新しいメルセデスベンツ『Eクラス』にはセダンの他にステーションワゴンとクーペ、それにカブリオレという4つのボディバリエーションが存在する。
このうち実用性の高いセダンとワゴンに設定されているのは1.5リットルの直4ターボエンジン。それこそ目を剥いて「何?1.5リットル?」と前のめりになりたくなるような小さな排気量である。
そこへ行くとクーペとカブリオレには同じ直4でも少し排気量が多めの2リットルが設定されている。と言ってもこれはあくまでも試乗車の話であって、カタログを見ればセダンにだってワゴンにだって他のチョイスがあることに気付く。少なくともオフィシャルサイトのカタログにはそう書かれている。
というわけで、敢えて実用的なモデルと余暇を愉しみたい、まあどちらかといえば非日常的なモデルで差別化をして試乗車を持ち込んだのだな…と理解して試乗をした。
◆屋根が付いていようがいまいが、剛性感は同等
どちらも「E300」の名前を持つクーペとカブリオレである。うまい具合に1.5リットルのセダンやワゴンに乗った後でこの2リットルのクーペとカブリオレに乗せて頂いた。実はどちらのエンジンも型式は同じ「M264」と呼ばれるもの。排気量以外に違うところといえば、1.5リットルにはBSG、即ちベルトドリブンスタータージェネレーターが装備されて、2リットル版にはそれがないということだ。
それでもパワーの差、トルクの差は歴然で僅か500ccの違いながら、1.5リットルは184ps、280Nmであるのに対し(これでも十分だと思えるのだが)、2リットルは258ps、370Nm。しかも最大トルクの発生域は1.5リットルが3000rpm〜4000rpmという比較的狭いバンドであるのに対し、なんと1800rpm〜4000rpmと実用域をほぼカバーしているから、どちらが乗り易いかは明々白々といったところである。
そしてやはり非日常を演出するためか、車名が300の大台に乗るとエアサスが標準装備となる。だから乗り出してすぐそのあたりの柔らかい路面タッチを体感することが可能なのだ。驚いたことにカブリオレをフルオープンにしてドライブしても、クーペに乗っている時とそう大きくボディ剛性に違いを見つけることが出来ない。恐らくメルセデスはすでに屋根が付いていようがいまいが、同等の剛性感を見つける術を見出したのであろう。
さすがに4気筒のサウンドこそ、さらにマルチなシリンダーが付いたモデルから比べたらプアであることは否めないが、そもそもそうしたサウンド自体がほとんど室内にいて耳に届いてこないのだから、まあどちらでも良いわけで、非常に良くできたACCを100km/hにセットして高速を流してみると、まさに「身を委ねる」というか、それこそもうどこにでも連れてってという気分になる。まあ言うなれば快適の極致だ。
◆大人の感性がふんだんに詰まった上質さ
この試乗からしばらくして、同じドイツのハイエンドブランドのクーペに乗ってみたが、はっきり言ってその性格は全く異質。クルマ任せでどこかに連れていってほしくなるメルセデスに対し、あちらのメーカーのクルマはドライバー自身がしゃしゃり出て好き勝手にコントロールしたくなる要素をふんだんに持ちあわせたモデルであった。まさに好対照である。
勿論こうした性格の違いがあるからこそクルマ選びが面白いのであって、それはどちらが良くてどちらが良くないという話ではない。やはり彼の国のクルマ作りは大人の感性がふんだんに詰まった上質さをもたらしてくれるのだとつくづく思った次第である。
余談だが、本気でドライバーがコントロールして操縦を愉しもうと思ったら、メルセデスでない方が楽しい。しかし、快適にオープンエアを愉しんだり、快適なシートに身をゆだねて景色を楽しみながら目的地にという、使い方なら断然メルセデスである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
【メルセデスベンツ Eクラスクーペ&カブリオレ 新型試乗】大人の感性を味わうためのクルマ…中村孝仁
2020年12月02日(水) 12時00分
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