シトロエン C3エアクロス《photo by Citroën Communication》

欧州車でもっとも小さなサイズのSUVがひしめくBセグメント。日本で同セグメントの輸入車としてはVWの『T-クロス』がトップをゆく一方で、国産車では『ヤリスクロス』や『ヴェゼル』が火花を散らす。ある意味、今や自動車には希薄になったとされるお国柄や各国ユーザーの好みをドンピシャで反映する。

そんな超人気カテゴリーでフランスにおいて登場以来ずっとベストセラーを張っているのが、シトロエン『C3エアクロス』だ。今夏マイナーチェンジを果たしたピュアテック130psのEAT6、つまりガソリンの6速AT仕様に試乗した印象を報告する。

◆110年のレガシーはボンネット裏にも


まずマイナーチェンジのお約束通り、フロントフェイスに手が入れられた。ダブル・シェブロンのロゴを中央に配したグリルは、クロームのインサートが左右両端に伸びてそのまま日中走行灯になる上半分はそのままに、下半分がかなり異なる。LED化されて天地方向に詰まったコンビネーションランプは幾何学的なクロームメッキでもって、ロゴの下半分に繋がる造形となった。アンダーグリルが拡げられ、シルバーのアンダーガードもゴツい感じに。

日本的目線でいえば、クローム面積の増加とゴリっと力強いディテールが、ちょっとミツビシかスズキかダイハツ風のタッチに見えなくもない。が、本気で押し出しを強くしたというより、全体的にファニーな雰囲気にとどまっているので、過剰な力強さが韜晦(とうかい)もしくはアウトフィットといった風情で、不思議と力みや暑苦しさは感じさせない。


もうひとつ、さすがシトロエンだなと感心させられたディティールはエンジンルーム内。あろうことか、ボンネット裏だった。前期型C3エアクロスのガソリン仕様では、確かにインシュレーターのウレタンパッドが張られていたが、エンジンルーム内の下方奥深くに搭載された3気筒1.2リットルターボとの熱干渉に問題ないと判断されたのだろう、ボンネット裏は鉄板と補強だけに省略されていた。

もちろんコストダウンといえる細部だが、ボンネットキャッチピンのV字型の台座たるや、まるで11CVか2CVの時代を彷彿させるような造形で、素っ気なさ転じて逆に清々しい。そんな妙なる萌えディティールが、意図的に潜ませたより図らずも表出してしまうのも、2年前に110周年を迎えたシトロエンのレガシーといえるだろう。

◆動的質感においても持続する心地よさ


とはいえC3エアクロスは、デフレ先進国特有のコスト切り詰め製品ではない。今回試乗した仕様は「シャイン」という高級バージョンで、前期型の販売量の7割近くがこのグレードだった。車格の割にインテリアの質の高さが評判だけあって、「ハイプ・グレイ」と名づけられた新たなトリムは、グレー&ベージュのツートンを、人工レザー&ファブリックで実現。加えて然るべき進化として、『C5エアクロス』など上位機種譲りの「アドバンストコンフォートシート」が奢られた。

シート自体は前期型と同じ骨格だが、造形をよく見ると全体的に、前列シートのサイドサポートからリアシートのヘッドレストに至るまで、厚みを増していることが分かる。従来のシートよりも約15mmほど初期の沈み込みクッション厚を増し、ステッチ・パターンもより大柄なブロックに変更されている。見た目には、造りのいいダウンジャケットかソファのような。いざ座ってみると、ふわりとした柔らかさに続いて、身体を緩やかに確実に包み込むホールドが味わえる。それでいて肘まわりや手元は広く、水平基調のダッシュボードと相まって、内装は広々と寛げる雰囲気だ。


またBセグのSUVとして例外的に150mmの前後スライドが備わる後列シートも、クッション厚をきっちり確保しており、大人が座ってもそうそう文句の出ない程度の余裕はある。後列を左右とも前にスライドさせれば、410リットルの荷室容量は520リットルにまで拡がる。

ただしC3エアクロスの特徴はモジュラー性の高さや、静的な状態での心地よさだけではなく、動的質感においても、その心地よさが容易に持続することだ。車速感応型クルーズコントロールこそ付かないし、ADAS関連はアクティブセーフティブレーキや各種アラートに留まるが、360度ビューやバックカメラなどは備わり、不用意に自動化されていないがゆえの扱いやすさといえる。もちろんインフォテイメントにスマートフォンのエミュレート機能はあるし、9インチのタッチモニターでとくに不足は感じないだろう。

◆ハンモックのような感覚の足回り


それにC3エアクロスのパワートレインでもっとも野心的なニュースは、これまでも使われてきたEAT6ことアイシン製6速ATが、昨年よりライセンス生産され、いよいよフランス製のそれが組み合わされたこと。PSAのトランスミッション工場はそもそもトヨタの欧州工場と同じ北仏ヴァランシエンヌにあり、EAT6は年産30万基が予定されるほど、PSAの基幹コンポーネントのひとつになりつつある。前期型では減速時に低速ギアに落ちると、多少なりと引きずり抵抗を感じたものだが、それが見事に消えた。

ツインクラッチ式にない変速の滑らかさ、CVTには望むべくもない繋がりのダイレクトさは、以前よりEAT6の利点だったが、そのマナーに磨きがかかった印象だ。元よりピュアテック130psは、控えめで3気筒とは思えないほど静粛性が高く、下から厚くリニアなトルクが立ち上がる点が長所。かくして街中でもさほどアクセルを踏み込まずとも、視線の高いC3エアクロスをさらにスムーズにとり回せるようになった。

しかもシトロエンの足まわりの特徴として、ただ柔らかいのではなく、振動も音も確実に吸収しながら大きな周期のバウンスは保たれる。そんなハンモックのような感覚に、アドバンストコンフォートシートの柔らかさが拍車をかけるのだ。それでいて、ある程度の速度域でステアリングを切り込んでも、ゲインのつき方が自然で、ヒヤリとするような挙動をしない。今回はパリ市内だけでなく近郊、渋滞も少なくない範囲でC3エアクロスを酷使したのだが、とくに意識するでもなくリッター17km台の燃費を記録したのも、グッド・サプライズだった。



◆フランス流のミニマム・コンフォートの高さ

前々からフランス車はシトロエンに限らず日本のサプライヤを積極的に起用しているが、日本の高速道路の一部で制限速度が引き上げられた頃に、フランスの国道では10km/hほど引き下げが施行され一部撤回されたものの、車に求められる常用域が以前より重なりつつある。そんな中でフランス車の販売台数が日本で伸びているのは自然な現象でもある。

C3エアクロスはマイチェンを経てなお、成熟したスモールSUVであり続けている。ちなみにFFのSUVとはいえ、グリップコントロールやヒルディセント機能も付く。この辺りがフランス流のミニマム・コンフォートの高さを代表する一台であり、輸入車入門として勧めやすいところだ。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《写真撮影 南陽一浩》 シトロエン C3エアクロス《photo by Citroën Communication》