VW ゴルフ 新型(eTSI アクティブ)《写真撮影 南陽一浩》

◆進歩は求められるが突飛や凡庸であってはならない

初代の登場から45年以上の長きにわたって総計3500万台以上、フォルクスワーゲン『ゴルフ』は欧州市場のベストセラーであり続けてきた。歴代ゴルフは欧州車的な世界観における不動のセンターというかゼロ座標として、フルモデルチェンジの度、その方向性や出来映えが喧々諤々される。先進的なコンセプトや技術の普及を量販モデルとして担うだけに、時代を移す鏡のような車なのだ。

大定番が印籠のように好まれる日本では、ユーザーのみならず競合する国産車メーカーにまで、ゴルフは欧州車の絶対的指標、宇宙の中心のように扱われてきた。逆に付和雷同を嫌う海外ではユーザーも自動車メディアも、強大なベストセラーという安定銘柄だからこそ、こき下ろしてなんぼ、そんなニュアンスがなくもない。

「フォルクスワーゲン(民衆の車)」の名の下に進化し続けるゴルフは、欧州Cセグメントというハッチバックとしては大きなサイズ感だが、Bセグのハッチバック以上に荷室や後席の重要性が高く万能性が求められ、かといってDセグメントのセダンよりコンパクトかつ手頃で、BMW『3シリーズ』やメルセデス『Cクラス』のようなプレミアムではない。要は、質実剛健なドイツ的標準の代名詞であり、進歩は求められるが突飛や凡庸であってはならない、そこがゴルフなのだ。


個人的には、ゴルフの大定番の地位が揺らぎ始めたというかVWが自ら捨てて勝負に出たのは、『ゴルフプラス』や『クロスゴルフ』のような派生ボディをも揃え、同じプラットフォームから『トゥーラン』や『イオス』等々、バラエティ展開したゴルフ5の世代だったと思う。ハッチバックという車型だけではあらゆる需要に応じられないことを前提とした、初の世代だ。

前置きが長くなったが、今や「ゴルフ8」はもっと多様化した需要に立ち向かわねばならない。SUVが主役になりつつ、電動化が叫ばれる地合いの中で、低炭素化もある。平たくいえばVWのラインナップ内でも『ID.3』という100%のEVによる別シリーズが立ち上がる今、ゴルフ8はその立ち位置をどう正当化して堅持していくか? そこが乗る前から気になっていた。

◆外観はなるほど、ゴルフであることを静かに主張する


実車と対面して、クリーンでいかにもエフィシェンシーの高そうな外観はなるほど、ゴルフであることを静かに主張する。全長4295×全幅1790×全高1475mmというサイズは、30mm長く、10mm狭く、5mm低く、ホイールベースの2620mmは先代より15mm短い。空力特性ではCd値がゴルフ7の0.30から0.275にまで改善されたとか。

細長いラジエーターグリルからドアハンドル、さらにリアエンドまでを結ぶスライスラインも印象的だ。このスライスラインは、弓型に力強く反ったCピラーからリアフェンダーにかけ、段差となってショルダーを作り出している。これとは別にフロントフェンダーからサイドウィンドウ下に続く、控えめなエッジラインという「前後二重の複合的ショルダーライン」が、ゴルフ8の独特な意匠といえる。

今回試乗した仕様は、「eTSI スタイル」と「eTSI アクティブ」で、先代までのハイラインとコンフォートライン相当、前者は1.5リットルの直4ターボ150psで、後者は1リットルの直3ターボ110psだ。いずれもベルトスタータージェネレーター(BSG)によって48V MHEV化されたパワーユニットで、7速DSGが組み合わされる。


今回は縁がなかったが他にも、基本装備はスタイルと同等で5万円高のスポーティトリム、「R-ライン」は健在だ。2台の試乗車はオプションで、インフォテイメントシステムに加え、LEDマトリクスライトやパーキングアシスト機能のパッケージのみ、装着していた。

BSGモーターの最大出力9.4kW(13ps)、最大トルク62Nmは共通ながら、1.5リットルと1リットルそれぞれのゴルフ8は、シャシーにも大きな違いがある。フロントのマクファーソン・ストラット式サスは1.5リットルはアルミ、1リットルはスチールのサブフレームにマウントされる。リアサスは双方とも非コイルオーバーで、ボディ付けのトレーリングアーム含む4リンク式の1.5リットルに対し、1リットルはシンプルなトーションビーム式だ。

◆デジタルコクピットの操作系の新基軸


車内に乗り込むと、ゴルフ8のインターフェイスは新しいデジタルアーキテクチャの導入により、物理的ボタンやダイヤル類が圧倒的に少ない。メーターパネル内の10.25インチ画面、それと同じ高さでダッシュボード中央に10インチのタッチスクリーンが鎮座する。走行情報とインフォテイメント内の情報が、水平に視覚的に結び合わされたデジタルコクピットなのだ。ちなみにメーターパネル右脇の、ライトスイッチまでタッチ式だ。

