カーデザイン大賞:川崎市立南菅中学校2年 矢野光佑さん『SOLα』《画像提供 自動車技術会カーデザインコンテスト事務局》

社団法人自動車技術会は、3月28日、第10回カーデザインコンテスト表彰式をオンラインで開催。今年のカーデザイン大賞は中学生が受賞した。

◆デザイナーはただ絵を描くだけではない
カーデザインコンテストは、自動車技術会技術会議参加のデザイン部門委員会が主催し、日本の2輪4輪のメーカー、ならびに関連業界各社のデザイナーや、デザイン系の大学の先生などが、将来のカーデザイナー育成のために一致協力して実施している活動だ。「対象となる中・高生がこれからの進路を考える時期に、自動車技術の仕事を理解し、興味を持ってもらうことも大変重要。将来の自動車産業を担う若者を育成するために、今後もこのような活動を発展継続させていきたい」とコメントするのは、自動車技術会教育会議議長の伊藤明美(東京都市大学)だ。

デザイン部門委員会人材育成ワーキングリーダーの水野郁夫氏(日産)は、この取り組みの背景について、「カーデザインを取り巻くクルマ文化は、100年に1度といわれる大きな変革期を迎えており、これは単に電動化を主とした動力源の変化や、運転の自動化といったことだけではなく、交通インフラの変化によるクルマの使われ方や所有の仕方、あるいは、クルマ自体のデザインも含めてた形について、従来正しいとされていた常識が全く通用しなくなったといえるのではないか」と疑問を呈し、「今までクルマに関わって、同じ方向に向かっていけばよかった人たちが、新たな方向を探らなくてはならなくなってきていることを意味している」と考察。その時代背景の中で、「まだ世の中にないもの、ない形を想像できること。もっというと、まだ誰にも見えていない未来を想像できる能力を持ったデザイナーという存在は大変重要になってきている」と述べる。そして、「デザイナーは、ただ絵を描くだけではなく、新しいイメージを具現化し、みんなで向かっていく目標を共有のものにできる重要な存在だということを知ってほしい」とアピールし、「カーデザインの世界は、新しい価値の創造に向けて、さらにクリエイティビティを高めていく必要がある。こうした中、私たちは想像することの喜びを学べる場作りをしっかり企画推進していこうと、この人材育成化活動を進めている」と意義を語った。

◆10年後の暮らしを楽しくする乗り物
第10回目のテーマは“10年後の暮らしを楽しくする乗り物”とされた。「現在のクルマにとらわれない、全く新しい発想のオリジナリティあふれる革新的なデザインを募集する」と水野氏。応募資格は、全国の中学生をA部門、高校生や高専生をB部門とし、応募期間は昨年の11月1日から今年の1月17日までの約3カ月間。応募要旨のほか、提案のスケッチだけではなく、作品の考えや、アイデアをまとめた説明図をセットで応募。

今回の応募総数は432件と、10年間で当初の2倍以上になった。審査方法は、デザイン部門委員会において、自分が考えているイメージや、機能が絵に表現されているか。そして新規性、進歩性、そして独創性があるかが基準とされた。

賞の種類は4つ。総合的に最も優れた作品であるカーデザイン大賞を1名。イメージや機能が最も優れて絵に表現されているカーデザイン賞と、工学的な工夫に優れた作品であるダビンチ賞はA部門、B部門それぞれ1名ずつ。審査員特別賞は、特に創造性に優れ、審査員の総意で残すべきであるという作品があった場合に設定。今年は1点選出された。また。佳作は若干名とされ、今回は19名の作品が選ばれた。

審査はデザイン部門委員会の委員のほか、現役のデザイナーやエンジニアなど合計31名で行われた。

◆大賞は中学2年生が提案するSOLa
今年の各賞の受賞者と作品は以下の通り。デザイン部門委員会デザイン振興ワーキングリーダーの生駒知樹氏(DENSO)の講評とともに、原案をもとに現役デザイナーによるリファインスケッチとアドバイスが行われた。

・カーデザイン大賞:川崎市立南菅中学校2年 矢野光佑さん『SOLα』

「エコカーでありながら、スポーツカーの性能を兼ね備えた意欲的なクルマだ。アゲハ蝶をモチーフにしたデザインだが、可憐そうなイメージに反して、ギラギラとしたアクの強い、野心的な走りの力強さも表現され、柔と剛を合わせ持つ独特な世界観に溢れたデザインだ。また、スポーツモードとセーフモードでカラフルにカラーリングが変化する最も特徴的な部分は、ソーラーパネルとなっていて循環をアピールするコンセプトともうまく繋がっている。ロゴやマークの表現の仕方も含め、ブランディング観点をしっかり持っており、総合的にとても優れている作品だ」と生駒氏は講評。

