ソリオ「ハイブリッドMZ」のフロントビュー。ギラつきデザイン全盛の今日においてはかなり控えめな装い。《写真撮影 井元康一郎》

スズキの小型トールワゴン『ソリオ』で1200kmほどツーリングを行う機会があったので、インプレッションをお届けする。《前編》では動力性能や燃費性能についてレポートした。近距離コミュータ用途が主であろうトールワゴンながら、予想外のロングドライブ耐性の高さや、乗り心地の良さに驚いた。本稿では居住空間や操作系、ライバル車との比較を紹介する。

居住空間・カーゴスペース
室内の居住性、ユーティリティなどは日本の独自商品であるAセグメントミニトールワゴンの最大のハイライト。この部分で不満を持たれるようでは、その下の軽スーパーハイトワゴンに一瞬でやられてしまう。ソリオのスペース的なゆとりは全長3.8m車としては限界に近いハイレベルなものだが、それがレゾンデートル(存在理由)なので、出来ていて当たり前とも言える。

まずは居住区だが、旧型時代から定評があっただだっ広さは新型でも健在。今回のドライブでは後席に乗っての移動を試す機会がなかったので移動中のフィールを確かめることはできていないが、少なくともシートの出来の影響が僅少な短・中距離移動では不都合を感じるようなことはまずないだろう。

前席はデザイン、生地の風合いなど、低価格ベーシックカー仕立て丸出しという感じであるが、機能性は素晴らしく、1200km旅くらいであれば疲労は小さくてすんだ。これは助手席も同様で、同行者も連続乗車が全然苦にならないと驚いていた。軽自動車やサブコンパクトクラスのシートはここ30年でとりわけ大きな進化を遂げており、本当に良いものが増えたが、ソリオのシートはその中でも出色の部類と言えそうだった。

空調は蓄冷式エアコン「エコクール」が標準装備だが、このドライブ時は寒冷期だったため、恩恵は感じられなかった。試乗車の天井には空気を循環させるサーキュレーターが備えられており、後席と前席の温度差が生じにくいようになっていた。ただ、寒冷期には前席の窓側に冷たい空気の流れができやすいのは少々気になった。暖房時に床方面への温風吹き出しが主体になるオートエアコン任せのときにそうなりやすく、デフロスターを併用すると緩和されるようだった。

ラゲッジスペースについては大荷物を入れたわけではないのであくまで印象論だが、旧型に対して車体後部を80mm延長しただけだって、十分な空間が確保されているという印象。リアシートを最も後方に寄せていても手荷物置き場よりはずっとマシな広さがあるし、前方にスライドさせればちょっとしたステーションワゴンのようにも使える。前端までスライドさせてもリアシートの膝まわりには大人が十分に余裕をもって座れるだけのスペースが残る。ちなみに後席シートバックは左右分割可倒式だが、スライド機構ともども左右均等の5:5分割。片方を倒す時は問答無用で3人乗りになる。

操作系・運転支援システム
コクピットの操作系のまとまりは良くも悪くもなく、普通。ADASがそれほど高機能というわけではないためステアリングスイッチの数もそれほど多くないが、そのぶんボタンのひとつひとつは大きく、押し間違えにくいようなデザインはできている。一方センタークラスタのメカニカルスイッチはエアコンのみで、オーディオのボリュームコントロールなどをダイレクトに行うことはできない。

気になったのはセンター部に設置されたメータークラスタ。ドライバーのアイポイントからのオフセットが大きいため視認性が悪い。試乗車にはステアリング前方にヘッドアップディスプレイが装備されており、それを見ればよかったが、ヘッドアップディスプレイがないグレードはメーターから目を離す時間がやや多くなりそうだった。

ヘッドランプは先行車や対向車の存在、ステアリング操作などで照射範囲を変えるアクティブハイビームではなく、単純なハイ/ロービーム自動切換え式だったが、照射範囲が横方向に十分取られており、照度も十分。また、LED照明にありがちな照射範囲を外れたところが真っ暗ということがなく、光軸を外れたところもある程度照らされるような散光設計になっていた。いいランプである。

ADASはステアリング介入による車線維持機能のない、シンプルな前車追従クルーズコントロール+車線逸脱警報のもの。FWDの最高グレードでも200万円強という車格を考えればこの程度のものが付いていればもう十分と言いたいところだが、最近は軽自動車でもステアリング制御入りのADASが標準装備というモデルが登場していることを考えると、もう一段ハイスペックなものが欲しくなるのも確かだ。

衝突防止・軽減機能についてはもちろん実車で試すことはできないし、そのお世話になることもなかった。が、スズキの安全システムはオンロードでは結構いいパフォーマンスを示す。昨年筆者が山口県の山の中のとある交差点で信号待ちをしていたとき、目前でスズキの現行『ハスラー』とトヨタ『アクア』が右直事故を起こした。衝突は絶対免れないというタイミングでアクアが右折。対する直進車のハスラーは衝突はしたものの、目の覚めるような素晴らしいフルブレーキングで衝突速度を抑えた。

筆者は「これだけのブレーキを瞬時に踏めるとは、いったいどれだけ高技量のドライバーが運転していたんだろう」と思いながら救出に走ったのだが、乗っていたのは免許を取っていくばくも経っていない若い女性だった。見事なブレーキをかけたのはADASだったのだ。もしADASがなかったら重傷事故になっていたことは間違いない。それを軽傷に抑えたこの1件だけをみてもスズキは善行を積んだなとしみじみ感心した。ソリオのシステムもおそらく同じように懸命に乗員を守ってくれるだろう。

