プジョー 2008 新型《写真撮影 中野英幸》

◆脱ステーションワゴン・コンプレックス

ハッチバックをベースに嵩上げ、つまりキャビンごと上に高くしたようなBセグSUVは、2020年のヒット商品といっていい。VWの『Tクロス』やトヨタ『ヤリスクロス』に続いて、フランスからもBセグSUVが続々と上陸している。

その第1波が、昨年日本に登場したシトロエン『C3エアクロスSUV』と『DS 3クロスバック』、続く第2波が今秋より発売されたプジョー『2008』、そしてやがて上陸予定のルノー『キャプチャー2』だ。今回はプジョー2008の「アリュール」に数日間、長めに試乗することができた。


近年のスモールSUVはハッチバックとプラットフォーム、つまり車台を共有している。2008は、プジョー『208』や同じPSAグループ内のDS 3クロスバックと共通のCMPプラットフォームを採用し、パリ近郊のポワシー工場で組み立てられる。プラットフォーム共通というとボディパネル違いの同じモデルのように思われがちだが、2008はなるほど、ハッチバックの208とは似て非なる造りとなっている。

というのも、CMPプラットフォームは開発段階から、ステアリングポスト位置の高低が2種類、用意された。バルクヘッドを貫通する穴の位置が違っても、衝突時に被る衝撃や変形に差がなく、欧州の型式認証が取りやすいよう設計されたためだ。

2008はハッチバックより全長が25cmほど伸びた分、後席の足元も広がり、荷室容量も405リットルもある。207SWの後継をも兼ねていた初代2008と違って、2世代目のデザインは、脱ステーションワゴン・コンプレックス、そんな力強いSUVルックといえる。

◆走りをスポイルせず高い視界を確保


よって前席に座ると、208とまったく同様の、Bセグ離れした質感の高いダッシュボードが目に入る。針や数値が立体的に浮き出てくる3D表示を採り入れたフル液晶のメーターパネルも、ハッチバックと同じだ。同じダッシュボードと計器類を採用してコスト共有するのは初代208/2008も同じだったが、むしろ専用設計の恩恵は見えないところに表れている。プジョー得意のi-コクピットのステアリングとペダル、そしてシート座面高のバランスが、ハッチバック並にエルゴノミーとして自然なのだ。

それでいて着座位置は、ざっくばらんな感覚で握り拳1.5個分ほど、ハッチバックより高い。じつは本国のスペック表を見ても、座面〜ルーフ間の距離はハッチバックより約2cm長いだけだが、全高は12cmほど高い。その内訳を探すと、+7cmほど大きいタイヤ外径に加え、ほんの数cmほどハッチバックより低い場所にフロントサスのボディ側取り付け位置があるので、だいたい帳尻が合う。


ただ上に持ち上がっただけだと、ヴィークル・ダイナミクス的には不安定なはずだが、2008はトレッドを前1540/後1550mmと、前後1500mmのハッチバックより拡大し、ホイールベースも+7cmの2610mmと、見るからに踏ん張りの増しそうなジオメトリー変更が行われている。重心の上がるプラットフォーム共有とはいえ、細かな造り込みといえる。

ちなみにエンジン搭載位置はハッチバック並に低いまま。ボンネットを開けるとエンジンルーム奥底の方に、小さな3気筒1.2リットルターボのピュアテック130ps仕様が見える。

◆ハッチバックより外向的!? 表現力強めの走りとは


スポーツカーのような包み込まれ感のある前席と、それに見合わぬ高めの着座位置に、多少の不可思議さを覚えつつ、走り始める。1.2リットルターボの控え目だが力強いビートに、スルスルと軽快な加速感は、確かに208と近い。パワートレインを含めた動的質感は、208も相当にスムーズだったが、中低速域での2008はそれを凌駕する。

峠道に入ると、トルク感やパワーの伸びではハッチバックに一歩譲る。だが街乗り時、アクセルペダルの踏み加減というかこね方次第で、前走車と車間距離が調整しやすいことに気づいた。208だとエコモードでコースティングさせないと、減速時にちょっと前のめりの抵抗が出てしまうので、車重やサスの柔らかさが効いている部分ではあるが、日常域での使いやすさに繋がるグッドサプライズだ。足回りは、低速域でもバウンス感が豊かでありながら、上下方向の収束は速い。コーナリング時のロールは抑え目だが、固過ぎると思わされたことはなかった。


ひとつ難を挙げるなら、もうひとつの兄弟モデルで前席サイドウィンドウにアコースティック・ガラスを採用するDS 3クロスバックに対して、とくに高速巡航での静粛性では、1.5歩ほど譲る。でも不快な風切り音はなくタイヤの転がりノイズがやや目立つ程度で、ADAS付きのBセグSUVとしては十分に静かなレベルだ。

さらに細かいことをいえば、ステアリングフィールの細やかさでも、フロントにアルミのサスアームを使うDS 3クロスバックに軍配が上がる。とはいえ、これらは価格帯が上のDS 3クロスバックの、差の見せどころともいえる。ちなみに速度感応型とはいえ、2008のステアリングは低速域でやや軽過ぎる。

2008はそう、総じて穏やかでカジュアルで、ハッチバックほどハジけた運動神経の持ち主ではない。だがドライバーが操るというインターフェイスや乗り味にかけては純度が高く、日常域からかなり饒舌に語りかけてくる。陽気だが思慮深い、そんなレアキャラといえる。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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