リファインスケッチを担当した本田技術研究所デザインセンターの杉浦良氏は、「初めてこのスケッチを見て、楽しそうに描いてると感じ、本当にクルマが好きなんだという気持ちが伝わってきた。見ている我々もワクワクさせられるデザインや、絵のタッチなので本当に素敵な作品だ。またクルマのスタイリングだけではなく、技術的な部分や、環境的な視点もしっかり考えられているところも非常に素晴らしい」とコメント。

受賞した矢野さんは、「SOLαは僕の理想が詰まったクルマで、今回、多くの人に知ってもらうことができました。これからもカーデザインに励んでいきたいです」と思いを語っていた。

・カーデザイン賞高校生の部:栃木県立足利工業高等学校3年 落合柚巴さん『人楽車』

生駒氏は、「昔ながらの街乗りモビリティである人力車をモチーフに、その楽しさを引き継ぐという発想が面白い。人力車を想起させる古風なエクステリアは、古い街並みによくマッチしながら、道路に合わせて自在に変化するタイヤなど、最新の技術が盛り込まれていて、昔と未来が入り交じる不思議な魅力がある。他にも、風を体感しやすいインテリア、座りやすいシートなど、いずれも、“楽しむ”をキーワードにアイデアを考えられている」と評価。

ダイハツデザイン部第2デザインクリエイト室の大橋元史氏は、リファインスケッチに際し、「スケッチを見て素直にすごいなと思った。基本的なパースは取れており、陰影や絵の描き方はできている。しっかりしたコンセプトをデザインした思いがあり、それがきちんと伝わってくる作品だ。このまま練習していけばどんどん上手くなっていく。このまま才能を伸ばしてプロの世界を目指し、自分の可能性を広げてもらいたい」とコメントした。

・カーデザイン賞(中学生の部):千葉市立高洲中学校3年 鵜殿正基さん『MIZUGANE』
(鵜殿さんは昨年もカーデザイン賞を受賞し、連続2回目の受賞)

生駒氏はMIZUGANEについて、「審査員一同、車体をねじるという発想に度肝を抜かれた。どうしても企業デザイナーは技術的制約に縛られてしまうので、そんな発想はできない。確かに道路の凹凸に車体がはねることなく這うように走ることができたら、これまでにない走る楽しさを味わわせてくれそうな魅力があり、どんな走りをするんだろう、車体がどんなふうに変化するんだろうといった想像力を掻き立てられた。絵の表現の仕方もねじることがよく分かる構図で、鵜殿さんが伝えたいポイントが、直球で突き刺さってくる表現になっている。鵜殿さんは昨年ユニバーサル観点の作品で受賞され、今回はスポーツカーと、鵜殿さんの幅広いデザイン力の成長に、我々審査員としては非常に喜んでいる」と評価。

リファインスケッチのアドバイスを行ったトヨタ自動車MSデザイン部の齊藤匠紀氏は、「車体をねじることで新たな運転体験と、クルマの走りを魅力的に見せるコンセプトは、作品を見ているこちらも思わずワクワクさせられた。また、絵の表現レベルもとても高く、スケッチ自体はプロでも通用する。今後は、機能を形にするつもりでデザインに望むと、また新たな世界が見えるだろう。デザインには正解がないので、ぜひこのような意識で色々な形を模索、また挑戦してほしい」と期待を語った。

・ダビンチ賞(高校生の部):東京都立八王子桑志高等学校2年 渡辺暁宣さん『Air Drive』
(渡辺さんは昨年佳作で入選)

「バスやトラックなど人流、物流の大型車両を縦にして走る、そして浮くという驚きの作品。現代あるいは未来において人流物流をいかにして効率的に安全に輸送するかは重要だ。立ててしまうことで、物理的な渋滞要素を低減するという発想はこれまで見たことがない。さらに浮くので、どんな悪路でもなんなく走行し、これまでにない人流物流の世界を生み出しそうな予感がする。渡辺さんの描く絵は、メンテナンスからサービスまで、トータルで新しい世界を壮大に考えており独創的だ。見る人の想像力を掻き立てられる、ダビンチ賞にふさわしい作品だ」と生駒氏は講評。

いすゞデザインセンタープロダクト第1グループの佐野公理氏は、リファインスケッチのアドバイスで、「施設なども含めてデザインしているところがとても魅力的。また、デザインに関しては、縦長というとても魅力的なフォルムをしており度肝を抜かれ、素敵だと思った。リファインスケッチでは、注力されている施設との関係性も入れ込んで描いた」とコメントした。

渡辺さんは、「去年の佳作作品を発展させる形で、コンテストに応募。受賞できて良かった」と述べていた。

・ダビンチ賞(中学生の部)松本市立旭町中学校3年 鈴木一冬さん『unison』
(鈴木さんは昨年佳作で入選)

