トヨタ ヤリスクロス 開発責任者の末沢泰謙氏《写真撮影 池原照雄》

◆新型ヤリスの開発当初からSUVも並行着手

トヨタ自動車はこのほど、横浜市でSUV『ヤリスクロス』の報道向け公道試乗や担当エンジニアの取材会を開いた。ヤリスシリーズの開発責任者である「トヨタコンパクトカーカンパニー」の末沢泰謙ZPチーフエンジニアに、このクルマに注いだ想いなどを聴いた。

ヤリスクロスは、2020年2月に発売された新型ヤリス(日本での旧名はヴィッツ)のクロスオーバー版として8月31日に市場投入された。内外で人気が高まるSUVではコンパクトな「Bセグメント」に属している。新型ヤリスの開発が始まったのは4年ほど前で、SUV人気も今ほどではなかった。

気になるのはどのタイミングで開発を決めたのかだが、末沢氏は「ヤリスの『GA-B』プラットフォーム開発において、ヤリスクロスも見据えた開発の承認を得た」と明かす。当時、SUVといえばガッチリした大振りタイプが主流で、「Bセグメントは少なく、欧州でのルノーの『キャプチャー』や日産自動車の『ジューク』くらいが、とりわけ女性に人気を得ていた」という。

◆ヤリスらしく運転が楽しくて燃費が良く、かつ最新の安全技術も

早速、現地でユーザーの聴き取りなどを行うと「SUVは大きいサイズのタイヤによってリフトアップされ、力強いが洗練されたデザインにより、街乗りでカフェに行ってもおしゃれ。また、運転席での目線が高くなるので運転しやすい」ということだった。新型ヤリスでは、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)に基づく「GA-B」プラットフォームの開発が始まったが、ヤリスクロスもこれを共用することでプロジェクトがスタートした。

末沢氏が目指したSUVはこうだ。「SUVというと大きいイメージであり、レジャー用途で荷室が大きく、砂利道や林道などでも乗ることができる。そうした用途を満たしながら一番小さなサイズのクルマにしてお客様のニーズに応えたい。しかもベースがヤリスシリーズなので運転が楽しく、燃費が非常に良く、かつ多くの方が乗られるので、最新の安全技術もきちんと入れていく」。

オフロードでの走破性では、ハイブリッド車(HV)もガソリン車も雪道やバンク状の悪路などからの脱出能力を高めた本格4WD(4輪駆動)モデルを設定した。状況に応じてダイヤル式でモードを選択できるようにし、操作性も追求している。現状ではヤリスクロスより上級のトヨタの量販SUVにもない装備だ。また、車両安定制御装置のVSCに、高速走行時の強い横風によって車両が横流れするのを軽減する「S-VSC」と呼ぶ機能をトヨタ車としては初めて採用し、安全性能へのこだわりを見せている。

◆HVはリチウムイオン電池への転換で燃費性能にも貢献

試乗では、とくにHVがトヨタの1.5リットルHVとしては静粛性やリニアな応答性で、より洗練された印象を受けた。モーター出力は1.8リットルのHVシステムである『カローラ』シリーズの72PSを上回る80PSに高めており、反応の良い走りを支えているようだ。また、バッテリーは、コスト競争力や安定した性能によって長年、トヨタHVの主流だったニッケル水素電池からリチウムイオン電池(容量は4.3Ah)に切り替えられている。

末沢氏は「バッテリーは小さく、軽くなっただけでなく、充放電の効率が良いのでアクセルを少し戻すと直ちに充電が始まる。その分、燃費性能にも貢献している」と解説する。HVの燃費(WLTCモード)はもっとも良いグレードで30.8km/リットルであり、さすがにヤリスの35.8km/リットルには及ばないが、コンパクトSUVでは世界でもトップレベルの性能だ。

ヤリスと同じGA-Bプラットフォームによって、トヨタがTNGAで進める「賢い共用化」も進んだ。パワートレインのほか、車体ではフロアなどのアンダーボディーやドアのインナーパネルを共用しており、お買い得感のある価格設定にもつながった。首都圏の販売店関係者によると予約段階から受注は好調だとされ、登録が本格化する10月にはヤリスシリーズが登録車のベストセラーになるのが確実の勢いだ。

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