2022年8月11日に開幕となったインドネシア国際モーターショー。写真はウーリン《写真撮影 藤井真治》

中国勢が百家繚乱のインドネシア
2022年8月11日から21日まで、インドネシア・ジャカルタ郊外で国際モーターショーが開幕された。インドネシアでシェア90%を超えるトヨタ、ホンダなど日系ブランドや世界の主要カーブランドの展示に、二輪車や部品メーカーなどが花を添える盛況なショーとなった。

そのなかでもひときわ存在感を発揮したのがヒョンデ/キアの韓国勢とウーリン(五菱)などの中国勢。各社とも大きなスペースを確保し電気自動車などの新モデルを強烈にアピール。日本の各メディアもその勢いに度肝を抜かれ「日本車大丈夫か?」という論調もちらほら。

昨年以降、政府の政策に応える形で他社に先駆けインドネシアで電気自動車(BEV)の生産・市場投入を強烈に打ち出しブランドイメージを向上させてきた韓国ヒョンデは、今回はメインの展示を量販国産ガソリン車の新MPVとし会場での販売促進を図る。

一方、得意の電気自動車(BEV)を全面に打ち出し日本車王国のインドネシアに楔を打とうとする中国ブランド。既にインドネシアに進出している中国ブランドのウーリン(上海通用五菱汽車)は、本国でのBEVのベストセラーである「宏光miniEV」をベースとする『Air EV』の発表を行い、インドネシアでのBEVの量産量販に舵を切った。

ウーリンと同様すでに現地生産を始めているDFSK(東風小康汽車)、タイからの輸入車を既に販売しているMG(上海汽車グループ)さらには今回再進出を果たしたChery(奇瑞汽車。本社は李克強首相の出身の安徽省)など中国勢はまさに百家繚乱(ひゃっかりょうらん)の様相を呈してきた。

日本車の牙城を崩すのか
インドネシアの自動車市場はようやく2年に渡るコロナ禍から回復し本年年間は100万台規模になる模様。とはいえ中国本国と比べればその規模ははるかに小さく僅かに25分の1(ASEAN市場全体を足しても10分の1に過ぎない)。そのインドネシアで大型生産投資をしても販売台数から考えとても採算が取れるとは到底思えない。

確かに中国ブランド車は数年前を比べると格段に商品魅力や品質が良くなってはいる。ただし目の肥えた富裕層が主役のインドネシア新車市場で、信頼できる販売ネットワークを作りながらブランド力の高い日本車の牙城を切り崩し、かつ振興韓国ブランドとも戦うのは並大抵のことではない。電気自動車の販売も現在の高価格帯から当面おおきくは望めない。

直近の販売台数(2021年1−7月)を見てみると、ウーリンはここ数年の国産化と販売努力が実ってようやく月販1500台ペースを安定的に販売できる実力がついているようだが販売シェアは2.3%と未だ一桁台。DFSKやMGも販売シェアは1%にも満たない数字と寂しい次第である。今回再進出を表明したCheryはコピー車が不評で一度撤退というマイナスイメージをいかに払拭するか課題で前途多難と言えよう。

「リスクを取り、走りながら考える」
一連の中国ブランドの動きは、世界一の埋蔵量を誇るニッケルなどEVのバッテリー材料として欠かせない資源の利権を狙った「チケットの確保」ではないだろうか。あるいは”一帯一路”政策のなかで難しくなってきた陸路ルートから海ルートへの転換の現れかとも。言わばビジネスではなく中国の外交や政治の一貫を担った中国自動車メーカーの動きではないか、という穿った見方もできるのであるが。

あるいは、日本メーカーがこれまで東南アジアでやってきた成功モデル、「石橋を叩いて渡り、カイゼンで地道に勝つ」という方式とは真逆の「リスクを取り、走りながら考える」というビジネスモデルを実践しているのであろうか?

藤井真治
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

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