
◆誕生から50年の節目を迎えるホンダ シビック
1960年代にホンダは、オートバイづくりで培ってきた高度なエンジン技術をベースに4輪の世界へと進出する。そして直列4気筒DOHCエンジンを積む『Sシリーズ』やFF(前輪駆動)2BOXの軽自動車、『N360』など、個性的なクルマを生み出した。だが、今につながるホンダの礎を築いたのは、世界戦略車として開発され、1972年(昭和47年)6月に鈴鹿製作所で産声をあげた『シビック』である。“CIVIC”のネーミングから分かるように、市民のための新世代ベーシックカーだ。
発売されるやシビックは販売を伸ばし、76年7月に早くも生産累計100万台を達成。82年には生産累計300万台を突破した。そして86年7月にはホンダオブアメリカMfg.でも生産を開始する。誕生から10年ちょっとで生産累計500万台の偉業を達成したシビックは、『アコード』とともにホンダの屋台骨を支える基幹モデルに成長した。この勢いは21世紀になっても変わらない。世界中の人たちに愛され、2017年夏には10代目のシビックを発売している。
間もなく誕生から50年の節目を迎えるが、それに先立ってツインリンクもてぎ内にあるホンダ・コレクションホールでは企画展「CIVIC WORLD 受け継がれるHondaのDNA」が開催(2021年5月31日まで)されている。展示された歴代シビックたちとともに、その魅力と偉業について紹介したい。
◆世界が注目した初代シビック〜2代目「スーパーシビック」
シビックが誕生したのは、1972年6月だ。合理的な設計思想を掲げたファミリーカーで、時代に先駆けて前輪駆動のFF方式を採用した。このメカニズムの上に2BOXレイアウトを組み合わせ、広いキャビンスペースを実現したのである。発売は7月12日だ。まず独立したトランクを備えた2ドアが発売され、9月にリアにハッチゲートを備えた3ドアモデルを投入した。リアワイパーを日本で最初に採用したのがシビックだ。ちなみにコンセプトが似ているVW『ゴルフ』よりデビューは2年も早かった。
パワーユニットは軽量コンパクト設計の1.2リットル水冷直列4気筒SOHCを搭載する。最初は4速MTだけの設定だったが、73年春にスターレンジ付き2段AT(ホンダマチック)を追加し、ファン層を広げた。そして12月にホイールベースを延ばした4ドアの1500シリーズを設定している。
このとき仲間に加えたのが、世界で初めてマスキー法をパスしたクリーンな副燃焼室付きCVCCエンジンだ。シビックCVCCは世界中から注目を集め、内外の自動車メーカーから技術供与の話が舞い込んできた。74年秋にはCVツインキャブを装着した高性能モデル、「1200RS」を投入する。77年秋には待望の5ドアハッチバックも送り出した。
79年7月、シビックは初めてモデルチェンジを行い、2代目の「スーパーシビック」が登場する。デザインはキープコンセプトで、ボディタイプも3ドアと5ドアのハッチバックを受け継いだ。エンジンは1.3リットルと1.5リットルの改良型CVCCだが、1年後にドライバビリティを向上させたCVCC IIへと進化した。また、80年1月には初のワゴン、「シビックカントリー」を、9月にはトランクを備えた44ドアセダンを加えている。この年、アメリカでインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、大陸横断燃費テストでも輸入車部門の1位に輝いた。
◆M・M思想から生まれた3代目「ワンダーシビック」〜4代目「グランドシビック」
83年9月、3代目が「ワンダーシビック」のニックネームで登場する。マンマキシマム/メカミニマムのM・M思想から生まれた3ドアハッチバックは全高を低く抑え、ロングルーフを採用したスポーティなルックスが注目を集めた。また、4ドアセダンに加え、5ドアのマルチパーパスワゴン、「シビックシャトル」も誕生する。新設計の1.3リットルと1.5リットルエンジンは進歩的なSOHC 3バルブ方式だ。84年秋には1.6リットルのDOHC 4バルブエンジンを搭載するホットハッチの「Si」を投入した。
