マツダ ロードスター 990S《写真撮影 島崎七生人》

「S」の素性をさらに磨き込んだ「990S」
車重990kgというと、初代NA型・最終モデル、ノーマル・ベース車のスペックでもあった。2世代置いて、2015年登場の現行ND型の「S」グレードで同数値が復活していたのはご承知のとおり。今回の改良で追加された『ロードスター 990S』は、その素性をさらに磨き込んだモデルという訳だ。

位置づけは特別仕様車で、外観では1本あたり約800g、計約3.2kgバネ下の軽量化が果たせたというレイズ社製鍛造16インチアルミホイール、ダークブルー色のソフトトップが専用。ホイールのスポークの間から覗くブレーキも、フロントはブレンボ社製対向4ピストンキャリパー(控えめなブラック塗装でロゴがブルー)&ベンチレーテッドディスクを採用し、ローターはフロントのみならずリヤも大径化されているから、見る人が見れば違いは一目瞭然だ。

コクピットではブルーの挿し色のエアコンルーバーベゼル、ブルーステッチと直刺繍入りのフロアマット(ショップオプション)などが目にとまる。

1gも車重を増やさず実現した「KPC」
今回の改良型『ロードスター』の目玉が「KPC」。KPCとはKinematic Posture Control(運動学に基づいた車両姿勢の制御技術)の略だ。その目的は、高速領域でより安定化したコーナリング性能を実現させるため、リヤ内輪側に僅かな制動をかけることで、もともとのサスペンションのアンチリフト効果を最大限に活用、車体のヒーブ(浮き上がり)を制御しようというもの。

「ロール角ではなく“面”が地面に対しどれくらい離れているかという考え方。そのことで安心感につなげている」とは開発エンジニアの話だが、何か機構を追加することなく(=1gも車重を増やすことなく)、内輪と外輪の回転差で機能させる仕組みのため、まったく自然なフィーリングである点も大きな特徴だ。

なお990Sでは、併せてサスペンションも専用にチューンを受け、スプリングはやや硬めにし、組み合わせられるダンパーは伸び側の減衰力をやや緩め、初期の乗り味をマイルドにしたという。

ベストバランスのロードスター
試乗した印象は「ときなく洗練された気持ちいい走りが楽しめる」だった。こう見えて(どう見えて?)筆者は元・初期型NAに飛びついた1人で、当時、65タイヤ+Miata用Racing Beat製コイルスプリング+KONIの可変式ダンパーを組み込み、しなやかでフラットな乗り味を求めたのだったが、そんな自分のNAが味わわせてくれた走りを思い出した次第。

990Sは「日常域だけでなく追い込んでもいけるクルマにした」と話だけ聞き、実は当初、もっとスパルタンな走りを想像した。が、実際には低速から乗り味はしなやかだし、軽快さはまったく損なわれずに、キモであるコーナリング中の姿勢は、なるほど安定して感じられる。さらにクルマの挙動、ステアリングレスポンス、軽やかなパワーフィール、アクセルレスポンスなどすべての要素が完璧な連携を見せていて、まとまりがよく、いっそう洗練されたクルマへと進化したように思った。

ここに来て同車の奥深さを再認識させられたし、ベストバランスの『ロードスター』だと思った。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。

マツダ ロードスター 990S《写真撮影 島崎七生人》 マツダ ロードスター 990S《写真撮影 島崎七生人》 マツダ ロードスター 990S《写真撮影 島崎七生人》 マツダ ロードスター 990S《写真撮影 島崎七生人》 マツダ ロードスター 990S《写真撮影 島崎七生人》 マツダ ロードスター 990S《写真撮影 島崎七生人》 マツダ ロードスター 990S《写真撮影 島崎七生人》 マツダ ロードスター 990S《写真撮影 島崎七生人》