ホンダ シビックタイプR 新型《写真撮影 雪岡直樹》

新型『シビック』に「タイプR」が加わった。パワートレーンは2.0リットルターボ(330ps/42.8kgf・m)+6速MT。これまで同様、ピュアスポーツモデルの証である“赤いホンダバッジ”を携え、FF(前輪駆動)で世界最速を狙う。

その新型タイプRに鈴鹿サーキットの本コースで試乗する機会を頂いた。ちなみに2022年は、鈴鹿サーキットの完成から60年目で、シビックは生誕50周年、そしてタイプR(初代NSXタイプR)の誕生からは30年目といろんな意味で節目にあたる。

“ガンダムチック”ではなくなった迫力のデザイン
走行前ブリーフィングを済ませ、すぐさまタイプRと対面する。事前に何度か屋内で確認していたが、屋外で見ると全幅1890mmを誇示する前後フェンダーと四隅に張り出したタイヤの存在感に圧倒される(前トレッド1625mm、後トレッド1615mm)。

大きなリヤスポイラーは見た目の迫力だけでなく効果も絶大で、200km/h走行時に60kg近いダウンフォースを単体で生み出す(車体各所の空力パーツによるダウンフォース合計は90kg以上)。

正直に告白すると11代目シビックを初めて目にした際、シュッとした顔付きで目尻もシャープ、リヤスタイルも引き締まっていると感じた一方で、失礼ながらボディの長さを感じさせる(≒ちょっと間延びした)デザインだな、と思った。

この感想を新型タイプR開発責任者である柿沼秀樹さんにストレートにぶつけるとクスッと笑みをこぼしながら、「デザイナーはタイプRをどうしても、この迫力あるスタイルで作り上げたかった。だからこそ、あのベースデザインなんです」と答えてくれた。なるほど、やはり意図的だったのか……。

先代(FK8)タイプRは一部で“ガンダムチック”なデザインと言われたが、新型(FL5)タイプRは好対照。全方位で迫力たっぷりなのに面構成はとても上品だ。ここは手放しでカッコいいなと思う。3本出しマフラーも中央の径が太くなっているが、これもリヤセクションのまとまり感向上に一役買っている。

腰で支えるタイプR専用シート
サーキット試乗なのでレーシングスーツからヘルメット、グローブやシューズに至るまで揃えた正装でシートに収まる。11代目シビックのインテリアは水平ラインを基調とし、視界をできるだけ広くとり、そして安定させるデザインを採り入れた。これはタイプRにとっても好都合で、1.5リットルガソリンターボや2.0リットルハイブリッドモデルから運転席のヒップポイント基準置を8mm下げているが、水平ラインのおかげで視野の狭くなるヘルメット越しでも視界はひらけたままだ。

タイプR専用シートには腰をしっかり支える最新の設計思想を採り入れた。未だ、背もたれ部分のサイドサポート性を強調するシートを備えたスポーツモデルは数多い。しかし、走行時にドライバーが受ける強い横Gには肩を中心とした上半身の保持ではなく、腰を確実にサポートすることで多くは対処可能だ。その上で、車体とサスペンションの相乗効果で目線の上下動を抑えると、ドライバーは極度の緊張から解放され、リラックスしたままスポーツ走行に臨める。

今回は開催間近に迫ったF1日本グランプリ準備の兼ね合いから、西ストレートのパドックからコースへ入る。試乗は、先導車(FK8タイプRの2020年リミテッド)のペース(2分35秒/周)に合わせ、3台の新型タイプが後に続く隊列走行で行なわれた。

ここ一発では引っ張る価値がある
ドライブモードは「コンフォート」を選択。ここではASC(アクティブサウンドコントロール)は介入しないから(インディビュデュアルモードでは選択可能)、生のエンジン音が耳に届く。

まずは、じんわり、ゆっくりと加速させ、時折ブレーキペダルも踏み込みつつ、同時にシフトゲートの具合やステアフィールを確かめながら慣熟走行に入る。最初の130Rには120km/hを越えたあたりでゆっくり進入し、その後の日立Astemoシケインまでのストレートで初めてアクセル全開。軽快に、そして淀みなくレブリミットである7000回転まできっちり回ることを確認する。

エンジンの生音がいい。いつしかタービンが発する高い周波数帯の過給音はタービンノイズと呼ばれるようになったが、新型タイプRでは立派なターボサウンドだ。小径化されたタービンは2000回転を越えたあたりから高周波音をキャビンに透過させ、4000回転あたりからはそこにエンジンそのものの図太い吸気音が加わる。

冷静になって出力特性を確認すると6500回転で最高出力を迎え、残り500回転は下降線となることがわかる。ただし、先代タイプRと比較して7000回転での出力は5psほど向上。いわゆる台形カーブを描くトルク値にしても、高回転域の5800〜6500回転にかけては先代タイプRより最大で10Nmほど上乗せされている。
よって、ここ一発では引っ張る価値がある。レスポンスを重視した結果、タービンは小径化されたが20万回転近くまで回るため高回転域でのタレが少ない。これは性能曲線からもわかる。

約800mのメインストレートでは5速/180km/hを上限に1コーナーに向けて減速を開始する。新型タイプRでは定められた国内各所のサーキットを走行する場合、GPSと連動させることで速度リミッターの解除が可能だ。

5速から減速して4速、そして1コーナーのクリップ位置へ。そして2コーナーの入り口までアウト方向にふくらみつつ短く加速させ、すぐに旋回減速しながら3速へ。ここでは腰を支えるシートの効果が絶大で、強い横Gを受けながらもヒール&トゥーとダウンシフトが正しく決まる。

