BMW iX3 Mスポーツ《写真撮影 中村孝仁》

電気への移行が声高に叫ばれ、あたかも電動化していないと悪者的な発言まで飛び出す今日この頃だが、正直電動化は本当に正義なのか個人的には疑わしい。

電気自動車(BEV)は今過渡期にあると思う。そもそも、搭載するバッテリーが大幅に進化しない限り、そのまま内燃機関から移行するのは難しい。今回はそれをいやというほど味わった。BMW『iX3』はその名前が示すように内燃機関の『X3』をベースに電動化したモデルである。従ってボディ各所にブルーのアクセントをあしらって、電動車を主張してはいるものの、そのカッコは完全にX3である。インテリアにしても多少の違いはあれど、まあX3と選ぶところはない。

その良し悪し、もしくは是非はともかくとして、なんとなく電動車に乗りたいけどあからさまにそれとわかる車には乗りたくないというユーザーがいるとしたら、そうした人にはうってつけのクルマである。個人的にはこれからの電動化を見越して、我が家に充電設備を今年から設置した。もちろん200Vの電源だが、これがあれば電気自動車がやってきてもわざわざ充電スポットを探して充電する手間は省けるし、夜のうちに充電しておけば、とりあえず翌日走るには十分すぎる(まあ距離によるが)量の電気を確保できる。

電気自動車アレルギーが出る要因は
ところが今回は、その200V用の充電ケーブルが搭載されて来なかったのだ。こうなると、電気自動車はいちいち充電スポットを探して旅に出ないとならない。200V用充電ケーブルがない限り、充電ステーション側にケーブルがある急速充電を頼る以外に方法がない。そこで、自宅近くの充電スポットを探してみたところ、ちょうどうまい具合にそう遠くないところに横浜市が路上に充電スポットを全国で初めて置いた実証実験の設備があるではないか。

というわけで早速行ってみたのだが、当日は記録的などしゃぶりの雨。かといって、充電しないわけにはいかないので試してはみたものの、2基あるうちの一つは故障中、そしてもう一つは繋がるものの「後は携帯で操作」とあり、単純に充電カードをかざしただけでは操作ができずに断念。びしょ濡れになっただけの徒労に終わった。

そこで、さらに自宅から近いファミリーマートの急速充電スポットで何とか充電。しかし、これらはすべて30分で切れてしまうために満充電には至らず、常に残走行距離が200km程度までしか距離を伸ばせない羽目に陥った。もちろんたっぷりと時間があってしかも次のお客が待っていなければ1時間以上の充電も可能だが、そんな時間のゆとりはない。

というわけで、急速充電スポットを探す面倒が必要になると、急激に電気自動車に対するアレルギーが出ることが分かった。

加速感と重さによる安定感はBEVならでは
クルマとしてのiX3はとてもよくできていると思う。ただ、重いディーゼルエンジン搭載車と比較しても200kg以上も重い車重である(X3 xDrive 20dとの比較)。これがすべてバッテリーというわけではないが、大半がバッテリーだ。ここまで重くなると当然ながら足回りはそれなりの強化が必要で、重心が低くなっている分安定性は抜群なのだが、引き締めた脚は決して快適というわけにはいかず、比較的ひょこひょこと跳ねる傾向にある。

一方でその加速感は度肝が抜かれるレベル。とてもじゃないが286ps、400Nmという机上の数値をガソリン車と同じように考えると大変な間違いを犯す。一度、自分の頭がヘッドレストから離れた状態でガンと踏み込んでみたら、あまりの加速感でしたたか頭をヘッドレストに打ち付けた。まあ、そのくらいの加速感を持っているということだ。

この加速感と、重さによる安定感を除けば印象としてはほぼ内燃機関のX3とあまり変わらないといってよいと思う。それでも電気自動車に乗るにはある種の不信感と既得の概念を取り払って乗る必要があることも今回実感した。

まだまだ電気自動車は発展途上
不信感とは、クルマが示す残存走行可能距離のこと。iX3には、走行可能距離(航続距離)と残りのバッテリー残量を%で示すメーターが付いている。まあ、ガソリン車と同じだ。ところが、クルマの側でその走り方や条件(温度など?)によって、残存走行可能距離はころころ変わる。ある時は極端に減ったり、またある時は逆に増えたり…。こうなるとどれを信用すべきかわからなくなり、不信感がわく。

もう一つの既得の概念とは、ガソリン車などで例えば70kmの走行距離しか残っていない場合、いわゆる警告が付くレベルなのだが、考えてみれば東京から東名を使って大井松田付近まで行ける距離である。だから、本来なら慌てる必要はないが、ガソリン車もしくはディーゼル車に慣れていると、そうはいかない。だいぶ慣れていたとはいえ、やはり不安が付きまとってストレスがたまる。

まだまだ電気自動車は発展途上にある乗り物だということを痛感せざるを得ない。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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