクリーンショット テスラオーストラリアのtweetスクリーンショット starlinkスクリーンショット