藤島知子氏《画像提供 ブリヂストン》

コンパクトカーでさえ、軽く1トンを超える車両重量。その荷重を4つのタイヤそれぞれがわずかハガキ一枚分の面積で支えていることを思えば、タイヤの性能が走行時の安心感をいかに左右するものなのか想像できるだろう。

なかでも、タイヤが最も滑りやすいのは冬の路面。路面温度が低いだけでなく、積もった雪が気温の上昇でとける、夜間に凍ってしまったりと、多彩な環境への対応力が求められる。気候変動は昔とは異なる状況を招いていることを肌で感じる時代になったが、そうした現代のニーズを汲み取りながら、タイヤメーカーはユーザーがより安心して走れるタイヤづくりを目指して、弛まぬ努力を続けているのだ。

◆目指したのは断トツの「氷上性能」とあらゆる路面で走りを支える「総合性能」



ブリヂストンのスタッドレスタイヤは、1988年にBLIZZAKが誕生して2017年にVRX2の誕生に至るまで、10代にわたって商品を改良し続けてきた。最近では、シビアな路面で性能が試される北海道・北東北主要五都市を走るクルマにおいて、BLIZZAKの装着率が4割を超え、20年連続No.1のスタッドレスタイヤの称号を手にしたそうだ。スタッドレスタイヤの買い換えを検討しているユーザーにとっては、新しく登場した『BLIZZZAK VRX3』がどんな進化を遂げているのか気になることだろう。

ブリヂストンの調査によれば、近年は暖冬によって降雪量が減少し、降雪がほとんどない地域でも凍結路面でスタッドレスタイヤが必要とされるケースもあるそうだ。氷上での効きが求められる中、スタッドレスタイヤの使用期間が長期化していることを踏まえれば、ライフ性能だって譲れない。新技術を駆使することで、背反する性能の向上を実現し、新商品の『BLIZZAK VRX3』が生まれた。

VRX3が目指したのは、断トツの「氷上性能」とあらゆる路面で走りを支える「総合性能」だという。進化した発泡ゴムと新技術が「ライフ」や「効き、持ち」といった性能を引き上げ、中でも氷上性能に至っては、従来品の『VRX2』を20%も上回った。担当者は「新次元のプレミアムブリザック」になったと表現していた。



氷上走行における安全・安心を追求するためには、氷とタイヤの間に存在する水の膜をいかに攻略するかが課題となる。まずは、その水膜を除水するために、ブリヂストン独自の発泡ゴムの技術を更に進化させた。毛細管現象で水を吸い上げるゴムの発泡箇所の断面形状は、従来の球状と筒状が入り交じったものから楕円形に変更。吸水力を高めたことで除水効果も高まり、タイヤと路面の接地性が向上。結果的に氷上のグリップ力が高まっているという。さらに、新しく採用したトレッドパターンは、ブロックの一部に突起を設けることで、水をタイヤの外に排出する主溝に優先的に流すようにしてコントロール。除水効果を維持しながら、接地面内に水が侵入することを抑えた。

また、「効き」と「持ち」を向上させるポイントは、ゴムの柔らかさを維持することが重要だという。新品時から如何に柔らかい状態を持続させるかが勝負となるが、VRX3はゴム部分にオイルよりも分子量の高い新素材を配合することで、時間が経っても硬化しにくく、やわらかさを維持することで経年劣化を抑え、氷雪路面での効きが長持ちするという。



トレッド面のデザインを見ると、VRX2と比較してブロックが小さくなっている印象だ。クルマは低ミュー路のブレーキでロックしそうになったとき、ABSなどが介入してグリップを回復させようと制御を行う。そうした環境下では、クルマ側の制御とタイヤが発揮すべき性能を考慮しながら、タイヤの開発が行われているようだ。ブリジストンの担当者によれば、最近のクルマは、VRX2が出た頃と比べると、多様なABSが登場しており、制御がより緻密になってきていることもタイヤ開発に影響を与えていると語っていた。ちなみに、今回VRX3に新しく採用されたトレッドパターンは、氷をひっかくエッジ効果や排水性を最適化しているそうだ。摩耗を抑えるためにサイプの角度を見直し、トレッドパターンの剛性を高めたほか、ブロック形状を均等化したことなどによって、接地圧を均一化した。タイヤと路面のすべりを抑制することで、摩耗ライフも向上しているという。

