ボルボ XC60 B5 AWD インスクリプション《写真撮影 南陽一浩》

2017-18年に輸入車としてVW『ゴルフ7』に続く2番目、輸入車SUVとしては初めて日本カーオブザイヤーを獲ったボルボ『XC60』が、マイナーチェンジを果たした。

SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)というプラットフォームと、48VのMHEVを採り入れたガソリン2リットルターボのB5+アイシン製8速ATというパワートレインに、変更はない。かなり目を凝らさないとマイチェン済みの後期型であるとは見分けがつきにくい。それほどボルボXC60はマイナーチェンジを単なる通過儀礼のようにやり過ごしつつ、だがジワジワと効いてくる変更が加えられていた。

◆車内インフォテイメント・システムにグーグルが実装


外観で目に見える目立つ変更はリアバンパー下端、マフラーが外から見えない形状になり、マフラーのテールパイプが弧を描いて地面に向けられたこと。フロント側に回るとバンパー下部や左右エアインテークを彩るクロームの処理が、よりすっきりした形状にまとめられたが、オーナー以外に気づけるかどうかの小変更レベルといえる。

実際、コロナ禍のここ2年間でもXC60は順調で、グローバル市場では相変わらずボルボのベストセラー・モデルであり続け、日本市場でも尻上がりに販売台数を伸ばしている。いわば、前期フェイスの好調を止めない方向性のマイナーチェンジで、外観の変更はミニマム、ADAS機能も元より充実していたので前車発進警告や自転車などの横切りにセーフティブレーキの対応範囲が広がったぐらい。よって最たる眼目は、車内インフォテイメント・システムにグーグルが実装されたことだ。



従来のアンドロイドオート対応といった、車載インフォテインメント上におけるエミュレート機能ではない。OSそのものがGoogleアンドロイドで、GoogleマップやGoogleアシスタント、Playストアが、スマートフォン内にあるのと同じ感覚で使える。これはeSIM内蔵による新車から4年間は無料の通信環境と、ボルボIDを登録して手元のアプリやテレマティクス・サービスとの連携が前提になる。従来のSENSUS(センサス)またはSENSUS CONNECT(センサス・コネクト)といったペットネームはないが、グーグルのサービスが車内で丸々使えることで、家庭からスマートフォン、車まで、シームレスにその恩恵が受けられるということだ。

◆日本語対応は2022年第1四半期まで待たねばならず



例えば、家でGoogle Homeをすでに使っているのであれば、ステアリングホイール右側にあるボーカル認識ボタンを押して、「OKグーグル、電気を点けて/消して」といった操作が、車内のGoogleアシスタントを通じて可能になる。マップのナビ機能で目的地を入力するにも、グーグルの音声認識の精度が今のところ高いのは周知の通りで、ハンズフリーでの入力の敷居が一気に下がったといえる。

タッチスクリーン上、縦4分割に分かれたホーム画面表示に変わりはない。ところが、ボルボの車載グーグル(都合上こう呼ばせてもらう)の音声認識は、2022年第1四半期まで日本語対応を待たねばならない。よって試乗車では、デフォルトの入力言語に英語が設定され、筆者は発音で軽くあしらわれてしまい、小っ恥ずかしくなって仏語に切り替えて試した。


エアコンの温度の上げ下げや風量の強弱、ラジオ局を周波数で指定するといった操作は、ソツなく問題ない。マップの目的地入力で日本の地名はまだ出てこなかったが、グローバル展開しているホテルのような施設名は難なく認識する。メーターパネル表示も大きく改められ、マップが目の前の中央に、走行情報の邪魔をせず分かりやすく示される。

ただ「サス設定をスポーツにして」とか「ステアリングを重めに」といった、車両パラメーターの変更は音声からは受けつけてくれない。情報工学が電子制御やメカニカル部分のキューとなる上位システムとして機能する「メカトロニクス」ではなく、まだあくまでもインフォテイメントの一部として採用されていることが分かる。

車両内で使うGoogleアプリに関して、Googleにログ送信するかどうか、アクティビティ管理をウェブの自分アカウントに紐づけるかどうかも、選択できる。この辺りの個人データの扱いは日本とEUの間で取り決められているので、車両の移動ログとの線の引き方は、欧州ルールと同様と思われる。

◆「〜風」が一切ない、満たされるインテリア


それにしても、「B5 インスクリプション」の白内装、ついで「リチャージ T8 インスクリプション」のコクのあるアンバー内装に腰を下ろすと、かくも「ホーム感覚」でリラックスできる車内空間は貴重と思えてくる。ナッパレザー以外にも、本物のウッドやアルミの素材感で「〜風」が一切ない。見たものと触ったものの間に騙しのない質感が心地よく、バウアース&ウィルキンスのオーディオ・システムの透き通った音も楽しめる。五感に沁みわたる、満たされるインテリアなのだ。

ふたつほどマイチェンした後期型の難を挙げるとすれば、以前はセンターコンソール上、シフトレバー手前にあってコロコロのダイヤル式だったドライブモード選択が、ディスプレイ内のドライビング>ドライビングダイナミクスからしか、変更できなくなったこと。ふたつ目はリチャージ T8の方だが、手元のシフトパターンがRNDとしか記されておらず、走行中にBモードで回生を強めようとした時に一瞬、迷わされた。


無論、Bモードが省略されているはずもなく、メーターパネル内ではRNDB±と表示されている。要は実際と一致しない物理的ディティールがあるのだ。非PHEVモデルとシフトゲート周りを共用化してしまったためだろう。一度知ってしまえば、次から戸惑わずに済むことではあるが、オレファスのクリスタルガラス製シフトスティックがシックなだけに、少しきまりの悪いコストダウンを感じさせる細部ではある。

あと天井に配されたパノラミックサンルーフ開閉スイッチも変更されてタッチスライド式となり、たまに指がひっかかるとチルト開閉してしまうが、こちらも慣れの範囲か。

◆さすがベストセラーと唸らせる中庸のバランス


いずれもAWDのみとなる『T5』と『T8』、どちらも動的質感は申し分ない。後者の方が電気で走っている範囲が長いが、スムーズで静かである点は共通する。足まわりに変更はアナウンスされていないが、『XC90 T8』でもこんなに滑らかだったっけ?というほど、熟成によるものなのか、こなれて角のない乗り心地に感心させられた。

ステアリングは重め設定にしても手応えがまだ軽いと感じるが、シャラリシャラリとしたイージーライドはXC60によく似合う。さすがベストセラーと唸らせる、そんな中庸のバランスだが、とにかくそのレベルが高いのだ。

あとXC60が飽きさせないのは、外観だ。明らかにSUVルックなのに、少し視線を低くしてアングルを変えて眺めると、途端に伸びやかなステーションワゴン風のキャビンのプロポーションが透けてきて、張り出したショルダーラインと相まって、控えめだが堅牢でスマートな、ボルボの伝統を主張してくる。

B5は「インスクリプション」なら749万円〜、PHEVモデルのリチャージ T8は「インスクリプション・エクスプレッション」が844万円〜。なお、今回のB5撮影車両のシルバードーンは、マイチェンを機に加わった新しいボディカラーだ。



■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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