静かさに定評のあるアコードの内装。6代目と現行比で遮音性は約2分の1になっているという。《写真撮影 雪岡直樹》

◆ピーポー音と遮音性

救急車が走っているのに、道をゆずらないクルマが増えてきたと問題になっている。私は以前、東京消防庁で密着取材中に消防車両に同乗させていただいたけれど、交差点通過のときは本当に止まってくれなくて冷や冷やしたものである。

欧米のように、もっと大きな音にしたらどうか。

そんな声がある。ただ、東京タワーのそばにある芝消防署(私の取材先)では、周囲の人たちから「うるさい」という声が寄せられており、出動のときだけピーポー音を出さないようにしていた。また、119番通報を受ける指令室には「救急車は、音を消して来てほしい」という要望もある。いやいや、なんのためのピーポー音なのだ。

一刻を争うような事態だから救急車を要請しているはずなのに、これでは走行中の安全性が保ちにくく到着までに時間がかかってしまうではないか。

しかしこのように、すでに音は十分に(うるさいほど)大きい、という意見もあるのである。

◆クルマの遮音性能が確実によくなっている


もちろん、ピーポーやウーといった拡声音の大きさは、車両によって勝手に変えていいわけではなく道路運送車両法で規定されている。

第231条
「サイレンの音の大きさは、その自動車の前方 20m の位置において 90dB 以上 120dB以下であること。」

計測時はもちろん、「音量計は十分に暖気してから」「地上1mに置く」「水平な場所で」など、細かなルールもある。

ずっと以前から決められていて、変わらない音量。では、このところ道を譲らないクルマが増えた理由は、「昔に比べて、救急車の音が聞こえにくくなった」のだとしたら?

たしかに車両はNVH(Noise=騒音、Vibration=振動=ぶるぶるする感じ、Harshness=ハーシュネス=凹凸のある路面を走ったときにガタピシする感じ)を向上させるべく切磋琢磨している。乗用車の遮音性はこの20年で、どのくらい変わったのか。ホンダに聞いてみた。


・『フィット』の場合、2001年の初代と2020年の現行モデルで、約4分の3。
・『アコード』は、1997年の6代目と2020年の現行モデルで、約2分の1。

2分の1!つまり半分!これは大きい。1976年の初代アコードはどうなのか聞いてみたら、「今と計測環境が異なるので簡単に比較できない」ということだった。ついでに、細かな数字も企業秘密である。

ついでに、コンパクトカーとミッドセダンでは、約4分の3、だそうだ。

遮音性能の計測方法は、ドアの近くに設置したスピーカーから音を出した状態で車室内外に設置したマイクで音圧を計測し、その差を用いているとのことである。

確実に遮音性はよくなっている。やはりピーポー音は聞き取りにくくなったのか。しかし、エンジン音やタイヤがアスファルト路面をたたくロードノイズも車内に入らないよう工夫されているので、フィットの約4分の3やアコードの約2分の1という数字がそのまま、ピーポー音の聞き取りづらさに当てはまるわけではない、ということも添えておこう。

◆救急隊員からは「クルマよりも歩行者が止まってくれない」という声も


とはいえ、全体的に乗用車の遮音性は上がっており、聞きとりづらくなっていることは想像できる。ドライバーは緊急車両の音に注意し、接近が確認されたら道を譲るようにしたい、のだが、「自分の後ろから来ているのか、反対車線を来ているのかわからない」という声も多くある。たしかに、私もいつもきょろきょろ探してしまう。カーナビに表示するなどの技術が早く確立して実現するといいと思う。

一方、救急隊員からは「クルマよりも歩行者が止まってくれない」という声も多く聞く。歩行者や自転車はクルマの中と違い、どっち方向から緊急車両が接近するかわかるので、安全な通過に「早めに」協力していただきたいと思う。この「早めに」というのが大事で、交差点付近で人の歩み(動き)が止まっていないと、救急車の運転手(機関員と言います)は、安心して通過できないのだそうだ。

最後にサイレン情報を。同じウー音でも、パトカーと消防車はちょっと違う。パトカーの方が音質が少し高いのである。サイレンメーカーが違うからだそうだ。

パトカーのウー音。消防車のウー音。消防車がPA連携(救急車の到着が遅れる場合、先に現消防車が駆け付ける。Pはポンパー、Aはアンビュランス)のときに発するウー音。救急車が交差点を通過するときなどに、より注意を払ってもらうときのために出すウー音。どれとどれが同じで違うのか、ぜひ、聞き分けてみてください(私は、PA連携のときの消防車が発する高音のサイレン音が好き!)。

そして、緊急車両の通過へのご協力を!

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。

静かさに定評のあるホンダ アコード《写真撮影 雪岡直樹》 ホンダ フィット 新型(NESS)《撮影 中野英幸》 ホンダ フィット 新型(NESS)《写真撮影 中野英幸》 参考画像:トヨタ救急車(奥)とトヨタ救急車ハイメディック(手前)《写真提供 トヨタ自動車》 横断歩道を渡る人たち(イメージ)Photo by Takashi Aoyama/Getty Images News/ゲッティイメージズ