プジョー2008《photo by Automobile Peugeot》

◆売れ筋のBセグSUV、だがひとクセもふたクセも


この夏、伝統の小型ハッチバック『208』を上陸させ、注目を集めるプジョー。208には今どきの常としてリフトアップ版の派生ボディ、つまりSUVクロスオーバーが控えているが、それが2世代目となる『2008』だ。

いわばトヨタ『ヤリス』&『ヤリスクロス』やホンダ『フィット』&『ヴェゼル』、あるいはVWでいう『ポロ』&『Tクロス』のようなコンパクト陣営のツートップである。フランス本国の市場では、常勝ルノー『クリオ(日本名ルーテシア)』&『キャプチャー』を何度も王座から引きずり降ろすほど大人気を呼んでいる。というのも、2008は単なるBセグSUVクロスオーバーではない。ヒントは絶妙のサイズ感とポジションニングにある。

まず本国発表値では全長4300mmと、4200mmを超えることはなかったBセグSUVの平均値から見れば、かなり長い。対して全幅は1770mmとわりと標準的。2650mmというホイールベースは、同じPSAのCMPプラットフォームに基づく『DS 3 クロスバック』の2558mmと比べて+92mmと、これまた長さが際立つ。


よって後席の足元スペースも広ければ、5名乗車時でも434リットルという荷室容量を確保している。じつはこれ、『308ハッチバック』を上回るほどの荷室容量で、バカンス時の満積載というフランス人の標準的な使い倒し術を鑑みれば、上位モデルに対する明かな下克上だ。

おそらくDS 3クロスバックはアウディ『A2』に対抗して寄せていったが、4300×1770×1550mm+434リットルのプジョー2008は、フィジカル的にはほんの少しだけ大きい4355×1800×1555mm+468リットルのBMW『2シリーズ アクティブツアラー』を仮装敵にしているようだ。ICE以外の電化モデルとして、2008はEVを選べるが、後者は225xeというPHEVのみ。つまり2008は、プレミアムに食ってかかるBセグSUVの異端児でもあるのだ。

◆筋肉質な外観と質感の高い内装


まず目のいくフロントフェイスは、マトリックス照射機能を備えた三つ爪のLEDヘッドライトを備え、立て気味のグリルと高いボンネットに特徴づけられる。208に準じる新世代プジョーの顔つきだ。『508』にも通じるキバ状の日中走行灯は、ややエグ味を感じさせるポイントかもしれない。

が、今やフランス車が個性的なデザインだといっても、国産車のハイト系や某セレクションのやんちゃぶりに比べたら、随分と控えめで大人しいというか、どこ見た口でそう言うの!? 的な話ではある。というのも2008は、クロームパーツのような光りモノの面積の広さで勝負しているタイプでは全然ないからだ。

ボディサイドのウエストを絞ったドアパネルなどは兄貴分の『3008』/『5008』に通じるし、全体的に筋肉質とはいえ、前寄りから眺めるとフロントフェイスがけっこう大きめで、「子ライオン風」のファニーなSUVプロポーションは、「パロディっぽいSUV」という、モノホンの4×4とは絶妙の距離感を醸し出している。でも後寄りや横から眺めると、前述の通り全長もホイールベースも長くて伸びやかなので、無条件にカッコいい。


内装はダッシュボードの造形をはじめ、着座位置と視線が高い以外は、ほぼ208譲りだ。2段重ねのダッシュボードは乗員に対して切り立った角度で、包み込んでくるような感覚はまるで昔のポルシェ『911』のようですらある。

試乗車はGTというスポ―ティかつトップグレードだったが、ダッシュボード中段はカーボン目地を型押ししたソフトフォームウレタンで、さらに細いクローム、センターコンソール周りなど要所要所でコントラストを利かせる艶アリのピアノブラックなど、異素材の組み合わせ方が巧い。

まだコロナ禍以前の話だが、乗って撮ってしながら道行くフランス人にここまで声をかけられた車も珍しい。アクティブな雰囲気だがクオリティや落ち着きをも感じさせる、そんな質の高い内装は、確かに彼ら好みではある。かけられた声の大半は、「ぼくも/わたしも、買おうと思ってるんだけど(乗ってみて)どうだ?」というものだ。