新型タイプRのシフトノブ位置は少しだけドライバー寄りに改められたが、シフト操作のしやすさはその恩恵でもある。さらに、シフトミスを誘発しやすい5〜4速や3〜2速間の斜めシフトが正確に行えるようシフトガイドの直線部分を増やして対応。これにより強い横G下でもギヤがスッと吸い込まれる感覚が高まった。

「+R」モードは公道でも重宝する特性?
タイヤが温まったところで先導車がペースを上げる。同時にこちらのドライブモードを「スポーツ」に切り替える。エンジン特性はピックアップが強調され、同時にパワステのアシスト量も変更、ステアフィールに重さが加わる。前後サスの減衰力セットも一段上がり、ASCが「スポーツ」として介入する。

S字ではトルクフルなエンジン特性を確認するため、3速ではなくあえて4速で進入し、中回転域でのアクセルワークと少ない舵角で左、右へとクリップ位置につく。それにしても驚くほど従順だ。リズミカルな荷重移動を心掛けるだけで、切った方向にぐんぐんと向きを変えて行く。

ご存知のようにS字2つ目の左コーナーは長めにイン側へとつくことが求められるが、試しにここで駆動力を強めていっても、ワイド化(先代タイプR:245/30R20→新型タイプR:265/30R19)されたタイヤの摩擦円にはまだまだゆとりがある。

逆バンクでは丁寧なアクセルワークが求められる。ここでは小径化されたタービンの効果もありアクセルのオン/オフにおける躍度発生までの時間が先代タイプRから大幅に減少したことがわかる。具体的には、ちょっと排気量が大きくなったかのような印象で、微細なアクセルコントロールにちゃんと追従してくれるから向き替えとステア操作の連動が、より行ないやすい。

デグナーカーブまでの長い左コーナーでドライブモードを「+R」モードへ。エンジン特性はさらに鋭くレスポンス重視となり、ステアフィールには強い横Gに耐えるため、さらに重さが加わる。前後サスの減衰力セットは最強となり、ASCの音色は「パワフル」へ。

デグナー一つ目の右縁石をかすめる。車体左側に強い荷重が掛かった状態で通過する直後の凹みでは、少ないキャンバー変化と高い剛性が確認できた。キャンバー剛性は先代タイプR比で16%高められたとのことで、次の周回では意図してしっかり縁石に乗ってみたが、姿勢を大きく乱すことなく外側の足はしっかりラインをトレースしていた。

しかも、路面からの豊富なインフォメーションは+Rの最強減衰セットでも保たれたままだから、雨天など路面の摩擦係数が下がる状況でも限界領域が手に取るようにわかるはず。ここは、公道でも重宝する特性になるだろう。

電光石火で正確無比のシフトダウンが誰でも可能に
NISSINブレーキヘアピンでは、レブマチックシステムの進化を堪能。いわゆるヒール&トゥーを自動化する機構で先代タイプRも搭載していたが、新型タイプRでは素早いエンジン回転上昇が可能になったことから2速→1速へのダウンシフトも受け付けるようになった。実現には極限まで軽量化(18%/約2kg)し、慣性モーメントを25%減らした新設計フライホイールが大きく貢献する。展示ブースで実物を確認すると、リングギヤの内径部分を拡大して外周部の肉厚をげっそり薄くしていた。

おかげで電光石火で正確無比のシフトダウンが誰でも可能になった。それだけなく4→3→2速とリズミカルな操作はもちろんのこと、4→2速へのダイレクト操作も難なく受け付ける。よってドライバーは適正速度への減速に意識を集中させてさえいれば、ターンインからクリップ位置への深い切り込みまで両手でスムースにステアリング操作が行える。

圧巻は2速アクセル全開で抜けるヘアピンの出口だ。強烈なトラクションとともにイン側の空転を緻密に抑えるトラクションコントロールと、リバース・リムによるイン側の接地圧確保による効果が一段と強く体感できた。

ちなみにVSA(車両挙動安定装置)は車両停止時にオフできるが、オフにしても最適なサス特性とリバース・リム、そしてミシュラン製タイヤの相乗効果により過大な空転は起きなかった。

標準装着となるミシュラン「パイロットスポーツ4S」は、新型タイプRの開発初期段階からマッチングテストを重ねてきた。今回の試乗車にはホンダの補修パーツ品として用意されている、ドライ路でのグリップをより重視したサーキット向けの「パイロットスポーツ カップ2コネクト」を装着。開発テストで鈴鹿を走らせた場合、標準タイヤよりも2秒ほどタイムを縮めることができ、約1.3Gの横Gを記録したという。

スプーンを丁寧にまとめると、約1kmに及ぶ西ストレートでは223km/hまで車速を伸ばした。その後、隊列走行であったことから早めに減速し170km/hで130Rを通過し、シケインではレブマチックシステムを頼りに2速までシフトダウン……。こうした一連の様子は筆者のYouTubeチャンネル「西村直人の乗り物見聞録」でご確認頂きたい。

初代NSXから受け継がれたスポーツの精神
純粋な内燃機関からの離脱が叫ばれる今、タイプRのようなピュアスポーツモデルの存在意義はどこにあるのか……、そんな疑問符をつけられることがある。筆者はスポーツカー文化の継承こそ、タイプRの意義であり価値であると考えている。両手と両足を駆使するドライバーの運転操作はスポーツそのものだからだ。

「緊張ではない、解放するスポーツだ」。これは32年前に初代『NSX』が掲げたキャッチコピーだが、新型シビック・タイプRにもその精神はしっかりと受け継がれていた。

西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2015-2016日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

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