ボルボ XC90 T8 エクセレンス《写真撮影 土屋勇人》

◆ちょい派手オーラを放つ「XC90 T8」は極レアの証


某日、芝大門のボルボ・カー・ジャパンを訪れた時、ある『XC90』に駐車場で目が釘づけになった。聞けば2016年に導入した『XC90』の最高級モデルで、当然T8ツインエンジンAW仕様の最強版パワートレインを積むが、2列目シートが2人がけで3列目シートはなく、代わりに荷室と後席の間がパーティションで仕切られている。つまり、『7シリーズ』や『Sクラス』といったサルーンに用意されるようなロングボディ版でこそないが、後席にフォーカスしたショーファー・ドリブン仕様のフラッグシップSUV、それが「XC90 エクセレンス」だ。

サルーンたる『960』がフラッグシップだった時代は、ボルボもホイールベースを伸ばして4人乗りの「ロイヤル」を揃えていた。SUVが最上位モデルになった今でも大人4人乗りのハイエンドを作っていたことは、恥ずかしながら今頃に知ったと同時に、意外でもあった。


アルミニウム張りのB/Cピラーは一瞬、初代ポルシェ『カイエン』を思い起こさせる。他にもフロントグリルやドアハンドルの台座、21インチのホイールが、同じハーフポリッシュ仕上げで、全体的に抑えの効いた光沢が目を引く。ちなみにホイールはスポークの間が広くて掃除しやすい形状ながら、スタッドだけフルポリッシュで光っているところも、数奇者のツボを心得ていると感心させられる。

他に外観から特別なXC90だと分かる手がかりは、テールゲート右下の「EXCELLENCE」エンブレムのみ。滅多にないことだが、こういう車である以上、今回はリアシートから試乗を開始した。

◆車内環境の造り込みに然るべき手間がかけられている


センターコンソールで隔てられたリア2座のシートは、大ぶりでフロントシートと同様の骨格と見える。座面から背面はパーフォレーション仕様のナッパレザー張りで、エクセレンス専用の幾何学模様があしらわれている。さらにヘッドレストにも「EXCELLENCE」のエンボスがあり、ドアを開けて着座するまでの刹那に、オーナーは所有する満足を新たにし、ゲストには普通のXC90との違いを、あくまでさりげなく感知させる。

着座姿勢は、ヒップポイント深めで8ウェイのパワーシートなので、文字通り身体を預けながらあらゆる微調整が効く。シートヒーターやベンチレーションも当然備わり、フィジカル面での至れり尽くせり感は、この上ない。

ところが優れた座り心地で乗員をおもてなしする態勢は、エクセレンスの造り込みの一部というか始まりに過ぎない。リアウィンドウにラミネートガラスを採用し、防音・防振材も見直すことで静粛性が格段にアップしている。「セレニティ」そのものの平穏さに、輪をかけて包み込み効果を発揮するのが、ノーマルなら樹脂が出ているところをレザーで覆われたフロントシートの背面だ。

よく見ればルーフのグリップハンドルもレザー張りで、ピラーからルーフにかけて内張りはすべて、ファブリックではなくヌバック風の起毛素材仕上げ。ようは視界に入ってきたら台無しというプラスチックの質感を、徹底的に排除しているのだ。

◆ビジネス以上ファースト未満の後席


リアシートの最適化は、受動的な質感だけに限られない。センターコンソールの手元に配されたアルミニウムを押すと、コントロールパネルがポップアップ・スライドで現れ、何なら助手席を指一本で前に動かして足元を拡げるという、御主人様プレイも可能だ。

さらにコンソールの上部カバーを開けると、レザーのタブ×左右2つが現れる。旅客機のビジネスクラスよろしく、引っ張り出すと折り畳まれて格納されていたテーブルが展開する。書類にサインしたり軽いツマミを置いたりするのに、十分な広さだ。レザー張りの天板はアルミニウム製の精密なフレームに支えられる、剛性感たっぷりの造りで、腕をのせたり肘を預けたいしてもビクリともしない。


だが極めつけはセンターコンソールの上部カバーを閉めた時、バウアー&ウィルキンスのスピーカーが収まるアルミカバーの下に注目したい。エクセレンス専用と思われるスピーカー×1がちゃんと入っていたことにも驚くが、左右シート間のウッドパネルを開くと、奥に750mlの標準的なワインボトル2本とシャンパンフルート2脚を冷やせる、クーラーボックスが備わっている。

ビッグな契約を結んだビジネスパートナーと祝杯なのか、侍らせた美女・美男との乾杯なのか、いずれ想像力や欲望を逞しくさせる装備であることは間違いない。ちなみに固定脚の無いフルートと、それを射して固定するホルダー側のクリスタルガラスは、ボルボではお馴染み、オレフォス製となっている。


かくも贅の限りを尽くされた後席2座だが、ひとつだけ弱点は、オーディオのコントロール・コマンドだけが手元に与えらず、ボリュームやサウンド調整には前席を介する必要があることだ。とはいえ、前席ヘッドレストにはタブレットホルダーが据えられているので、Bluetoothで音を飛ばして手元で選曲や選局といった操作には別に苦はないのかもしれない。


それにしても撮影車両にはエクセレンス専用オプションではないが、テンピュール風の低反発素材のネックピローが備わっていた。これを首にかけて後席に身を沈めると、柔らかな座り心地と包まれるような身体ホールドにブーストがかかってしまう。

走行中の静けさと柔らかな揺らぐ乗り心地も相まって、自然と効いてくる眠りの重力に、編集担当もカメラマンも移動中にあっさり落ちた。マスクの向こうに開いた口元がありありと見えるようだった。

◆ボルボ流ショーファードリヴンとは

こうして運転席に移って気づいたのだが、ショーファー・ドリブンのようで、エクセレンスはドライバーズ・カーでもある。というのも内装の設えが増えた分、車重総重量はじつに2590kgに達したが、重さが悪い方向に効いているどころか、逆にノーマル以上の落ち着きと踏み込んだ際の勇ましさという、メリハリをもたらしている。バイワイヤのブレーキのタッチも秀逸で、停止の瞬間まで踏み続けてもカックンにならないよう、静止直前にリアをつまんで水平を保つようなチューニングも、こなれている。


SUVという性質上、ビジネスシーンで本気で使うショーファー・ドリブンだけでなく、家族や友人を記念日に喜ばせるために乗せるとか、サルーンよりもプライベート使用が似合いそうだ。いうなればバーカウンター付きのリビングのような、寛ぎとサービス精神がXC90 エクセレンスには漂っている。

しかもXC90 T8 インスクリプションAWDが1129万円で、エクセレンスの1359万円は価格差にして+230万円。それでこれだけ良質な造り込みを味わえるのだから、大家族でなければという条件付きながら、かなりの買い得感も漂ってくる。癖のあるリフォーム物件にも似て、ひとたびハマれば奥行きある楽しみ方ができる、そんな一台となるはずだ。

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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