話題のジープ『グラディエーター』を、いよいよ公道で走らせるときがやってきた！ 実車と対面すると、やはりその迫力満点の姿には圧倒されるばかりだ。日本の風景の中に置くと、より存在感と特異性が際立って見える。
車両を引き取り自宅の駐車場に止めておいたところ、近所の人が集まってきた。小学校に上がったばかりのウチの長男も大喜びだ。
全長5600×全幅1930×全高1850mmというボディサイズは、『ラングラー』の4ドアのアンリミテッドよりも70cmあまり長い。ホイールベースも約50cmも長い3490mmに達している。とにかく長い。
広い荷台には表面を保護するスプレーベッドライナーが施されていて、海から上がって濡れたままのサーフボードをそのまま積み込むような使い方をするにはもってこい。金属パネルとボードが直接触れないので、ボードにもキズがつきにくいのもありがたい。
ダブルキャブでホイールベースが長いので、後席の足元はかなり広々としていて、フロントシートの背面には、ちょっとしたものを挟んだり引っかけたりしておけるようになっているし、必要に応じていろいろ収納を追加できる専用のグリッドシステムが備わるほか、リアシートの座面を跳ね上げるとけっこう大きな収納スペースもある。
停める場所さえ確保できればなんとかなる
いざ走ると予想どおり、周囲から目で追われているのを感じる。並のSUVよりも高い目線もあるのでなおのことだ。日本でこういうクルマが走っていたら、それは気にならないわけがない。
樹脂製のトップを取り外して開放感満点のオープンエアドライブを楽しめる「フリーダムトップ」も、このクルマならではの醍醐味のひとつ。運転席と助手席のトップはそれぞれ比較的簡単に着脱できるし、いざとなれば置き場の確保は必要だが後席頭上のトップもまるごと外すことだってできる。
全長とホイールベースがこれだけ長いと、行く場所は考えないといけないわけだが、停める場所さえ確保できればなんとかなる。内輪差の感覚も、何回か十字路を曲がれば掴める。オフロード走行時に障害物を切り抜ける際に車両周辺の状況を確認できるようにと設置されたカメラは、駐車場の枠に収めたいようなときにも役に立つ。
高速道路も苦にならない
その長いホイールベースのおかげで、高速道路を走るのはぜんぜん苦にならない。ハンドルは軽く、動きに重々しさもなく、それでいて車線変更等でも動きがゆったりとしていて、こうしたクルマながら安定して巡行できる。
舗装路向けの駆動モードとして、「2HI」とともに設定された「4HI」のAUTOを選択すると、おそらくフロントにも微妙に適宜、駆動力を配分しているのだろう、「2HI」よりも手応えと安定感が増すように感じられた。先進運転支援装備にステアリング系の制御はないが、ACCは的確に車間距離をコントロールしてくれる。
LT255/75R17サイズのマッド＆テレインタイヤを履いていて、舗装路では音も大きめでグリップ感もあまり高くはないものの、このクルマにはこのタイヤがよく似合う。乗り心地が悪くないのは、グラディエーターの特権として標準装着されるFOX社製のダンパーも効いているに違いない。「Rubicon」の刺繍が入りランバーサポート機能の付いたレザーシートの着座感も良好だ。
リニアなレスポンスと上質なエンジン音
パワートレインは最高出力284ps、最大トルク347Nmを発揮する自然吸気の3.6リットルV6エンジンに8速ATという組み合わせとなる。
車両重量は2280kgに達しているが、グラディエーターに合わせてチューニングされた最新のソフトウェアにより、外気温、コーナリング、勾配、4×4ギア、牽引の状況などをもとに走行中にも随時パフォーマンスの最適化を図っているというだけあって、ごく普通に走るにはなんのストレスもない。自然吸気ならではのリニアなレスポンスと、6気筒ならではの上質なサウンドが心地よく、いたって乗りやすい。
インテリアの質感もなかなかがんばっていて、これならプレミアムブランドから乗り替えたユーザーも不満を感じることはないだろうと思えるほど。車内の快適性を高めるための装備も充実していて、主要な機能は日本語で表示されるのでわかりやすい。眼前のフルカラー7インチマルチビューディスプレイに車両に関するさまざまなデータが鮮やかに表示されるのも見やすくてよい。頭上のオーバーヘッドサウンドバーや耐候型サブウーハーなど9基ものスピーカーを備えたアルパイン製オーディオが放つサウンドも臨場感たっぷりだ。
今回はほぼ舗装路のみ走ったが、いざとなれば究極的なオフロード性能を発揮することもすでに別の機会に確認済みだ。極悪路ではスウェイバー（＝スタビライザー）を切り離してサスペンションストロークを伸ばしたり、3箇所のデフを任意にロックして走破性を高めることだってできる。
このクルマが手元にあると、乗るたびに心からワクワクできそうだ。ピックアップトラックは難しいといわれてきた日本市場で、こうした特殊なクルマでありながら、2022年導入予定の400台が発売からわずか3か月で売り切れたことには、関係者も驚いているそうだが、欲しくなる気持ちはよくわかる。このクルマの情報を知って“勢い”で注文した人も少なくないことだろうが、そんな彼らがとてもうらやましく思えてきた。
■5つ星評価
パッケージング：★★★★★
インテリア/居住性：★★★★
パワーソース：★★★
フットワーク：★★★
オススメ度：★★★★★
岡本幸一郎｜モータージャーナリスト
1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
