トヨタ グランエース(右)とアルファード(左)《写真 雪岡直樹》

◆アルファード/ヴェルファイアの不満を解消する後部座席

居住性の最も優れたミニバンは、『アルファード/ヴェルファイア』とされるが、3列目の快適性は2列目に比べて大幅に見劣りする。3列目は左右に跳ね上げて小さく畳むことに重点を置くためだ。頭上と足元の空間は広いが、シートの柔軟性は乏しい。

また床と座面の間隔が不足しているから、足を前方に投げ出す座り方になってしまう。5名以上で長距離を移動する時は、時々席替えをしないと不公平になりそうだ。あるいは2台のクルマに分乗する必要が生じる。これではミニバンのメリットも薄れる。


この不満を解消したのが『グランエース』だ。6人乗りのプレミアムは、2列目と3列目の両方に、電動オットマンなどを備えた豪華なエグゼクティブパワーシートを装着した。厳密には3列目の天井は2列目に比べて少し低いが、シートの造りは2/3列目ともに共通で、足元空間も十分に広い。従って席替えの必要もない。また1列目も相応に快適だから、大人6名が乗車して、長距離を快適に移動できる。

◆重量級のボディでも、パワー不足を感じない


エンジンは『ランドクルーザープラド』などと同じ直列4気筒2.8リットルクリーンディーゼルターボで、1500回転以下でもターボにありがちな駆動力の低下を抑えた。1600回転を超えると余裕のある駆動力が沸き上がり、2700kgを超える重量級のボディでも、パワー不足を感じない。しかもノイズや振動が小さく(6人乗りのプレミアムは合わせガラスで遮音効果を一層高めた)、通常の走行ではディーゼルをほとんど意識させない。

ボディが重く、全高も1990mmだから重心も高いが、ブレーキを作動させた時でもボディの前後方向の揺れは小さい。背景には商用車の入念な造り込みがある。高い負荷に対応すべく、ボディ剛性も高めたから、多人数で乗車しても走りの変化が少ない。

走行安定性も同様だ。カーブを曲がる時にはボディが相応に傾くが、唐突な挙動変化は生じないから安心できる。全幅が1970mmとワイドだから、取りまわし性は良くないが、カーブを曲がる時の不安感は抑え込んだ。

◆改善すべきは50km/h以下での快適性


乗り心地も重厚感が伴って快適だが、時速50km以下ではタイヤの硬さを感じる。タイヤサイズは17インチ(235/60R17)で、銘柄は商用車用のブリヂストン・デュラビスR660AとダンロップSP・LT30Aだ。3トン近いボディと6名の乗員をこのタイヤサイズで支えるため、指定空気圧は前輪が300kPa、後輪は350kPaに達した。ここを改善すれば、快適性は極上になる。

グランエースは、5〜6名で乗車して、長距離を頻繁に移動する用途にピッタリだ。6名乗車時の居住性を徹底的に高めたので、ミニバンの本質を突いたクルマともいえるだろう。トヨタは『シエンタ』/『ヴォクシー』系3姉妹車/アルファード&ヴェルファイアとミニバンを豊富にそろえるので、グランエースの追加により、さらに幅広いニーズに対応できるようになった。



■5つ星の評価
パッケージング:★★
インテリア&居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★

渡辺陽一郎|カーライフ・ジャーナリスト
1961年に生まれ、1985年に自動車雑誌を扱う出版社に入社。編集者として購入ガイド誌、4WD誌、キャンピングカー誌などを手掛け、10年ほど編集長を務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様に怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。

トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》 トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》 トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》 トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》 トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》 トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》 トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》 トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》 トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》 トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》 トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》 トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》 トヨタ グランエース《写真 雪岡直樹》