BMW 318i《写真撮影 中村孝仁》

◆やはり一番BMWらしいクルマといえば

大掛かりな試乗会があったこともあって、このところBMWのクルマに乗るチャンスが多い。そんな中で出色の出来を感じたのが、今回試乗した『318i』であった。

考えてみれば、BMWにしてもアウディにしても(メルセデスはちょっと違うが)、日本市場における橋頭堡を築いたのは、4ドアセダンである。BMWの場合は言うまでもなく『3シリーズ』。そしてアウディは現在の『A4』の前身にあたるアウディ『80』であろう。

まあ違う見解もあって、BMWは『02』シリーズだろう…という人もいるかもしれないが、やはり日本で輸入車が本格的に市民権を得たのは90年代半ばになって一気に年間30万台ほど売れた時期だと思うので、間違ってはいないと思う。

そんな中で3シリーズは常にBMWのベストセラーの座にあり続けた。最近でこそSUVにその座を追われてしまったかもしれないが、やはり一番BMWらしいクルマはこのコンパクトな4ドアセダンのような気がする。

◆「320i」のデチューンでも驚きのトルク


この318iというグレードは、3シリーズの中にあっては常にいわゆるベースグレードとして存在した。先代のF30の時代は3気筒エンジンを搭載したモデルだったのだが、新しいG20となって今年復活した318iには、4気筒エンジンが搭載された。

従来から『320i』に搭載されているB48のコードネームを持つ2リットルツインスクロールターボユニットのデチューン版で、156ps、250Nmの最高出力と最大トルクを持つのだが、問題はその最大トルク。驚くことに最大トルクを発生する領域が1350〜4000rpmと極めて広範なレンジで発生する。

言っておくが、ディーゼルではない。ガソリンエンジンだ。この極低回転から最大トルクを発揮するのはディーゼルならまあ当たり前なのだが、ガソリンエンジンとなるとちょっと考えにくい。ところが最近のBMWのエンジンは皆この極低回転から最大トルクを発揮するようにチューニングされている。

気になって調べてみたら最近のドイツ車は皆この領域から最大トルクを発揮することがわかった。そこで日本車についても調べてみたのだが、日本車はほとんどがハイブリッド化されていて、ガソリンのみというケースは稀。それでもあえてそこを突っ込んでみると、2000rpm以下で最大トルクを発揮しているのは最新エンジンになったスバルの1.8リットルユニットのみ。

因みに調べたのは1.5リットルから2リットル級についてのみ。漏れはあるかもしれないが、大方は3000rpm以上4000rpm付近で最大トルクを発揮する。これ、はっきり言って日本のメーカーがガソリンエンジンをおざなりにしている典型的事例のような気がして少々怖くなった。もはや内燃機関はどうせ売らなくなるのだから、開発の必要なし…とでもいうのか。

◆クラスで群を抜く感動的なステアフィール


で、そんな極低回転から最大トルクを発揮してくれるこのクルマの走りはというと、これが素晴らしいの一言。まず、言うまでもなくエンジンは極めてスムーズで一般道で信号からの加速などでも精々回って3000rpm。それ以上回す必要性は皆無で、一旦定常走行に入るとほとんど1000〜1500rpm付近で静々と回る。それでも豊かなトルクのおかげで、不意にアクセルを踏み込んでみても間髪を入れずに加速に移るしその加速感も十分に俊足といえる。

骨格のガッシリ感も文句なし。常にどっしりと構え、余計な入力もほとんどない。ただ、流石に揺れは最小限に抑えるものの、ハーシュネスの入力は音とともにほんの僅か大きめに入力される。といって、厳密な話をするとそういうことになるわけで、他が良いから少しの入力が気になるというレベルの話だ。エンジンが常に低回転で回るから、静粛性も極めて高い。


感動的だったのがステアフィール。その繊細さはこのクラスでは群を抜いている印象である。実際、意地悪く微小舵角を当ててその動きを観察すると、そのレスポンスの良さには恐れ入るほどで、かといって急激な舵角を当てても十分にシャープではあるものの、かといってステアリングのゲインは大きくなく、まさにドライバーの入力に一致している印象だった。

素の価格は489万円(税込)。試乗車は132.3万円のオプションが載っているから結局は621.3万円になっているが、実際のところ上乗せの7つのオプションパッケージはどれもなくてもイイかなというレベルだから、素の値段でも318iの良さは十分に味わえる。今回はハンズオフ機能も試してみたが、高速での渋滞時にはマストアイテムに感じられた。つい先ごろひとクラス下の『218d』に惚れ込んだが、今度は318iに惚れこんでしまった。ヤバいぞ、これ!



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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