ボルボ XC90 B5 テイラードウール エディション《写真撮影 中村孝仁》

全てのラインナップを電動化すると公言して憚らないボルボ。つい先ごろ従来のPHEVよりは少し緩やかな48Vマイルドハイブリッドを『XC60』に追加したのに続き、今度は『XC90』にもそれを設定した。

◆積極的に「B5」をチョイスする理由は十分にある


実は機構的にはXC60のそれと何ら変わりはない。即ちGen3に進化したDrive-Eの2リットル直4 ICE(内燃機関)に、ISGMと呼ばれる0.5kWhのリチウムイオンバッテリーと電動モーターを組み合わせ、トルクブースト、オルタネーター、ブレーキ回生などの役割を与えたもの。XC60の時にも説明したように特段性能が上がるわけでも燃費が上がるわけでもない。

だから、敢えてこれを選ばなくても…と言うのが結論めいたお話になるが、とはいえ僅かながらでも電動化の恩恵で環境に貢献していることや、多少価格はアップしているものの、新しいGen3のエンジンは実質的には大きく改良されているし、やはりISGMによる停止時からの発進は至ってスムーズであるなど、積極的にチョイスする理由は十分にある。

XC60の時とは異なり、今回はエアサスではなくボルボ独自のリアに横置きリーフスプリングを用いる仕様だ。エアサスに試乗した時その抜群の乗り味に、ついにボルボがエアサスを手懐けたと思うと同時に、SPAプラットフォームが完成の域に達していることを実感したが、今回の板バネ仕様でも十分な快適さが確保されていることを確認した。勿論エアサスほどの乗り心地ではないが、十分に快適である。



◆「高級ファブリックシート」を採用する理由

それだけではない。今回の試乗車は「テイラードウール エディション」という、ファブリックシート仕様のモデルである。なんだ、廉価車か…と思うなかれ。実は全くその逆で高級グレードである。

多くの読者は本革=高級車というイメージを持たれていると思う。まあ、現代の感覚ではそれは正しくて、ファブリックシート=スタンダードもしくは廉価版的イメージが強い。しかし、昔はその逆。いわゆるショーファードリブンカーと呼ばれて、運転手によってドライブされて、主はリアシートに座るクルマの場合、ドライバーズシート、即ちショーファーの席は本革だが、主の座るリアシートはファブリックというが当たり前であった。それどころかドライバーズシートにはルーフが付かず、後席のみルーフ付というのもショーファーカーの普通の姿だったのである。


というわけで、ファブリックは本来高級の代名詞と言っても良いわけで、昭和天皇がお乗りだった『メルセデス770』も、玉座には西陣織のシートが設えられていた。今回のテイラードウール エディションは、新採用の「テイラードウールブレンド・シート」という、ウール30%とリサイクルポリエステル素材70%で作られた上質なテキスタイル布地を用いた最上級のファブリックシートということで、従来ボルボが設定した最上級「ファインナッパレザー」と同等価値の位置付けだそうだから、皆さんも驚くだろう。しかもそのコストも安くないという。

では何故ボルボはこの新素材ともいえるファブリックシートを採用したのか。それはボルボが環境への影響を最小限に抑えることを目標に、2040年までに気候のバランスを崩さないクライメートニュートラルな製造業となることを目指している点。同時に動物の皮革を採用することによる自然への影響も考慮されているのではないか?というのがその理由であるようだ。

後者に関しては公式にボルボが公表している理由ではないが、本木目ですら、木材の伐採で自然破壊だと叫ばれる昨今では、革を取るために動物を殺せば当然環境保護団体からのクレームがいずれは出るであろうし、今回のリサイクル素材を含む新たなシート素材の開発によって、持続可能且つ新たな価値観の創造にもチャレンジしているようである。この取り組みはボルボの新しい価値観である“サステナブル・スウェディッシュ・ラグジュアリー”を表現しているのだそうだ。

◆70年代のメルセデスを思い出す座り心地


従来の高級ファブリックと言えば、例えばベロアだったりあるいはモケットだったりしたわけだが、この新しいテイラードウールの肌触りは極端な話、綿のような感触である。テンションはかなり強く、座っても体重60kg+の体はシートがグイッと押し下げられるという感覚が無い。

思い出したのはかつてのメルセデスの座り心地だ。メルセデスも70年代あたりまではファブリックシートが当たり前だった。そして座り心地は硬く強いテンションを持っていた。ところがこれで長距離ドライブをすると、不思議と疲れず腰の痛みもなかった。今回のXC90もまさにその感触である。

今回は限定僅か15台だそうである。だから、この原稿が出るころにはもしかすると売り切れているかもしれない。シート地は淡いブルーグレーのような色調だったが、本革以上に多彩な色彩を出すことが可能と思われるので、いずれ車のシートもこうした方向に進んでいくのだと思う。

サスティナビリティということを考えた時、動物の皮革をいつまでも使い続けることが果たして良いことなのか?というボルボの提案から生まれた新素材ともいえる今回のテイラードウール。これを機会に色々なファブリックの新素材が生まれてきそうな気がする。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファーデプト代表取締役も務める

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