解説をしてくれたデザインセンターパッケージデザイン担当の樋口彰男氏は「初代から視界のいいラップラウンドのインパネを採用しましたが、3代目も視認系と操作系を分けて使いやすくしたトレイ型のインパネとしています。そしてインパネとドアライニングをつなげて動感視界もよくしました。また、リアにロングスライド機構を採用し、リクライニングもできるようにしています。これはクラス初の採用です」と、述べている。
これに続くのが87年秋に発表された第4世代の「グランドシビック」だ。エンジンはワンカム4バルブ・センタープラグ方式のハイパー16バルブエンジンである。スポーツグレードのSiも用意されたが、89年秋以降の主役は可変バルブタイミング・リフト機構のDOHC・VTECを積む「SiR」になった。もうひとつ、4代目シビックで注目したいのは、ビスカスカップリングを採用したリアルタイム4WDを設定したことだ。
◆5代目「スポーツシビック」はサンバをイメージし若者向けに
91年9月、5代目の「スポーツシビック」にバトンを託している。若者をターゲットにする3ドアモデルは「ワンルーム&ツインゲート」をテーマに開発され、リアを上下開きのツインゲートとした。4ドアセダンには「フェリオ」のサブネームが与えられている。ファミリー系はSOHC 4バルブ、SiRはDOHC 4バルブだ。ほとんどが電子制御燃料噴射装置のPGM−FIを装着し、VTEC機構も採用する。また、希薄燃焼を行い、吸気バルブを休止させて燃費の悪化を防ぐVTEC-Eも登場した。
エクステリアを手がけたデザインセンター エクステリア担当の大蔵智之氏は「サンバをイメージしたダンシングシルエットにこだわり、躍動感あふれるサンバボディを描きました。空力性能にもこだわり、段差のないサッシュドアやフラットなドアハンドルを採用しました。でも、開けづらいというユーザーも少なくなかったですね。ワンルームというコンセプトなので、リアゲートは上下に開くツインゲートとしました。空力でリアの端末を絞ったので、後方視界を確保するためもあり、このゲートにしたのです」と、開発の狙いと苦労を語っている。
スポーティな走りに加え、環境に配慮した姿勢が評価され、5代目は日本カー・オブ・ザ・イヤーの大賞に輝いた。そして95年5月には世界での生産累計1000万台の偉業を達成している。
◆6代目で初の「タイプR」投入〜日本市場復活の10代目
95年に6代目の「ミラクルシビック」がキープデザインで登場した。が、キャビンは広くて快適だったし、3ステージVTECも気持ちいいパワーフィーリングだ。また、ホンダ初の電子制御CVTマルチマチックの登場と硬派の「タイプR」の投入も話題を集めた。この6代目も日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。
大きくコンセプトを変えるのは、2000年にモデルチェンジして登場した7代目の「スマートシビック」のときだ。パッケージングの革新を行い、センタータンクレイアウトを採用することにより広くて快適なキャビンを手に入れている。ファミリー向けに加え、タイプRも送り込んだ。そして2005年に8代目が登場した。伝統のハッチバックは消滅し、セダンのハイブリッド車とスポーティなタイプRを主役とした。だが、ファミリー層をクロスオーバーSUVとミニバンに持って行かれ、存在感が薄くなっている。
そこで9代目は日本での販売を見送った。その後、タイプRをスポット的に投入したが、2017年夏に久しぶりにシビックを日本市場に復活させている。10代目シビックは4ドアセダンとスポーティな5ドアハッチバックがあり、5ドアのフラッグシップとしてタイプRを設定した。
ホンダの技術レベルを大きく引き上げ、世界戦略車として世界中の人たちに愛されているのがシビックだ。歴代モデルはいずれも個性派ぞろいで、どの作品にもホンダのチャレンジスピリットが宿っている。
片岡英明|モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。






