◆出足からブレずに安定した姿勢で、路面を掴んで舵が効く印象



今回の試走会では、『BLIZZACK VRX3』の氷上性能を試すべく、このタイヤを装着したプリウスで、スケートリンクを走らせてもらうことになった。試走はVRX2と新商品のVRX3を履いたクルマを特設コースで乗り比べるもの。発進加速、円旋回、停止状態からの加速、ブレーキ性能を試す。低速でグリップの限界を迎える氷の路面とあって、速度は最大で15km/h程で走る。FFのプリウスに装着されているタイヤのサイズは195/65R15。

先ずはVRX2を履いたクルマで路面の感触を確かめてみる。スケートリンクはクルマの重さやタイヤ表面の摩擦によって、わずかに水の膜が生じているようだが、円旋回でハンドルを切りながらアクセルペダルを踏み込んでいくと、グリップの限界を迎えた時にフロントタイヤが外側に逃げていく様子が伝わってくる。ブレーキ箇所では、ペダルをグッと踏み込むと、タイヤが路面を掴む感触が得られるまでに少しラグが生じていて、一旦滑ってからグリップし始める印象だ。それもそのはず、スケートリンクの上は、いつも履いている靴ではまともに歩くことさえ難しいスリッピーな路面。改めてスタッドレスタイヤの凄さを感じるばかりだ。



次に、新商品のVRX3を履いたクルマで走り出してみる。すると、出足からブレずに安定した姿勢でクルマが前に出て行く様子が伝わってくる。旋回に移る場面では、ハンドルを切り込み始めるところから、タイヤが路面を掴んで舵が効く印象だ。確かな手応えが得られると同時に、クルマの鼻先はドライバーが目指す方に向かって、素直に向きを変えていってくれる。旋回中に滑り出したときは、アクセルペダルを踏み込む力を緩めて少し待つと、徐々にグリップが回復し、そのうちハンドルを切っている方向にグググッと向きを変えていく。最初に試走したVRX2と違うと感じるのは、鼻先から積極的にカーブを周り込むようにして姿勢を変えていくところ。もちろん、アクセルを深く踏み込めばグリップの限界を迎えるワケだが、同じ舵角をあてていても、VRX3は鼻先が向きを変えた後にリヤタイヤが限界を迎えて外に流れる体勢になった。

今回はスケートリンクの特設コースで、一般道とはかけ離れたシチュエーションといえたが、例えば、これが札幌あたりの街中の交差点を走るとしたらどうだろう。除雪された雪が路肩に積み上げられた状況で、隣の車線を走るクルマと並ぶと、自分のクルマが走れる道幅は狭い。凍結しやすい路面での赤信号のブレーキングとなればプレッシャーは大きいだろう。青信号の発進など、安定した姿勢で加減できるだけでも、不用意にクルマが揺すられてぶつけてしまう不安も減ることから、安心感は高まるだろう。また、カーブの途中で唐突に凍結路面に出くわすリスクを考えると、少しでも舵が利く状況であるほうが、自分が逃げたい方向に進み、衝突リスクを低減できる可能性も高まるはずだ。



氷上性能を試した今回の試走会。実際の冬の路面は舗装路に雪上、凍結路、シャーベット路面にブラックアイスバーンなど、バリーエションはさまざまだ。VRX3は氷上性能を高めただけでなく、経年による性能劣化を抑え、効きや持ちを持続させるなど、実際に履いた後の満足度を高める性能向上を図っている点も嬉しい進化といえるだろう。氷上以外を走る場面でどんな総合力を発揮するかは、試してみないと分からないところもあるが、氷上性能が向上したことで、さらに安心感を高めてくれたことは紛れもない事実だった。

藤島知子|モータージャーナリスト
幼い頃からのクルマ好きが高じて、2002年からワンメイクレースに参戦。市販車からフォーミュラカーに至るまで、ジャンルを問わず、さまざまなレースに参戦。2007年にはマツダロードスターレースで女性初のクラス優勝を獲得。現在はクルマの楽しさを少しでも多くの人に伝えようと、自動車専門誌、一般誌、TV、ウェブ媒体を通じて活動中。走り好きの目線と女性の目線という両方向からカーライフ全般をサポートしている。

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