本田技研工業が販売する軽自動車『N-WGN(エヌワゴン)』と『N-BOX(エヌボックス)』のシートに採用されている、「アレルクリーンプラス」生地を使ったオフィスチェアが、7月30日に内田洋行より発売された。
このオフィスチェアの発売に伴い同日、東京のHondaウエルカムプラザ青山にて『Honda×内田洋行 座談会』が行われた。自動車のシート素材がオフィス家具に採用されるというのは、極めてまれなことで、なぜアレルクリーンプラスの生地が採用に至ったかなどの開発秘話が語られた。
今回のイベントには、オフィスチェアを発売した内田洋行から、オフィス商品企画部部長・門元英憲氏、本田技研工業から、知的財産・標準化統括部 アレルクリーンプラス商品化担当・森隆将氏、四輪事業本部 ものづくりセンター アレルクリーンプラス開発責任者・林里恵氏が出席した。
まず林氏が登壇し、アレルクリーンプラスの説明が行われた。このアレルクリーンプラスというのは、シート布地上に蓄積・付着したインフルエンザウイルスや、アレル物質のタンパク質を不活性化する加工剤を施した布地だ。ダニ、スギ花粉の低減、インフルエンザA型ウイルスの低減といった効果があるため、春先の花粉症の時期、梅雨から夏場にかけてのダニの流行シーズン、冬場のインフルエンザの流行時期など、1年中効果を発揮できると期待する。
非常に有用な効果を発揮するアレルクリーンプラスだが、抗アレル剤、抗ウイルス剤の加工剤の選定には苦心したようだ。人体への安全性、熱や光に対しての安定性、生産のしやすさなどのハードルがあり、200回以上のテストを経て素材が完成したという。
◆なぜ、この2社の組み合わせ?
次に門元氏が、内田洋行の取り組みや、アレルクリーンプラスを採用するに至った経緯などについて語った。内田洋行は2012年から働き方変革のコンセプト「アクティブ・コモンズ」を提唱している。これは働く人が、業務に応じて最適な機能や場所を選択するという考え方だ。2016年以降、オープンスペース、フリーアドレス化など働く環境に変化があり、アクティブ・コモンズ推進に向けて、オフィス製品に応用できる抗ウイルス機能や花粉症に効果的な新素材を探していた。
そんなとき、本田技研工業と内田洋行の知財部の担当者同士が知り合いだったこともあり、自動車のシート素材をオフィス家具に転用するための情報開示を両社で行い、試作や検査を繰り返し採用・商品化が決まったとのこと。
また、内田洋行の『ワーカーが中心のオフィスづくり』『ワーカースタイルに合わせた環境作り』と、本田技研工業の『人が中心のクルマづくり』『生活スタイルにあわせてN-BOXが選べる』というコンセプトが合致していたことも、採用のポイントだったと語られた。実際にオフィスチェアを製造する際には、自動車のシートの場合、立体的に縫製するスタイルが取られるが、オフィスチェアの場合、1枚のシートをはり包むように作られるため、素材の加工の仕方で苦労したという。
着座耐久性のテストなどは、自動車用シートならではの熱への対策や、摩耗の対策などが行われているため、期待以上の性能を発揮していたそうだ。
続いて座談会では、森氏が、このプロジェクトのいきさつを語った。森氏の所属する知財部では、「ホンダがよいプロダクツだと思っているものは、他メーカー様でもきっと役に立つのではないか? 協業すればよい製品をお客様に届けられるのではないか?」という思想を元に、まずはアレルクリーンプラスを自動車のシート以外で役に立てられないだろうかと考えていたところ、知財部の知り合いが内田洋行にいたということもあり、本田技研工業から内田洋行に提案する形でスタートした。
◆素材の流用はそんなに簡単ではない
この提案について門元氏は、普通の案件は営業部が話を持ってくることが多いが、知財部が話を持ってくるというのは、印象的だったし、話を進めていく中で、本田技研工業と内田洋行のものづくりの方向性が同じだったことは、このプロジェクトを進めることに大きなポイントだったと語った。
またこのプロジェクトがスタートすると聞かされた林氏は、自動車用に開発を進めていたシートが、オフィスチェアに使われることになって驚いたという。そもそも自動車用なので車内温度が80度近くになっても耐えられるような耐熱性や、シートから乗り降りするときに生地が破れないように、耐摩耗性に特化したものだったので、オフィスチェアに使えるのかはわからなかったとのこと。
一方で、業種が違うが故にプロジェクトを進めていく中で困ったことのひとつとして、カラーバリエーションを決定する際には、プロジェクトが停滞してしまったとのこと。オフィスチェアはブラックやブラウンといったシックな色味だけでなく、ピタミンカラーのような派手なシート色も用意されることが多いため、自動車のシートでは想定されていない色味が必要だった。
とはいえ、改めてピタミンカラーなどを製作するとなるとコストが跳ね上がり、耐色性のテストなども必要なため開発期間が大幅に伸びてしまう。そのため今回は、自動車で使われているものと全く同じ色味の生地を使って製造しようということになったとのこと。
座談会の最後には、進行役に今後の目標について聞かれ、門元氏は、「コロナ禍のせいでオフィスのフリーアドレス化などが急速に早まっている。内田洋行としてはどのような環境下でも、ワーカーに快適なよい空間を作っていくお手伝いをしていきたい」と述べた。
林氏は、「今回のプロジェクトにたずさわったことで、自動車のシートだけを開発するといった考え方ではなく、もっと広い視野を持った開発を心がけていきたい」と語った。
アレルクリーンプラス使用のオフィスチェア
『Elfie』 価格帯:7万1700〜10万5700円(税別)
『KRENE』 価格帯:5万8900〜6万2200円(税別)
『Blume』 価格帯:5万2200〜6万2700円(税別)
『FM-345』 価格帯:4万2000〜7万円(税別)
『FLP』 価格帯:6万3000円(税別)
車の抗ウイルス生地を使ったオフィスチェアが登場 ホンダと内田洋行の開発者が語った
2020年08月02日(日) 09時00分
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