東京2020を控え通行止めとなっている会場周辺道路Photo by Carl Court/Getty Images News/ゲッティイメージズ

2020東京オリンピック、開幕。原稿を書いている時点でいまだにワクチンが一回も打てていない身としては、なんとも複雑な心境である。

期間中は心の平静を保ちつつ、うがい手洗いを徹底していつも通り粛々と仕事しようと思うものの、都内在住のクルマ移動者としてはいやでもオリンピック開催の現実をつきつけられる。そう、交通規制、首都高1000円加算(ふざけんなー!)、そして、関係者専用(優先)レーンである。

ところで、この関係者レーンは、違反すると違反点数1点&反則金6000円って、いつ決まったんでしょう?

関係者をスムーズに移動させるためにレーン運用がされる、ということは以前から言われていたけれど、点数や反則金もあったとは。私がその事実を知ったのは、なんと、昨夜のことだ(7月19日。運用開始日で各報道機関が一斉にとりあげた)。ネットの報道を見て「えええーっ!」と驚きの声を上げたのは言うまでもない。

都内在住のモータージャーナリストとして、なんという不覚。自分の情報収集力のなさに恥じ入るばかりである。慌てて東京都を管轄している警視庁のサイトを開く……のだが、まあ、うんざりするほど欲しい情報にたどりつけない。わざとわかりにくくして、罠にはめようとしているとしか思えない。

◆雑談のなかに大事な情報がうようよしている

ところで私は、7月22日(木)と23日(金)が祭日になると知ったのも、ひと月ほど前だった。さらに7月19日(月)が祭日ではないと知ったのも1週間前である。あわてて確認すると8月11日(水)、10月11日(月)も祭日ではないことが判明し、PCの前で呆然とした。

自動車メーカーなど企業なら、会社独自のカレンダーがあると思う(生産ラインは簡単に止められないので年間稼働日が決められている)。しかし、我々フリーランスにはこういうものはなく、年初に入手したカレンダーだけが頼りだ。それでも、祭日が変更になったというビッグニュースであれば、これまでならちょっとした雑談のなかでキャッチアップできていたはずだ。しかし、テレワークになり、会議もインタビュー取材もwebになったことで、その機会も絶たれた。雑談の機会がほぼなくなったからである。

大学生のなかには「よっ友」という部類の友人がいるという。顔は知っているけれど、親しく話をする間柄でもない。廊下ですれ違うときに「よっ」と、手を挙げて挨拶をする仲だ。一方、社会人になるとそれは形を少し変えて「ニッ友」になると思う。ニッチ(隙間)な友達である。エレベータホールやトイレなど、ちょっといっしょになる隙間時間に会話する仲だ。

「よっ」以上に時間があるので、当然、あたりさわりのない会話(雑談)をすることになる。「今日は暑いね」「夏休み、どうするの?」。そんなさりげない話題を持ち出し、1分あるかないかの時間をやり過ごすのだ。しかし、実はこうした雑談のなかに大事な情報がうようよしている。

◆似たもの同士で作った常識は、世界の常識からはずれている

少し前に、漫画雑誌の編集者と話をしていたときに、新人が育てにくくなったと言われたことがある。以前は人気作品が掲載されている雑誌が売れれば、新人作家の作品も読んでもらうことができた。けれど今は、単行本やネットで読みたい作品だけをピンポイントで読むことが増え、新人作家の認知度を上げにくいのだそうだ。たしかに、新聞も女性誌(一般誌)も、なんとなくぺらぺらとめくっていると、多岐にわたる情報が入ってくる。しかし、プル型で自分の欲しい情報だけを引き出すネットではそうはいかないのである。

5月にNHK放送文化研究所が発表した国民生活時間調査では、平日に15分以上テレビを見た人は、20代で51%、16〜19歳では47%であり、それぞれ5年前の前回に比べ20%前後ほど下がったという。私のまわりの大学生〜20代も、テレビを持っていないという人が多くなってきた。テレビで流せば情報が伝わるという考え方も、もう通用しないだろう。

オリンピックの専用レーンの話にもどろう。警視庁も周知期間が短かったと認め、よほど悪質でなければ取り締まりは行わないと言っているという。けれど、これは周知期間だけではなく、「周知方法」にも問題があると思う。これまで行っていた周知方法ではもう役に立たない。ライフスタイルは変わっているのだ。

安全運転支援技術が、これからどんどん搭載されていくけれど、「みんな知っているはず」と判断するのは危険すぎる。みんなって誰? 常識ってなに? 常識は多数決だ。似たもの同士で集まって作った常識は、広い世界の常識からははずれているのである。

それにしても、カレンダーがこんなに変わっていたなんて(くどい)。このままテレワークが続いたら、どんどん洞窟生活になりそうで怖いなあ。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。最新刊は「世界でいちばん優しいロボット」(講談社)。