◆Bセグ離れした落ち着きと豪快さ、動的質感にキュンと来る


ハッチバックより感覚的に頭ひとつ分ほど高いドライバーズシートに腰を下ろす。着座位置が腰高な分、乗り降りはハッチバックよりもしやすいが、シートに身体を預けてみた心地は、不思議とSUVに乗り込んだ風でもない。

というのも、手元の小径ハンドルの向こうには、プジョーが「i-Cockpit 3D」と呼ぶ、まるでホログラムのようにメーター表示が立体化された液晶パネルが見える。これは208と同様、液晶パネルを2枚用いていて、1枚は通常通り視線に対して垂直の正像表示で、もう1枚はバイザー内側の上面に寝かされ、針の動きなどの逆像表示を透明カバーにオーバーレイしている。

つまりヘッドアップディスプレイと原理は同じだが、ひと味違う新たなハイテク感で演出して見せたのだ。こういう仕掛けを考えさせたらラテン系はホント小狡くて上手いと唸らされる。効果も上々で、一度実物を見てみて欲しい。


プジョーでは近頃お約束となったバイワイヤのシーケンシャル式ATゲートをDレンジに入れ、走り出す。外径が690mm以上ある215/55R18というおよそBセグらしからぬサイズのタイヤで、銘柄もBセグらしからぬミシュランのプライマシー4を履いており、微低速での路面の凹凸を踏み越える動き、そしてしなやかな乗り心地は、これまたBセグという車格から想像される範囲を超えている。

ロングホイールベースの恩恵が早速出ているようだ。市街地を出て90km/h制限の国道を走ってみても、ハッチバックよりも足回りのストローク量が多く、段差のいなし方がずっと大人っぽいというか、懐が深い。吸い込みは速いがストローク量が必要十分かつ過不足がなく、伸びて戻る時の収束もほぼ一発で素早く収まる。剛性感たっぷりのボディと相まって、足回りに雑味がなく、乗り心地も素直なのだ。

ただし速度感応バリアブル式のハンドリングについては、少々クセがある。

◆潔いまでの先代との断絶ぶり


50km/h未満の市街地スピード域では、ステアリングのアシストが効き過ぎて、ちょっと軽過ぎる。ただしこれは、低い速度域での操作性というか、イージーさを狙ったものだろう。とくにシケインを通過するようにランナバウトで直進に抜ける、右左に切り返すような動きをする時、狙ったラインに微妙にのせづらいと最初は感じた。慣れの問題かもしれないが、プジョーでここまでソフトタッチのステアリングは記憶になかったので、多少なりとも面喰らった。

ところが市街地を抜けて速度域が上がるにつれて、2008は別の顔を見せ始める。ステアリングフィールとして、中立付近の座りもよくなるし、旋回に入る切り始めも鋭すぎず、舵角を増せば小気味よくノーズがインを向く。ようは速度域が上がるほどに、いつものしなやかでスムーズなプジョーらしいハンドリングが戻って来るのだ。

問題というか心配は、日本の法定速度域に対して、設定がちょっと高いかな…という辺りだ。縦方向には鷹揚だが、横方向には滅法鋭い、EMP2以来のプジョーのシャシーのよい傾向が、そのまま受け継がれているのだ。

ただ今回の試乗した仕様は、おなじみの3気筒1.2リットルターボのピュアテック+アイシンAW製8速ATという組み合わせながら、155ps・250Nmの「GT」というもっともパワフルでスポ―ティなグレードだった。日本市場に導入されたハッチバック208のガソリンが100ps・205Nm仕様だったことを思えば、やや大ぶりとなった車格に合わせるため中間の130ps・230NmいうDS 3 クロスバックと同じチューンとなる可能性がもっとも自然だろう。

ひとつだけ難をいうとすれば、ラミネートガラスをはじめ防音や防振に気を使ったDS 3 クロスバックよりは、エンジンの勇ましい唸り音は室内に入ってくる。DSとプジョーのキャラクターの棲み分けと思えば、納得の範囲ではあるが。


いずれ新しい2008で感じるのは、同じ名のはずの初代2008との、潔いまでの断絶ぶりだ。208SWというステーションワゴンのボディが登場せず、行き場を失った207SWオーナーをフォローするため、初代はSUV風クロスオーバーというジャンルそのものに、やや遠慮があったが、逆に今回の2008は同じSUVクロスオーバーとして目いっぱい、はっちゃけている。

実用面でも、静的にも動的質感でも、プレミアムを喰うという野心さえ正当化できるほどの一台に仕上がってきたのだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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