生駒氏によると、「ALS患者のために考えられたクルマだが、健常者から見ても欲しい、乗ってみたいと思わせるエクステリアデザインなどが素晴らしい。患者にとっては特別扱いされることは嫌な気持ちになるものなので、走行していても普通のクルマと同じように見える、使えるという配慮は重要だ。そんなエクステリアが大きくガバッと開くと、中はALS感者のために構造がよく考えられており、例えばストレッチャーの乗降のしやすさを優先したエンジン配置や後輪駆動のほか、視線移動操作を取り入れたと思われる意思伝達装置など、患者目線のアイデアがたくさん盛り込まれている。患者はまさにクルマとユニゾンして、自由を掴めそうなクルマだ」と述べる。

スズキ四輪デザイン部の加藤正浩氏は、「パラリンピックを見てこのアイデアが生まれたとのことで、とても良い着眼点だ。自分が感動したことをベースに、体が不自由な人の使う気持ちを考えており、本当はみんな健康でありたい、快活でありたいという問題にきちんと向き合い解決しようとしているのが、素直に素晴らしい。また、スケッチでもユニゾンの中身やレイアウト、機能、使われるシーンを説明、表現していることもとても良い。リアやインテリアなど、いろいろな角度からスケッチを描いていることも良い。スケッチは、完成度がかなり高いデザインので、今後は例えば立体的で躍動的に見えるように、少し上にビューを振ったり、アングル作りに気をつかい、スケッチの躍動感みたいなのをあまり綺麗に描きすぎず、形の伸びやかさに比例するように、手の動き、ストロークの勢いを大事にしたい」と実践的なアドバイスが行われた。

・審査員特別賞:神奈川県立湘南高等学校1年 浜名克聡さん『SALRANA』
(浜田さんは一昨年の第8回コンテストでカーデザイン賞を受賞)

生駒氏は、「とてもレンダリング力に優れている作品だ。パース、あるいは陰影、ギミックの書き込みなどいずれも感嘆させられた。バッテリー、関節、シリンダー、放熱ダクトなどにこだわりを持ち、絵を見ればどこに何が、どんな機能であるのかが分かりやすく表現されている。救助で必要な四足歩行という従来のタイヤありきのモビリティから脱却しているところも意欲的だ。どんな悪路でも問題なく走破できそうながっしりとした足回りと、乗客を守るコックピット部など、浜名さんが描きたいことがイメージ通りしっかり描けている。メカに対する愛を感じる作品だ」と評価。

三菱ふそうトラックバスデザイン部の松本正志氏は、「メカニズムの部分を考えた、浜名さんの想像に富む部分が評価された。浜名さんのデザイン案からはカエルが厳しい自然界に生存するために進化してきた体の形状、機能がコンセプトである人を助けに行くという軸に合っており、すごくいい着眼点だ。表層の部分だけをスタイリングするのではなく、なぜそれがこうなっているのか、なぜこの形であるべきなのかを考えながら、問題を解決をしようとしているアプローチが特筆すべきポイント。最初は人助けという着眼点だと思うが、通常移動にも使用できるモビリティにもなると、発展性のある非常に楽しい移動手段になるだろう」と述べた。

◆社会課題への意識の高さや感受性の豊かさが原動力
デザイン部門委員会委員長の田中昭彦氏(ヤマハ発動)は、全体を通して、「次世代を担う中高生の皆さんが、カーデザインコンテストへの応募をきっかけに、未来の乗り物の夢を自分自身で具体的に表現してもらうことで、皆さんの想像力やデザイン能力を成長させて、デザインという仕事に興味を持ってもらいたい。この意味からも、繰り返し応募する方々がたくさんいることを大変うれしく思っている」という。そして今回も、「若い皆さんの独自の視点から様々な暮らしの楽しさ、可能性を表現しており、選考する現役のデザイナー、エンジニアにもたくさんの刺激を与えてくれるものだった」と述べる。

また、最近の応募では、「地球環境、高齢者社会、安全機能、災害救助など社会的な課題に焦点を当てた提案が増加している傾向で、今回は特に乗り物の中での過ごし方、暮らし方に焦点を当てた提案や、アウトドアライフ、外での暮らしを楽しくする乗り物の提案が多く見られた。高齢者が扱いやすく、また安全性を提案する超小型の乗り物の提案も多かった」とし、これは、「中高生の皆さんがコロナ禍による生活意識の変化と課題などを身近に感じ取っていることや、AI自動運転技術への発展の期待、地球環境への意識、SDGsへの高い関心などを持っている結果だ。彼らの社会課題への意識の高さや感受性の豊かさ、発想力に感心させられる。このように社会の課題を敏感に察知し、その中から未来の乗り物の夢を考えていくこと自体が、未来の価値を生み出す原動力なのだ」と期待を語る。そして、「今回受賞された皆さんの中から、世界をリードするモビリティデザイナーがきっと生まれてくるだろうと確信している」と総評した。

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