日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》

2019年の東京モーターショーで公開された『IMk』から、2年6か月を経て、いよいよ日産初の軽乗用電気自動車(EV)『サクラ』が5月20日に発表された。この新型軽乗用EVは、三菱自動車工業との提携関係のなかで、両社の合弁会社であるNMKVで開発・生産され、誕生した。

同日、三菱も軽乗用EVの『eKクロスEV』を発表。商品の特徴は、日産と三菱自独自の内容だが、車両としての基本性能や装備は同一だ。

サクラに込めた思いを日産は、「毎日の生活の質を高めてくれる手の届きやすいEV」とした。国内市場の約4割を占める軽自動車と、EVといえば『リーフ』や『アリア』で実績を持つ日産という実績を合体することで、日本市場に最適なEVが誕生したと胸を張る。

外観は、IMkの印象をそのままに量産化したといえ、ショーカーとしてのIMkの造形の完成度が、市販を前提とした完成度の高いものであったことを思わせる。

『サクラ』開発の3つの柱とは
サクラ開発の柱は3つあり、スムーズな走りと静粛性/手間なく素早く/先進的かつエレガント、であるという。

スムーズな走りと静粛性は、いうまでもなくEVであれば当然の性能だ。それを実現するうえで特筆すべきは、軽のガソリンターボエンジン車の2倍近い最大トルク195Nmをモーターが実現していることだ。これによって、発進・加速はもちろん、幹線道路や高速道路への合流などで無理なく速度を上げられる。そのモーターは、車体前部のモータールーム内にメンバーを横断させ、これに吊り下げる搭載方法により振動や騒音を源から絶っている。あるいは、ホイールハウス内にライナーを取り付け、車外からの騒音にも対処している。

手間なく素早くでは、運転支援の「プロパイロット」や「プロパイロットパーク」、あるいはワンペダル的な運転を促す「e-Pedal Step(イーペダルステップ)」といった先進技術を採用する。コネクテッドサービスには、充電状況を考慮した経路設定をする日産コネクテッドナビゲーションのほか、Apple CarPlayへのワイヤレス接続、緊急時のSOSコールなども用意される。

先進的かつエレガントについて、外観の造形はすでに解説したが、室内ではダッシュボードに防水/防汚/防臭性を持つファブリックを採用したり、ハンドルとシフトノブにはアリアと同じ意匠を適用したりと、実用的だが安さならではの我慢といった従来の軽自動車に対する印象を払拭する上級さが採り入れられている。

車体色は、2トーンが4色、モノトーンを含めると全部で15色になる。内装色は、黒を基本に、ベージュと、ブルーグレーが設定されている。

性能諸元としては、20kWhのリチウムイオンバッテリーを車載し、WLTCモードで最大180kmの一充電走行距離を備える。充電時間は、200Vの普通充電で8時間、急速充電の約40分で容量の80%を充電できるとする。リーフやアリアでの300〜600kmという一充電走行距離からすると少なく感じるかもしれないが、日々使う軽自動車としては適切な距離が確保されているし、遠出の際も1回急速充電すれば300km以上走れる計算になるので、休憩をしながらの移動には十分だろう。

車両価格は、233万3100円から294万0300円までだが、55万円の補助金を活用すると、約178万円から購入できることになる。さらに各自治体の補助金を活用することで、合計100万円程度のサポートを受けることも可能だ。

試乗して実感した「軽自動車とは思えない安心」
発表・発売を前に、日産の敷地内のコースで、限定的ながら試乗の機会を得た。試乗したのは、最上級車種の「G」グレードであった。ただし、内装や装備の違いがあるだけで、走行性能はグレード間の差はない。

走りだしはEVの常で、いたって滑らかだ。軽くアクセルペダルを踏むだけで、心地よく速度にのっていく。

日産らしい、しっかりとした張りのある乗り心地だが、硬いわけではない。衝撃をしなやかに吸収していく。その感触は、エンジン車の『デイズ』や、その後の『ルークス』に通じる、軽自動車といえども安心を覚えさせる操縦安定性だ。

これもEVの常だが、リチウムイオンバッテリーを床下に搭載するため重心が低く、デイズ同様に背の高いハイトワゴンではあるが、ふらつくような不安な挙動は見せない。高速道路も安心して巡行できるだろう。車線変更する様子には、軽自動車とは思えない安心がある。

モーターの出力特性には、エコ/スタンダード/スポーツの3種類がある。通常走行であれば、エコで不自由しないと感じた。たとえスポーツに切り替えても、アクセルペダルの踏みはじめでトルクの立ち上がりが早く、短時間に鋭い加速をもたらすだけで、エコだからといって出足が鈍いかといえば、低回転から大きなトルクを出せるモーター特性により、遅れなく発進し、加速へ移れる。

ガソリン車の『デイズ』と変わらぬ室内空間
エコモードに、ワンペダル的な運転操作ができるイーペダルステップを選んで運転すれば、アクセル操作だけでほぼほとんどの交通環境で速度調整でき、ペダル踏み替えへの不安も軽減される。ことに、混合交通となる日常の市街地走行で、アッ!という瞬間的な出来事に対し、アクセルペダルを戻しただけで強い減速が得られる安心感は、EVならではだ。

イーペダルステップを使いながら、シフトレバーをDからBへ切り替えれば、アクセルペダルを戻した際の減速度がさらに強まり、安心感はいっそう高まる。それでいて、前型『ノートe-POWER』から積み上げてきた制御の熟成により、強い減速を掛けた際にも唐突さがなく、すぐ操作にも慣れ、運転をいっそう楽にしてくれる。

私のお薦めモードは、エコモードでイーペダルステップを選び、シフトはBを選択することだ。

後席の乗り心地はデイズで実証済みだが、EVであることによって車内の静粛性がいっそう高まり、前後の席での会話も普段通りできる。床下にリチウムイオンバッテリーを積んでいるが、EVでありがちな床が高くなることもなく、デイズと同じ室内空間で仕上げられていることに感心した。

ベンチ式の後席は前後にスライド調節できるが、もっとも前寄りにしても座った膝周りにゆとりが十分あり、快適だ。その位置であれば、荷室に荷物を余計に載せられる。

軽自動車の常識や印象を一変する満足をもたらす
ゲームチェンジャーという声が日産社内から聞こえてくる。新型軽乗用EVのサクラは、これまでの軽自動車の常識や印象を一変する満足をもたらす。感動さえ覚えるのではないか。単なる経済性や利便性だけでなく、軽自動車に乗る誇りさえ与えてくれるサクラである。

日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》 日産 サクラ《写真撮影 中野英幸》