何かを犠牲にするという感覚がほとんどない
低価格帯の短距離コミュータながら、本当に良いライドフィールと機能、高い経済性を持ち合わせていたソリオ。ドライブしてみて、このクルマはちょっとヤバいと思った。通常、ミニトールワゴンは何かを我慢してスペース、機能を得るというところがあるのだが、このクルマは何かを犠牲にするという感覚がほとんどない。クルマのキャラクター的には趣味性とは縁遠いイメージだが、3列を使うのでなければこれ1台で日用からレジャーまで何でもこなせてしまいそうだし、遠乗りだって運転が楽しいくらいである。

もちろんBセグメントに比べれば絶対性能では劣る。が、峠の走り屋みたいなユーザーを除けば公道ドライブは他車との競走ではない。感覚的に気持ちが良ければそれでいいのである。便利、気持ちいい、経済的、そのうえお値段お手頃と来れば、太鼓判を押さざるを得ない。もしこのクルマを作ったのがダイハツだったら大変なことになっていただろう。トヨタが販売するOEMモデルが日本の普通車市場で『ルーミー』以上に売れまくり、ライバルはもちろんトヨタの首をも絞めかねない。日本の自動車業界はソリオがスズキブランドで、出来のわりに大した販売台数になっていないことに感謝すべきだろう。

さて、そのソリオでどのグレードがおススメかと言うと、このクルマにしてはちょっとお値段が張るが、一番は今回乗ったトップグレードの「ハイブリッドMZ」、次にデコレーション系の「バンディット」。理由はセンターメーターの中で助手席寄りに付いているアナログ速度計の視認性の悪さをカバーするヘッドアップディスプレイがついているから。

ただ、筆者は瞬間/平均燃費を表示させたいクチなのでことさらそう感じるという部分もある。ドライバー寄りに配置されているマルチインフォメーションディスプレイにデジタル速度計を表示させれば、速度計を見る時の視線移動の大きさの問題は解決するだろう。非ハイブリッドの下位グレードやAWDは足まわりがハイブリッドFWDと異なるのでおススメ度合いについては断言できないが、シート構造などは同じなので、短距離試乗での乗り心地やふわつきなどのチェックで自分に合うと感じられればOKだろう。

ライバル比較:トール&ルーミー、Bセグミニバンへの優位性は
ライバル比較。同格のダイハツ・トール/トヨタ・ルーミー相手だと後席が左右非対称分割であること、小回り性能、排気量による自動車税額はトール/ルーミーの勝ち、それ以外はほぼ全項目ソリオが優越しているという印象。格上のBセグメントのトールワゴン相手でもロングツーリング耐性ではホンダ『フリード』と、ハンドリングの軽快さではトヨタ『シエンタ』と張り合うくらいのものを持ち合わせている。3列シートや巨大な荷室が必要でないならば、積極的にソリオをチョイスしてもいいくらいに感じられた。

軽自動車のスーパーハイトワゴン、スズキ『スペーシア』との比較ではどうか。筆者はスペーシアカスタムのターボ車で東京〜鹿児島ツーリングを行っており、いずれロングドライブ試乗記をお届けすることがあるだろうが、ソリオとの作り分けは結構明確。ハンドリングはソリオと同様前輪がしっかり食いつく良いフィールを持っている半面、乗り心地や静粛性についてはソリオのほうが圧倒的に優れている。軽用ではなくAセグメント用プラットフォームを使って作っただけの差はあるという印象だった。軽自動車税の安さは魅力だが、アクティブ派なら5人乗りの必要がなくともソリオを積極チョイスする意味は十分以上にあるだろう。

京都の旅館の前にて記念撮影。《写真撮影 井元康一郎》 ソリオ「ハイブリッドMZ」のサイドビュー。後席スライドドアの間口のゆとりは及第点。《写真撮影 井元康一郎》 後席。ミニトールワゴンらしく広大そのもの。《写真撮影 井元康一郎》 シートスライド量はかなり大きい。前端に寄せてもレッグスペースは余裕たっぷりだった。《写真撮影 井元康一郎》 ラゲッジスペース。後席をいちばん後ろに寄せてもある程度使えるスペースが残るのは軽スーパーハイトワゴンに対するアドバンテージのひとつ。《写真撮影 井元康一郎》 後席を前にスライドさせると荷室は一気に広がる。《写真撮影 井元康一郎》 アナログ速度計が助手席寄りに配置されており、いささか見にくい。《写真撮影 井元康一郎》 ヘッドアップディスプレイは見やすかった。《写真撮影 井元康一郎》 銀閣寺を訪問。これほどまでに人影のない京都を次に見られるのはどのくらい後のことだろうか。《写真撮影 井元康一郎》 竹林の下でいただく抹茶と和三盆糖落雁のセット。待ち時間ゼロの喜び。《写真撮影 井元康一郎》 大阪の下町の路地にて。軽規格よりは幅広だが、扱いやすい大きさである。《写真撮影 井元康一郎》 上級グレードには後席と前席の温度差を緩和するサーキュレーターが付く。《写真撮影 井元康一郎》 エンジンは直列4気筒1.2リットル。3気筒が増えてきた今、横幅は結構大きく感じる。《写真撮影 井元康一郎》 タイヤサイズは165/65R15。これで乗り心地を良くできたのだから大したものだ。《写真撮影 井元康一郎》 ソリオ「ハイブリッドMZ」のリアビュー。とてもプレーンなデザインである。《写真撮影 井元康一郎》 前席。シート設計はレジャー好きがワゴン車代わりに使っても十分満足できそうなレベルだった。《写真撮影 井元康一郎》