操作系の新基軸はさらにタッチスクリーンの手前下、ダッシュボードの段差に載る格好で、音量ボリュームやエアコン操作を司るスライダースイッチが設けられている。スライダースイッチは長押しやタップの仕方で、ルームランプや地図のスクロールまで兼ねるとか。全体的に「指先チョイチョイ感」の増したインターフェイスで、1時間の試乗枠では親しむのに程遠かったものの、デジタルネイティブかそれに近い世代のオーナーが日常的に接する分には問題なくなる…のだろう。

さらにその下、エアコンの吹き出し口中央には、エアコンや車両設定、車両センサーやパークアシストなど、頻度の高い機能へのショートカットキーが配される。バイワイヤ式となったシフトは、小さなレバーを短く前後にストロークさせ、RND/Sを切り替える。Pポジションはボタン式で、押し込むとエンジンがアイドルストップ状態に入るため、再スタートする際につい、その先のイグニッションボタンに手が伸びてしまう。



◆「トラベルアシスト」の穏やかでこなれた制御ぶり

ともあれ、ゴルフ8の走りでまず感心させられたのは、「トラベルアシスト」の穏やかでこなれた制御ぶりだ。ACCとレーンキープアシストを組み合わせた機能だが、高速巡航中の車線内ポジションキープは安定しており、遅い前走車に引っかかっても減速マナーは優しく、前につんのめらない。メーター内には前走車のみならず左右を含む3車線、隣の並走車から斜め前方辺りも映し出される。クルマ側のシステムがモニターできている範囲を、ドライバーが視覚的に確認できるという、心理的な安心感だ。

加えてステアリングも、操舵トルク感知式から静電気センサーに改められたため、手というか指を添え続ける負担も軽い。「右足フットレスト」まで備わった足元といい、アウトバーンでも今や求められる走りの質が、速さや快適さより、ADASを目いっぱい効かせた安楽さへ移り変わったことを、意識させられる。

◆1リットルパワートレインの加速のスムーズさ


ふたつ目のグッドサプライズは軽快さ、とくに1リットルパワートレインの加速のスムーズさだ。48Vのアシストが要所要所で効いて、ゼロ発進から高速道路での追い越しまで、1310kgの車重を力強く引っ張り上げる。Dレンジのまま踏み込むとエンジンが吹け上がるより早く、キックダウンして「回転ジャンプ」が起きてしまうのはご愛嬌。3気筒と思えないトルク感とスムーズさが、おそらく電気的に常用域でスタンバイしている心強さはあるし、フットブレーキと回生減速Gの協調も自然だ。

ハンドリング自体は、16インチ履きの1リットルの方が、足がよく動いて軽快な印象。17インチの1.5リットルの方が低速域で固く、ゴルフらしいスタビリティの高さというか余裕で優るが、新しい車内インターフェイスにも似合うのは1リットルのアクティブの方だと思う。


だが1リットルのアクティブの欠点は、法人の営業車のようなシートと、シートファブリックの質感の乏しさにある。一部プレミアムを除けば、元より「固モノ」は得意でも「柔モノ」が巧くないのがドイツ車らしさだが、「スタイル」でもセンターコンソールが固いプラスチックである点は、厳しいコストダウンと映る。

もうひとつ気になるのは、ステアリングレシオが従来よりクイックに改められたとはいえ、中立付近で軽過ぎる操舵フィールだ。1.5リットルのR-ラインのみ、速度感応式でロック・トゥ・ロック2回転とのことだが、今回は試乗できなかった。

◆イージーで快適に移動できることを躊躇せず肯定してきた


総じてゴルフ8は、コンパクトな割に重厚な動的質感、簡にして潔いがチープでないことを旨としていた従来世代より、イージーで快適に移動できることを躊躇せず肯定してきた。昔のような、クラスレスな重厚さでドイツ車好きを結果的に生み出してきた入門車というより、内燃機関のクルマにユーザーを繋ぎ止めるエントリーモデル、といった側面すら窺える。今日の若いユーザーに訴求する以上、それは正常進化なのだろう。

が、eTSI スタイルで370万5000円、eTSI アクティブで312万5000円、もっとも安価なeTSI アクティブベーシックで291万6000円という車両価格は、けっこう手強い。いちばん下のモデルでもADASの基本機能を省かないがゆえの価格設定であり、それが今日のCセグ・ハッチバックに求められる価値観である以上、致し方のないところ。

よって、現実にはヤング・アット・ハートな年相応のドライバーのファーストカーであり続ける辺りが、ゴルフらしいといえばらしいところだが。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★



南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

VW ゴルフ 新型(eTSI アクティブ)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI アクティブ)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI アクティブ)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI アクティブ)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI アクティブ)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI アクティブ)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI アクティブ)《写真提供 フォルクスワーゲングループジャパン》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真撮影 南陽一浩》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真提供 フォルクスワーゲングループジャパン》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真提供 フォルクスワーゲングループジャパン》 VW ゴルフ 新型(eTSI スタイル)《写真提供 フォルクスワーゲングループジャパン》 VW ゴルフ 5世代目《photo by Volkswagen》