ダチアのデザインディレクターに就任したマイルズ・ニュルンベルガー《photo by Aston Martin》

ルノーグループは6月25日、傘下のダチアのデザインディレクターにマイルズ・ニュルンベルガーが9月1日付けで就任すると発表した。

前任者のアレハンドロ・メセネロ-ロマノスが4月に退職。その空席を埋めることになったニュルンベルガーは、これまでアストンマーティンでデザインディレクターを務めていたデザイナーだ。

一方のメセネロ-ロマノスは7月1日付けでアルファロメオのヘッド・オブ・デザインに就任する。22日にステランティスが明らかにした。

◆高級スポーツブランドから廉価ブランドへ

ニュルンベルガーは英国コベントリー大学でカーデザインを学び、フォード(リンカーン)やシトロエンを経て、2008年にアストンマーティンに入社。ちなみに同社でデザインとブランディングを統括するチーフクリエイティブオフィサーのマレック・ライヒマンもフォード出身で、ニュルンベルガーにとってはリンカーン時代の上司だ。

デザインマネージャーとしてアストンマーティンで働き始めたニュルンベルガーは、2011年にはエクステリア・チーフデザイナー、2016年にはクリエイティヴディレクター、そして2018年にデザイン全般を指揮するディレクターへと、着実にステップアップ。例えば同社初のSUVとなった『DBX』では、先行開発段階からエクステリアを手掛け、量産に向けては内外装のデザインをまとめた。

そうやってアストンマーティンで実績を残していたニュルンベルガーが、新たな活躍の場にダチアを選んだ。ダチアはルノーグループが東欧を中心に展開する廉価ブランド。高級スポーツブランドから廉価ブランドへの転職は意外に思えるが、それについてはローレンス・ヴァン・デン・アッカーのコメントが参考になる。


ヴァン・デン・アッカーはルノーグループのデザイン統括。ニュルンベルガーの移籍に際して、「ダチア・ブランドにとってエキサイティングな時機に、マイルズを我々のチームに迎えるのは嬉しい。デザインを通して強いブランドを作るという彼の経験と熱意は、ダチアにとって大きな財産になるだろう」とのコメントを発表した。

「デザインを通して強いブランドを作る」のは、対象製品の価格に関係なく、デザイナーにとって大きな醍醐味。それをより追求できるチャンスがあると思えば、高級ブランドから廉価ブランドに移籍する決断もありえるのだろう。

ちなみに昨年7月にルノーグループのCEOに就任したルカ・デ・メオは、傘下にあるロシアのラーダと東欧中心のダチアをひとつの事業体に統合し、両ブランドの協業を推進してきた。ヴァン・デン・アッカーが「ダチア・ブランドにとってエキサイティングな時機」と語るのは、そういう意味だ。ニュルンベルガーにとっては、いかにラーダと共創できるかも問われることになる。

◆アルファロメオの再起を担う


アルファロメオのデザインを率いることになったメセネロ-ロマノスはスペイン出身。バルセロナの大学で工業デザインを学び、さらにロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでカーデザインの修士号を得て、地元のセアトに入社。その後、VWを経てルノーに移り、傘下の韓国サムスンのデザインディレクターを経験して、2011年からセアトに戻ってデザインディレクターを務めた。サブブランドの「クプラ」の立ち上げに、大きく貢献したとされる。

そんなメセネロ-ロマノスに、ルノーのルカ・デ・メオが白羽の矢を立てた。デ・メオの前職はセアトの社長で、メセネロ-ロマノスは部下だった。メセネロ-ロマノスは2020年10月にダチアのデザインディレクターに就任。しかし在任わずか9月でアルファロメオに移籍することになった。

PSAとFCAが合併して生まれたステランティスの会長はフィアット創業家の血筋を引くジョン・エルカーン。販売が低迷するアルファロメオの再興は、ステランティスにとって大きな課題だ。

ステランティスはメセネロ-ロマノスの移籍を歓迎する声明のなかで、「彼はセアト/クプラにルネッサンスをもたらした。今後はアルファロメオで電動化やモダナイズのプロセスを率い、110年を超える伝説的な歴史を持つこのアイコニックなブランドをリフレッシュすることに集中する」とコメントした。


イタリアにはもうひとつ、ランチアという低迷ブランドがある。フィアットとクライスラーがFCAに経営統合されて以降、クライスラー車を欧州でランチア・ブランドで売る作戦をとったが、これが大失敗。現時点ではイタリアで販売する小型車の『イプシロン』だけが、ランチア・ブランドを守っている。

そんなランチアも、ステランティスは再興する方針だ。旧PSAのDS、旧FCAのアルファロメオとランチアをステランティスの「プレミアムグループ」とし、共通のプラットホームやコンポーネンツで合理化しつつ、デザインでブランドの個性を表現していくという。

ハードウエアが共通化されるほど、そこで違いをもたらすデザインの重要性が増す。メセネロ-ロマノスが今後のアルファロメオのデザインに、どんな手腕を発揮するか? 成果が出るのは3〜4年後だろうが、期待したいところだ。

ダチア ダスター 2021年モデル《photo by DACIA》 アストンマーティン DBX《photo by Aston Martin》 アルファロメオのヘッド・オブ・デザインに就任するアレハンドロ・メセネロ-ロマノス《photo by Alfa Romeo》 ランチア イプシロン《photo by LANCIA》 セアト・クプラ・アテカ《photo by SEAT》